第35話 コウワの計画。
俺はメアリの言葉に救われた気になって明るい気持ちでコウワの部屋を目指した。
部屋の中には地獄が待っていた。
メアリと話した後の地獄。その高低差で早速倒れそうになった。
部屋の中はダイキュで埋め尽くされていた。
ダイキュは18歳位の姿形で、髪色は蜂蜜色から銀髪に変わっていた。
マジマジと見る俺に「あら、言わなかったかしら?戦闘用にカスタマイズしたダイキュで部隊運用をする事になったのよ。キチンと報告書もアーカイブ…ああ、マッシィータは見てなかったわね」とコウワが言う。
ベッドに眠る10人のダイキュ。
その寝顔は俺の上で死んだ大人のダイキュにも似ているし、今もメアリと過ごしている娘のダイキュにも似ている。
「戦闘用?」
「ええ、この子達は7thロット。もう前の6ロットは実戦投入して戦果も出してくれている。
今は多角的に作戦を始めていてね。ほら、オンボって色んなモノが先端技術じゃない?衛星を飛ばしたら魔物達のホームを突き止めたのよ。小規模な奴じゃなくて大規模な奴。それで討伐に向かいたいのよね」
聞いていてどうにかなりそうだった。
俺がカッとなって「お前!」と言うと、「何?人道とか言うの?それは人対人の時に使う言葉よ。魔物相手にそんな事言ってられないわ。それにダイキュなら貴方が育てている。だからいいの。それともなに?よその低ランクの子供を奪って来て、戦闘を仕込んで使い捨てた方がいいかしら?そっちの方が余程反人道的だわ。ダイキュは貴方の娘。それも数少ない成功例。生半可な魔物になんて負けないわよ」と即座に言い返された。
俺も長い付き合いで、コウワが止まらない事を知っているからか、話を聞きながらダイキュの事を諦めていて、別の疑問が頭を支配してコウワに聞いてしまう。
「なあ、なんでダイキュなんだ?」
「あら?今度は何の話?」
「どうしてダイキュだけにこだわる?キタコとの娘も居たはずだ」
「ああ、ウラ?あの子はダメだったのよ」
ダメと聞いて失敗と廃棄を疑ったが全く違っていた。
「あの子自体のポテンシャルはダイキュを100としたら105くらいだけど、何より問題なのはギリギリのバランス、壊れないのが不思議なガラス細工と言った感じなのよ」
「ガラス細工?」
「ええ、クローニングしようにもダイキュは劣化コピーが生まれにくいのに、ウラは逆に劣化コピーしか生まれない。下手したら細胞分裂すら拒絶するのよ。本当に愛というモノがあるなら、ビーコ・マッシィータは貴方を愛していた。それがこの差ね。だからダイキュしか居ない。納得?」
俺は納得をしたと言って後を着いていくと、以前は男型と女型の人造人間の居た場所には女型しか居なくなっていた。
「男型は?」
「ダイキュに壊されたわ」
コウワは「話は変わるけど」と言うと、俺に魔物のホームを破壊して来てもらえないかと提案をして来た。
それ自体に問題はなかったが、俺の身柄はマッシィータ預かりなのでその旨を話すと、「それよね。私がなにを言っても許可が降りないのよ」とコウワは漏らす。
仮にホーム破壊を失敗した際の報復や、魔物のルートが変わってしまい、ホームがある安全地帯に魔物が来る可能性もある。
その点を考えれば何もしない。
棲み分けこそが正解だと言う周りの意見はもっともだった。
「なら無しだな。俺は企業預かりで選択権はない」
「淡白ね。私なんて勝手に船を作って奴らの巣、命名はカオスだけどカオスに乗り込むことまで考えてるのよ?」
「バカを言うな。勝ち目が無いだろう?全企業が全戦力を投入しても勝てるかわからない。それに…」
「そう、この機会に抜け駆けして、他社ホームに攻め込むバカが出てくる可能性があるわ。だからこそ揉めている。今は人類が一丸となって犠牲を厭わずに攻め込むべきなのに愚かよね」
コウワはブレる事なく魔物を殺そうとする。
憎い敵だがそこだけは認められる。
そう思ってしまった自分を恥じた。
「ねえ、私と組んでカオスを破壊しましょうよ」
「断る。勝てる確証がない」
「ふふ。私が諦めると思う?」
コウワの声を聞いた時、背中に痛みが走る。
振り返るとそこには銀髪のダイキュが居た。
「だ…ダイキュ?」
よく見るとダイキュの手には注入機が握られている。
薬物?
だが甘い…俺の薬物耐性は…生半可な薬には負けない。
そう思っている俺に「過信ね」というコウワの言葉が俺にまとわりつく。
「防犯ブザーなんかと同じよね。ここで仮にノウエくんが私を殺そうとして、私がブザーを鳴らしてもガード達がくる前に私は殺される。防犯ブザーなんて万能じゃないのよ。薬物耐性も一緒。解毒までの時間があれば何でもできる。戦闘用に改造してあげる。力を奮う事を楽しいと思えるの。魔物を殺しただけで射精寸前まで興奮するようにしてあげる。どんな女も愛せて、どんなセックスも愛に満ちたものにしてあける。食事と睡眠と戦闘以外は全部セックスをしてなさい。世界なんて見る角度でいくらでも変わるモノ。あなたを楽園に招待してあげるわ。そこで幸せに暮らしなさい」
俺は悪魔の言葉を聞きながら指一本動かせずに意識を失っていた。
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