第30話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#7 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます!

『く……くそ』


 自分を睨む龍翔りゅうしょうに、ゴエモン氏は、はぁと一つ嘆息をもらす。


『……そもそもですが、こういう場合、リーダーが率先して動くべきではないでしょうか?』

『は?』

『いざという時、危険な役割を自ら進んで担う。そういう覚悟をしめさないと、誰もパーティーリーダーとして心からは認めないのでは?』

『な――――!』


《完全正論乙》

《こんなの初心者パーティのリーダーでもわかってなきゃいけないことなんだよなあ》


 那栖菜なずなも心の中で大きく頷く。

 

 「いざという時」が来るたびに頼り切り、その状況に甘えているという自覚すらなかったから、この龍翔なる人物は、リーダーとして成長できなかったのだろう。


 結果、彼が去った途端、馬脚を現すことになったわけだ。


『わ、わかった』


 龍翔が告げる。


《ようやく覚悟を決めたか》


『じ、じゃんけんだ。前回同様じゃんけんする』


 那栖菜は、本日何度目になるかわからない、深い失望を覚えて、首を振った。


『はぁ、しょうがないなー』

『仕方ないですわね』

『しゃーねーな』

 

 女の子三人が素早く目配せし合う。

 

 それに気づいた様子もなく、龍翔がかけ声を上げた。


『じゃーんけーん――』


『グーッ!』


 カエデがいきなり龍翔の腹にパンチを入れた。

 一切手加減のない、本気の腹パンだ。

 

『ぐえっ!?』


『パーッ!』


 間髪入れず、体を九の字に折った彼の顔面に、ユルリーが平手打ちをかます。


『へぶしっ!』


『ちょき!』


 まゆゆんが二本指を突き出す。

 龍翔の左右の目に、人差し指と中指が第二関節まで埋め込まれた。


『目ええええええっっっ、目がああああっ!!!』


 顔面を押さえ、転げまわる龍翔。


 その全身に、音もなく忍び寄ったケツアルコアトルが体を巻き付ける。


『さありゅーしょー、男になるときだよ♡』

『思えば、ちゃんとリーダーを育てようとしなかったウチらも悪かったな! 今日はちゃんと協力するぜ!』


 カエデが彼を立たせ、爽やかな笑顔でそう告げる。


『お、おまえら、ふざけ――ングゥ!?』


 抗議の声を上げかけた龍翔の顎を、横から誰かがガッとつかんだ。

 口内になにかを差し込む。


『ふふ……この時を待っていましたわ』


 ユルリーがモデルと見まがうような美しい目を細め、手にした試験管を垂直近くまで立てた。


『ンブブブブッ!?』


 試験管の中に入っていた不気味な液体が、彼の喉に流し込まれる。


『どうですか? 飲まされたくもない物を無理矢理飲まされるご気分は?』

『てめえ、なに飲ませやがっ――』

ひざまずきなさい』


 ユルリーがそう言った途端、ガツーンと音を立てて、龍翔は勢いよく両ひざをついた。


『い、いてええええ!?』

『どうやら、ちゃんと効いたみたいですわね。まゆゆんさん、もうテイムモンスターさんの縛りを解いても大丈夫ですわ』

『らじゃー』


 まゆゆんが合図すると、ケツちゃんがスルスルと体を解く。


 龍翔は即座に立ち上がろうとするが――


『そのまま、お座りなさい!』


 その言葉を聞いた途端、再びいきおいよく跪く。


《こいつら、まーた仲間割れしてんだけど》

《ていうか、なに飲ませたんだよ?w》


傀儡くぐつ薬ですわ』


《なにそれwwwww》

《聞くからにやばそう^^;》

《ダンジョンアイテムマニアのわいが解説しよう。傀儡薬というのは、上級アイテム士のみが作れる、非常に強力な催眠現象を引き起こす薬である(キリッ)》


『な――!?』

『その通りです。さしものわたくしも作成に丸一日かかりましたわ。あなたにをされた直後、とっさに床に落ちたあなたの毛髪を握り込んでおきましたの。それを用いて作らせていただきましたわ、ほほほほ』


《執念すげえなw》

《ていうか、そんな薬より石化回復薬を作っとけや(笑)》


『さあ龍翔さん、このあと、わたくしたちが命じることはわかりますわよね?』


『まてまてまて、おまえら落ち着いて話し合おう?』


 

『『『『剣を引き抜け』』』』

 


 唱和する声が響いた。


 龍翔はすぐさま立ち上がると、ぎくしゃくと火トカゲの死体の方へ歩き始める。


『や、やめろ! やめてくれぇぇっー』


《なにげにゴエモン氏も唱和してて草w》

《俺もそれ笑ったわ》


『龍翔さん、大丈夫ですよ。あなたは熱耐性剤を飲んでいるじゃないですか。私の解析したところによると、この火炎トラップの威力は即死するほどではないので、あなたのレベルなら耐えられるはずです(生きたまま火あぶりとか、心底ゾッとするけど)』

『おまえ、いま大事なことを最後に小声で言ったよな? 言ったよな?』


 彼は剣の前に辿り着いた。

 

 首を激しくいやいやする本人とは裏腹に、その手は柄へと伸びてゆく。


『こ、硬化!!』


 ふいに龍翔が叫んだ。


 瞬間、彼の体がぴたりと動きを停止する。


《どした? 焦らしか?》

《あくしろよ》


 そうではない。


『はーっはははっ、残念だったなあ? これは、俺が一切身動きできなくなる代わりに、物理防御力が跳ね上がるスキルなんだよ!』 

 

 そう。

 この呪文は、勇者のユニークスキルだ。


『効果時間は10分。おい、ユルリー! おまえの薬の効果時間はせいぜい2、3分だろ? こんだけ強力だったら、もっと短いかもなあ?』

『………………』

『答えねえってことは図星だなあ? はーっはははっ、この馬鹿女が。俺様に復讐できると思ったか? この乳だけ女がっ!』

『………………そういう風に、お喋りできるということは、口は硬化しないんですの?』

『ああ!? 当たりめーだろバカ! 顔まで硬化したら、呼吸ができなくなるじゃねえかよ! そんなこともわかんねーのか、バーカバーカ!』

『…………それを聞いて安心しましたわ』


 ユルリーは、ガシッと龍翔の頭を掴む。

 そして、ぐいぐい彼の顔を前方に押し始めた。


『ちょ、おま、なにすんだよ――』


 にこやかな笑みを湛えたまま、彼の顔をさらに押し出すユルリー。

 龍翔の口に、剣の柄が突っ込む。


『んおおおおおっ!?』

『ほら、もっと、深く、根元まで――おしゃぶりなさいなっ!』


 彼女がドンと後頭部をどつくと、龍翔は深々と喉の奥まで柄を咥え込む形になった。


《うわぁ……》

《エグw》


『さあ、カエデさん、今のうちに縛っちゃってください』

『あ、ああ』


 さすがに若干引きつつも、ロープを取り出すカエデ。


 彼女は、剣の鍔と龍翔の頭を、ロープで縛って固定した。


『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

『ふふ……喉が詰まって悲鳴もあげれませんの? でも、わたくしはあの時、今のあなたと比較にならないくらい辛かったんですのよ?』

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

『ねぇ、ユルリー、ロープを引っ張る役はわたしがやっていい? わたしもこいつに恨みがあるからさあ〜』

『どうぞ』


 まゆゆんがロープを掴み、後ろへ下がっていく。

 他の面子もそれに倣った。


『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』


 龍翔は目に涙を浮かべ、狂ったように声にならない声を上げ続けている。

 顔が恐怖に歪みすぎて、正視に耐えられないぐらい不細工になっていた。


《しかし、こいつ、みっともねぇなあ》

《どんだけ怖がってんだよw》

《散々オッズ氏に同じことをさせてきたんだろ? 死ぬわけじゃねーんだから、男なら腹を括れや》


 不意にチョロチョロという音が聞こえてきた。

 

 龍翔の股間にシミができている。

 恐怖のあまり失禁したらしい。


『あらあら龍翔さんったら。も硬化してなかったみたいですわね』

『ちょっとぉ〜、下ネタげっひーん⭐︎』

『あらわたくしとしたことが。ごめんあそばせ♪』


 もはや画面を直視できず、那栖菜は目を伏せた。


『じゃあ、いくよー、さん、にー、いち!』


 ぐいっ、と手前にロープを引っ張るまゆゆん。


 ロープに繋がれた龍翔の頭部も、彼が咥え込んでいる柄ごと後ろに引っ張られる。



 ーースポーン



 火トカゲの口から、剣が引っこ抜けた。


 瞬間、白目を剥いていたトカゲの目がぐるりと反転し、焦点を定める。


 もちろん、眼前の龍翔に。


『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』


 ゴオオオオオオオオオオオオオ!


 凄まじい炎がサラマンダーの口から迸った。


 炎が消えると、そこにはアフロヘアーになった龍翔が焦げ焦げの顔で目を瞬かせていた。


 

*****


 

 ガチャリ、と生徒会長室のドアが開く。

 

ひいらぎさん、おまたせ」


 室内に入ってきたのは、昨日、彼女のパートナーを務めてくれた、オッズ氏こと尾妻涼おづまりょうである。


「あれ? 柊さん、どうしたの?」


 執務机の上で両手を組んで俯く那栖菜に、怪訝な声が投げかけられる。


「……なんでもないわ」


 そう。

 少し疲れただけだ。ただ動画を観ていただけだけど。


「そういえば、クラスの人が話してたんだけどさ、今日、田中がダンジョン配信するらしいよ」

「……田中?」

星月夜龍翔せいげつやりゅうしょうのことだよ。本名は田中大介たなかだいすけ


 知らなかった。


「でも、学校でも龍翔って呼んでなかった?」

「ああ、子供の頃からそう呼べって幼馴染の僕たちにうるさかったからね。自然にそう呼ぶようになっちゃったんだ」


 ………………もはやなにも言うまい。


「帰りましょう」


 そう告げると、那栖菜は席を立ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る