第41話 コウワvsカオス。
オンボ艦の中ではコウワが戦闘準備を行っていた。
オンボの凄いところはどの分野も一級品を取り扱っている所で、問題点は以前ヒグリが話した通り、金額と耐久性に難がある所になる。
suspectシリーズを艦主砲と副砲に転用する行為はやはりオンボも考えていた。
そしてマッシィータよりも優れていたのは人工知能を駆使する事で、艦制御を魔法力さえあれば制御できる所にある。これならリーヤの事故のようなものも起きずに、ブリッジにもコウワ1人が詰められれば後はほぼ不要になる事だった。
コウワは徹底してダイキュシリーズ…シルバーズに仕事を教えて、第三者の介入をさせなかった。
それもあってここまで反発も起きずに来られていた。
「艦制御をオート、入力は音声入力を優先」
コウワは眼前に迫るカオスを見ながら「待っててね。もうすぐよ」と呟いていた。
コウワにも事情があった。
だが、だからと言ってそれで許される程の事ではない。
コウワはカメラに向かって「皆さん、もう後数時間で会敵距離になります」と言う。
通信が生きているのは移動しながら中継機を大地に打ち付けてリレー通信をしているからで、通常ならこんな極北に存在する魔物のエリアに通信は来ない。
「全世界の皆さん。これから人類の土地を取り戻して参ります」
そう言ったコウワは、連れてきた14歳の時にランク4だった子供達が列になって並ぶ映像に切り替えて、銀髪のダイキュ達に戦意高揚剤を投与させていく。
目の色を変え、身体を震わせ呻き声を上げて、泡を吹きながら立ち尽くす少年少女の姿に全世界は引くが、コウワは「これは必要な犠牲。彼らはそれを受け入れてくれました。彼らを止めるのではなく応援してあげてください。応援が力になります。無論私も戦います。万一私が生き残れば裁かれましょう!」と言い切った。
1時間後、再び映されたのはブリッジで、白衣から戦闘用の服に着替えたコウワが、「6番隊。副砲機銃エリアに、小型水晶に火魔法を込め続けなさい。AIスグゥイ。アルファとベータが主砲を発射後に適宜魔物に向けて機銃発射。目標は機銃で破壊寸前に持ち込める敵に限定。それ以外の大物はシルバーズが、小物は小隊メンバーが倒します」と言い、機械音声で「命令受諾」と返ってくる。
コウワは横にいるウラと金髪のダイキュに、「アルファ、ベータ、ここまで着いてきてくれてありがとう」と言うと、2人は感情のない機械のような受け答えで「先生は間違ってないです」「人類に勝利を」と言う。
「あなた達の力を見せてやりなさい。この映像はナイン…お父様も見ているわ。あなた達の先制攻撃が開戦の狼煙よ。さあ、主砲を撃って」
「はい。行ってきます」
「お父様…、行ってきます」
「総員!状況開始!シルバーズはスグゥイが倒しきれず弱らせた個体の始末!小隊員は小物を狙いなさい。アルファとベータの主砲発射に合わせて艦は現在地に固定。即時出撃!」
それから主砲はすぐに放たれた。
巨大な火炎弾がカオスに撃ち込まれると、蜂の巣を突いた時のように一斉に魔物達が溢れ出てきた。
この世の終わりのような映像。
全世界が息を呑む。
コウワだけはひきつりながらも高揚した顔で、「これだけ居たんです!人類は常に危険が隣り合わせていました!」と言った後は、ひたすら「殺してやる」と言いながら攻撃指示を出す。
初手は間違っていなかった。
現れたハウスバッファローもハウスタートルもキチンと撃ち漏らさずに全てが肉塊に変わっていく。
この映像を見ている各企業の重役達はもうつまらない算段を始めていた。
コウワがアーカイブしていた戦意高揚剤のレシピを見て自社生産を命じ、オンボにsuspectシリーズを買いたいと言っていた。
そしてオンボが企業のトップになる事を考えてゴマをする者も現れる中、…古参企業達はこの状況を良しとせず、マッシィータの2番艦、報告ではオール15オーバーを叩き出したノウエ・マッシィータに事態の収拾を命じていた。
それにはもう一つの理由があり、クローンのレシピ、クローニングの手順はアーカイブされていたが、ダイキュに関係するクローニングは資料制作者のコウワによってアーカイブから削除されていて、コウワを呼び戻してダイキュの基本情報とクローニングのセッティング。そして調整方法を聞き出す必要があった。
正直ダイキュは金になる。
戦闘用に売ることもできるし、ビーコ・マッシィータの美貌を受け継いだダイキュは愛玩用としても素晴らしい見た目で、ダイキュ1人で不安定な14歳のランク4の子供達を買い上げて無理に育てる必要がなくなる事は誰が見ても明らかだった。
だが人類が余裕を見せられたのはここまでだった。
カオスから見たこともない魔物が飛び出してきた。
狼のような体毛と爪、尾は蛇で、それも一本ではなく沢山の蛇が絡まって1本に見えている。
頭は多頭で、狼だけではなく豹に見える頭やハイエナに見える頭をしていて、現れるなりダイキュ達を無視して出来上がった肉塊に飛びついて食べ始めると遠吠えを行い、カオスからまた更に同種の魔物が飛び出してきた。
大きさは観光バスサイズで、それが15匹近く現れて肉塊を貪り食っていた。
初見の魔物に驚きつつも「スグゥイ!戦力を把握します!機銃掃射!」とコウワが指示を出し、機銃が放たれるがあまり効きがよくない。
そして攻撃をしてしまった結果、弾を喰らった1匹は狙いを艦にしてしまい迫ってきた。
「5番隊!奴を倒しなさい!」
コウワの指示で肩に「5」のナンバーが付いた10人のダイキュと100人の少年少女が前に出て各々がさまざまな攻撃を喰らわせる。効果的なのは雷撃だったが手持ちのsuspectはコウワの指示で火炎弾になっていた。
それはコウワの目的がカオスを焼き払う事で火に拘っていたからだった。
「5番隊が時間稼ぎをしている間に、3番隊は帰還して雷撃弾に換装して再出撃!4番隊は3番隊が戻るまでに雷撃弾を装備して、3番隊の帰還と同時に出撃!」
予備にしていた4番隊を出撃させている間に5番隊は死屍累々になっていた。
この魔物、後にチャウダーと名付けられた魔物は、獣の部分を破壊してもその場で樹木のように蛇の部分が根付いて攻撃を仕掛けてくる。
丸呑みや毒の攻撃を仕掛けてきて、今も1人のダイキュが体を紫色にしてパンパンに腫れ上がって死に、少年少女は丸呑みにされ、別のダイキュは左腕を狼部分に食いちぎられていた。
絶叫をあげて苦しむダイキュに、コウワは「51番、さようなら」と言うと端末操作を行う。
ダイキュは目を血走らせると「グォォォッ」と呻き声をあげてありえない速度で前に飛び出して、チャウダーを痛めつけた後で自爆をした。
ダイキュが着ているのはセクシーな戦闘服ではなく魔法戦闘服になっていて、コウワの端末から指示を出すと、爆発的に魔法力を吸い上げてダイキュ自身を凶暴化させて特攻をしかけさせて、最後にはオーバーロードによる自爆をけしかけるモノだった。
だがチャウダーは豹型の首と数匹の蛇を失っただけで健在だった。
「まさか…。マツザウロスでも粉砕できる威力よ?陸上戦艦も航行不能にする程なのに…」
コウワは見誤った相手の戦力に撤退を余儀なくされたが、人類の為に引くことは無かった。
生き残りの5番隊を全部オーバーロードさせてなんとか一体のチャウダーを破壊した時、「サンプルを拾ってデータをホームに送ってあげたかったわね」と口にするコウワ。
コウワは無意識に敗北を意識していた。
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