第28話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#5 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます!

『え、えーと、残念ながら脱落者が出てしまいましたが、探索は続行しまーす』


 さすがにやや引きつった顔で龍翔りゅうしょうが告げる。


《大丈夫かあ?》

《もう帰った方がいいんじゃねえの? ミッションは失敗になるかもしれんけど》


『ダイジョブっす! 今回は、中層にいる中ボス的なやつを倒してドロップアイテムを回収するだけなんで。だから、そのまま応援たのんます!』


 ぐっと親指を立てる彼。


『みなさん、引き続き配信をお楽しみくださいねっ☆』

『ウチの活躍するところだけでも見てくれよな。あとは目を瞑っててもいいからさ!』

『回復薬ですか? ノープロブレムですわ。……いまから作りますので』


 不安しか沸かない発言で視聴者を繋ぎとめようとする彼らに、那栖菜なずなは無言で首をふる。


 もはや彼女にできることは、彼らの無事を祈ることしかなさそうだった。


『(ところで、真由香まゆか。今回は平気なんだろうな?)』

『(え? なにが?)』

『(ペットの餌のことだよ。また喰われんのはマジで勘弁だぞ?)』


 ごにょごにょと伝える龍翔に、まゆゆんが心底小馬鹿にした表情を見せる。


『はーっ……りゅーしょーって、ほんとビビリだよねえ』

『な……!』

『子供の頃からそうだよねぇ~。近所の犬に吠えられただけで、おもらししちゃったこともあるし』

『お、おま、いきなり普通の声で…………視聴者に聞こえんだろが!』


 どうやら聞かれたくないことを小声で喋り合っていたようだが、まゆゆんの方が急に声を大きくしたらしい。

 というか、わざとドローンが拾えるようにトーンを戻したのだろう。


『ごっめーん☆ うっかりしちゃったぁ~☆』


 てへペロと舌を出す彼女。

 どうやらこの同級生、かなり良い性格をしているようである。


『ま、とにかくさ、今日はちゃーんと必要な餌を必要な分持ってきてるから、だいじょーぶだよ! 私は同じ失敗は繰り返さない女だからねっ!』


 その言葉が理解できたわけではないだろうが、ケツアルコアトルがチロチロと舌を出しながら、彼女にすり寄ってきた。


『おー、よしよし。お腹がちゅきまちたかぁ?」

 

 テイムモンスターをなだめつつ、アイテム袋からビニールに包まれた物体を取り出す。

 赤黒い肉塊のようなものだ。


『ケツちゃんの大好物の肝臓だよお』


 まゆゆんが鼻をつまみながら餌を突き出すと、ケツアルコアトルは即座に首を伸ばしてかぶりついた。


 彼女の隣に立つ龍翔に。


 

『い、い、い、いでえええええええ――――っっっ!?』


 

 右胸の下あたりをがっちり咥え込まれ、激しく暴れる彼。


《こいつ、また喰われてるんだけどwwwww》

《いや、笑ってる場合とちゃうけど、こんなん笑うわ》


『お、お、おいっ!? どうなってんだよ、まゆかぁぁぁぁっ!』

『あ、あれ? おかしいな? ケツちゃんこっちだよ?』


 まゆゆんが肝臓を振ってみせるが、ケツちゃんはそちらには見向きもせず、さらに深々と牙を突き立てる。


『いだいいだいいだいいだいぃぃぃっっっ』


 涙目になって絶叫する龍翔。

 

 そのとき――


『こっちだ!』


 ふいに声が上がった。

 ドローンがゴエモン氏の姿を映し出す。

 

 彼の手にはバタバタと暴れるネズミが掴まれていた。

 それを見たケツちゃんがパッと口を離し、そちらへ向かう。


『そら!』

 

 タイミングを見計らって、ネズミを放るゴエモン氏。


 モンスターは、ぐぱぁと顎を開くと、宙にいる小動物を丸のみにした。


『え、なに、どゆこと?』


 きょとんとした顔で、まゆゆんが呟く。


『……あんた、このモンスターに餌をやったことはあるのか?』

『え、ないけど? 世話は飼育係に全部やらせてるし』

 

 那栖菜は、彼女が有名な動物園経営者の娘だったことを思い出す。


!』

『はい?』

『そいつは生餌しか食べないんだ。袋に詰められた肝臓なんて、いくつ持ってても役に立たないぞ』


 まゆゆんは、寝耳に水といった感じで、目を丸くする。


『ま、マジで!? 初耳なんだけど』

『だ・か・ら、自分で調べといてくれって! こんなこともあろうかと、私が生きたネズミを用意しておいたからよかったようなものの……』


《アホすぎだろこいつら》

《ペットを飼う資格ゼロ》

《ていうか、助っ人さん、用意周到過ぎて草w》

《1ミクロンもこいつらのことを信用してなかったんやろうなあ》


『だ、だって今までは生きた人間えさしか与えてなかったし――あ』


 失言に気付き、慌てて口を押えるが、時すでに遅し。


《こいつら…………まさか生きたままオッズ氏を?》

《そこまで貢献していた人を追放とか、鬼畜の所業過ぎるだろ》

《よく長いことこんなパーティで耐えてたよなぁ……オッズ氏って、もしかして聖人?》


 どうやら、このパーティが彼を一方的に追放したことは、すでに知れ渡っているらしい。

 悪事千里を走るというが、まあ彼らの所業を鑑みれば、いかにもそういうことをやりそうだとは、誰でも思うに違いない。

 

『とにかく、急いで生餌を用意した方がいいです。まだまだ食べたりないみたいですから』


 ゴエモン氏の言を裏付けるように、ケツちゃんはじーっと物欲しそうな目を、龍翔の右半身、肝臓の埋まっているあたりに向けていた。


『ま、まゆゆん、そいつを押さえとけ! 他の奴らは、そのへんのゴブリンを捕まえるぞ!』


 焦った口調で、龍翔が叫んだ。




 1時間後。


『はぁはぁ……やっと満腹になったか』


 疲労の滲んだ口調で龍翔が告げる。

 

 他の面子も、疲労困憊といった様子で床にへたり込んでいた。


『まさか5体ものゴブリンが必要ですとは……』

『色々探し回った上に、殺さないように手加減して攻撃しなくちゃならなかったし、普段の10倍は疲れたぜ……』 


 彼らを呆れた眼差しで眺めつつ、ゴエモン氏が声を投げる。

 

『だから出発前に聞いたじゃないですか……「もっと扱いやすいモンスターの方が良くありませんか?」って』


《モンスターのテイムって簡単じゃねえんだよな》

《それ。餌だけじゃなくて、環境が合わないと気が立って言うことをきかなくなったりとか、とにかく気を使うんよ(経験談)》

《だから、多くのテイマーは扱いやすいゴーレムとかを使うのにな》


 那栖菜も同意見だった。

 

 これまで、気難しかったり、繊細なモンスターを引き連れてこられたのは、ひとえにがいたおかげだろう。

 好きな時に好きなように餌として提供でき、モンスターの神経が荒ぶったときなどは、八つ当たりさせて気を沈めたり。

 

 言葉は悪いが、汎用性の高い存在だったのだ。

 

《身を挺してすべて引き受けてくれていたオッズ氏の器の大きさよな》

《ほんそれ。わいだったら、絶対頭が上がらんわ》


『(く……っ。どーして、俺らの評価じゃなくて、あんなキモキモ野郎の株が上がんだよ!?)』

『(ほんと意味わかんないよねー)』

『(ま、ウチらが本領を発揮するのは、これからだって)』

『(そうですわ。わたくしたちが彼のような最下層の住人より下に見られるわけがございませんもの!』


 言葉通り、それから1時間もしないうちに彼らは本領を発揮することになる。


 彼らの望むような形であったかは、知らないが……。

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