第20話 増えたハンカチ。

ウキョウからは警備について謝られ、ヒグリから倒れたのは心労だと言われた。

実感が湧かなかったが心が疲れていたらしい。

病院のベッドで目覚めた時、自分が倒れていた事に気づいて驚いてしまった。


ミカとシーマの死よりも疲れたのは、葬儀やその後の重役達との事。ミカの死で立場が復権したビーコの事だった。


葬儀は何も知らないからとヒグリに任せたら快く手配してくれた。

1番艦の皆に、2番艦からはヒンが参列してくれて俺は頭を下げた。

形見分けと言われて、何故か俺はまたハンカチを貰った。


リーヤ、ミカ、シーマ、もう三つのハンカチが俺の手元に来た。


後はシーマが撮影していた、あの日5人での食卓の写真は、無くしても構わないからと言ってヒグリに保存してもらった。

もう2度ほど見させてもらったが、見ただけで心がおかしくなりそうで、でもまた見たくなってしまって怖くなった。


重役達は俺の心労なんて知ったことではなく、新しいメイドを用意しようとしてきて、ウキョウが止めてくれた。


「女の事で癒せるのは女だけだ」なんてスミセンは言ってきて正気を疑った。

多分重役と俺達は見た目だけ似た存在なのだろう。

中身は全く違う。


そしてビーコはミカが死に、新たにメイドを迎える気がなければ妻になってやると、ヒグリを通じて言ってきた。

これにより、嫌でも新規のメイドを抱く事になってしまい、スミセンの用意してきたキタコというメイドを抱いた。


見た目は夜伽部だけあって美しい女だが、どうしても今は感情を曝け出したい気分ではなくて、「今どうしても心を開こうとは思えない」と伝えて、「お互いに仕事でするなんて申し訳ないと思う。頑張るからせめて満足して欲しい」と伝えてから抱いた。


身体は正常に反応したが、リーヤとミカとシーマの顔と喜ぶ様を思い出して陰鬱な気分になった。


その翌日。

俺はことの顛末を聞きに本社に顔を出した。

なんか情報が小出しで、いつまでも疲れが癒えないと思っていると、表情から察したヒグリから、「今君の心は疲弊している。一度に大量の情報は良くないんだ」と言われてしまった。


心の疲れと言われても実感はない。

気持ちはずっと悪いが、それだけで、何かにつけてリーヤとミカとシーマの事を思い出してしまうだけだ。


話はナンセンやトウヨの事だった。

あの2人は住宅街で確保された。

なんでもデリトや2番艦の連中にはついていけないから、助けてくれと重役の所に泣き付きに行っていた。


確保される時も抵抗せずに進んで保護を求めてきたので、極刑は免れていた。


「どうするべきか意見をもらいたくてね」というヒグリの言葉に、「使い道ですか?3番艦とか作って捨てるか…」と返した俺は一つだけ思い付いたと言ってから、「2番艦がサヨンの陸上戦艦よりマシなら、2番艦をサヨンに渡して、あの陸上戦艦にトウヨにナンセン、後は反逆者とか態度の悪い奴を入れて、危険な任務に就かせたらどうですか?」と言ってみた。


「成程。目に見えた罰則か…。悪くないね。もしかしたら評価アップを目指して努力するかもしれないしね」


こうしてマッシィータは2番艦をサヨンに渡して、サヨンはオーバーホールしたての陸上戦艦を奴隷船のようにしてマッシィータとサヨンにいる、扱いにくい船員や社員、重役、罪を犯した重役とその家族を押し込んで、出向という形をとって、他企業から依頼を募り、本来の意味とは違う、激戦地や無法者の多い危険地帯へと行かせることにしてしまった。


移動もあるので1ヶ月かかり、久しぶりにサンワさんやカヤさん、カスカンさん達に会えてホッとした。

向こうでも噂になっていたらしく、皆が俺に一言ずつ慰めの言葉をくれた。


中でもサンワさんの「相手の娘の事はわからねえが、リーヤの事ならわかる。リーヤは身構える相手に、「全部教えてやったのは私だ」って言いながら仲良くなって、子供の居た娘には羨ましがって、もう1人の娘には「どっちが先に子供を授かるか勝負だな」とか言ってたよ。お前を愛した女達は向こうで幸せに過ごして、お前の活躍と長生きと幸せを願ってるからな」と言った言葉には慰められたと思う。


この件で少し笑えたのは、ホームで重役と同じ扱いを要求してきていたビーコは、両親と奴隷船の重役住居に住む事になってしまった事だった。

一応ビーコがいる事で、船は危険地帯には行くが、常に最短で寄港する事が決められていて、臨月には下船が認められる事になった。


本社がビーコを雑に扱っている気がした。

その理由はすぐにわかった。


まだ1ヶ月だと言うのにキタコは妊娠していた。

これには2番艦を下船して1番艦に赴任してきたヒンが、「すげぇ種馬」と揶揄ってきた。


俺はキタコの子供を愛せるのだろうか?

そう思った時、スランプに陥った。


ウキョウから、デリトに行った阻害を見せて欲しいと頼まれたが、出来なくなっていた。

能力の測定値はオール9になっていた。

それでも特定の能力が使えなくなっていて、ヒンとカヤさんとヒグリの出した結論は心因性のもの、ストレスなんかだろうという話になった。


出来ることだけでも9ランクの暮らしを許されたが、それすらも心苦しい俺にヒグリがある提案をしてきた。


「先に重役の許可を得てきたよ。トゥシバーに行こう!」

「は?」


「今の君には心の静養と、心の勉強をして貰いたいんだ」

「それがこの話にどう繋がるんです?」


「新天地で心機一転さ。マッシィータに居てもらいたいが、ここにいると今はミカさんとシーマさんを思い出してしまうだろ?だから新しい土地で新しい出会いをして貰いたいんだ。これは前から考えていた事でウキョウと一緒に立案していたんだよ」


ヒグリの奴は愛について質問をした日に、俺に足りないものが見えた気がすると言って、俺に沢山の経験をさせたいと言っていたと言う。


「俺が抜けても平気なんですか?」

「航路の見直しからやる事はたくさんあるからね」


どのみち拒否権はない。

従うと「大丈夫。トゥシバーはひと月だけ出向した事があって、雰囲気は見てきているよ。あそこは出向者が多い企業で、いろんな技術を交換しあっているんだ。きっと沢山の経験が出来るよ」と言われる。


「期限は?」

「んー…、かなり面白い人間って売り込んでおいたから一年かな?それ以上はトゥシバーが破産しちゃうよね」


笑うヒグリを見て、どんな値段を付けたのか怖くなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る