第27話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#4 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます!

『は……はやく……石化回復薬をくれ!』


 逼迫した声で告げるぬりかべ氏。

 

 硬化した部分は急速に広がりつつあった。

 すでに右腕は付け根まで石になっており、肩を伝って胸や首筋まで石化部分が侵食しかけている。


《おい、マジで急げや》

《1分も持たなそう》

《喉や心臓が石化したら、即死だぞ》

 

 しかし、ユルリーはなぜか回復薬を出さず、代わりに懐からアルコールランプを取り出した。

 ゴオーッ、と火を点け、フラスコとビーカーをセットする。


 そこはかとなく嫌な予感のした那栖菜なずなは、コメントを書き込んだ。

 

《……いちおう尋ねるが、まさか今から石化回復薬を作るとかではないよな?》


 ユルリーはドローンの方を向いて、嫣然えんぜんと微笑む。


『ご心配なく。10分以内に完成させますわ!』


 

 《 《 《 《 とっくに手遅れだろ! 》 》 》 》


 

 ぬりかべ氏の呼吸がいよいよ速まってきた。

 ビキビキビキ、と音を立てて、石化箇所が顔面にまで這い上る。


 ――もうだめだ


 那栖菜は思わず、目を瞑った。直後――


 

 ゴクリッ。


 

 なにかを飲み込む音が、スマホから響く。

 ゆっくり目を開けると、ぬりかべ氏の石化が融解していくのが映った。


『まったくなにをしているんですか、あなたがたは……』


 憤懣やるかたなしと言った顔でぬりかべ氏に寄り添っているのは、もう一人の助っ人メンバー、ゴエモン氏だ。

 彼の手には、空になった瓶が握り締められていた。


『こんなこともあろうかと、念のため薬を購入しておいたからよかったものの、そうでなかったらこの方は亡くなっていましたよ……。しっかりしてください』


 あえて名指しはされなかったものの、自分に向かって言われたと悟ったのか、ユルリーがぐっと気圧された様子を見せる。


 しかし、すぐに高慢な表情に戻ると、鼻で笑うように告げた。

 

『はぁ……これですから素人は』

『は?』 

『致し方ありませんので、教えて差し上げますわ。石化回復薬というものは、上位のアイテム士でも早々簡単に調合できるものではございませんのよ?』

『…………』


 相手が黙り込んだことに勢いづいたのか、ドヤ顔になって言を続ける。


『むしろこのわたくしですから、たったの10分で調合可能なのです。最善を尽くしたわたくしを罵倒する前に、己の無知を恥じることをお勧めしますわ』

『ではなぜ事前に作っておかなかったんです?』

『はい?』

『ダンジョンに入った直後に薬を作成しておけば、すぐに飲ませることができたはずだ。こんな死の恐怖を味わわずにすんだろうに』


 今度は彼女が黙り込む番だった。


『…………そ、それはアレですわ。まさかこのダンジョンに石化攻撃を使ってくるモンスターがいるとは知らず――』

『なにを言ってるんだあんたは? そんなの事前に調べておくに決まってるだろ!』

『え――』


《いや、当たり前だろ》

《ダンジョン探索とか以前に、仕事の下調べなんて社会常識やん》


『し、下調べなんてエレガントではございませんわ。それに、いつもはが死んでから薬を調合するので充分間に合っていましたし……』


 那栖菜はスマホの前で歯噛みした。

 このパーティは、を矢面に立たせることで、ありとあらゆる危険のリトマス紙として利用してきたのだろう。

 だから、杜撰極まりない準備でも、困ることがなかったのだ。


《どんだけオッズ氏に負担させてたんだよ……》

《わいのパーティ、この前彼と潜ったんやけど、自分たちでできるところは、全部自分たちでやったで?》

《それが普通だろ。てか、こいつらマジで人を人とも思ってなさそうだよなあ》

 

『(り、りゅーしょー、やばいよ)』

『(あん?)』

『(リスナーたちから、めっちゃヘイトを買ってない? 今回で名誉挽回するつもりだったのに、これじゃ本末転倒だよぉ)』

『(た、たしかに)』


 なにやら、こそこそ話していた龍翔りゅうしょうが、くるりとぬりかべ氏を振り返った。


『いやあ~、ごめんごめん。一反木綿いったんもめんくんだっけ? 俺ら悪かったよ。謝罪するぜ!』

『……ぬりかべだ』

 

 ようやく石化から立ち直ったぬりかべ氏が、憮然とした声でかえす。


『今後はちゃんと君の身の安全にも配慮するからさ、勘弁してくれよなっ!』 

『…………気を付けてくれ』


《1ミリも誠意の見えない謝罪乙です【バット評価】》

《典型的な口だけの謝罪。ぬりかべ氏、よく大人な対応ができるなあ……【バット評価】》

 

 龍翔は満面の笑みで、片手を差し出す。


『ってことで、これからは半殺しになるまで盾役をしてくれるってことでいい?』

『いいわけあるかあああああっっっっっ!!!!』


 激怒の叫び声を迸らせるぬりかべ氏。 


 ――それはキレるだろう


 那栖菜のみならず、すべてのリスナーがそう思ったに違いなかった。


 彼は憤然と踵を返し、その場を立ち去ってゆく。


 無駄と思いつつも、那栖菜はコメントを介して、彼に忠告した。


《愛想を尽かせるのはわかるが、ダンジョンの入口まで一人で戻るのは、危険かと思う》


『あいつらといるよりは安全だろ』


《心から同意見やわ》

《わいも》

《俺も》


 …………正直、那栖菜も完全に同意だった。

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