第29話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#6 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます!

『やっと着いたか……』


 大扉を前に、龍翔りゅうしょうが呟く。

 顔にも声にも、隠しようがないほどの疲労感が見て取れた。


 他の面子も同様だ。


《今まで、オッズ氏のおかげでずいぶん楽してきたんやろうなぁ》

《それな。こいつら、絶対基礎から学び直した方がいいよな》


 リスナーの語り合っていることは、まさに那栖菜なずなが懸念していた事案と一致した。

 

 事前の下調べ、入念な準備、戦術の基本的な見直し……。


 これからは、彼が抜けた穴を、試行錯誤して彼ら自身で埋めていかねばならない。

 だからこそ、比較的安全なDランクダンジョンで学ぶことを彼女は推奨したのだ。

 

 まったく聞く耳もたなかったようだが……。

 

『チッ……』


 ギリギリと歯を噛み締める龍翔。


『どいつもこいつもクソみてえな誤解をしやがってよお……。あんなキモキモ野郎の世話になったことなんか、俺様は生まれてこのかた一度もねーっての!』

『ほんとそれよねー。ちょっとまぐれで実績だしたか知らないけど、過大評価し過ぎだっての』

『仕方ありませんわ。世間の大半は愚民で構成されているのですもの』

『完全同意だぜ! とっととこの部屋のボスをぶっ飛ばして、誰が一番評価されるべきなのか、わからせてやろうぜ!』


 疲れと焦りで気持ちに余裕がないのか、リスナーに聞こえることさえ忘れて、愚痴をこぼしあう4人。

 どうやら、まだ彼に依存していた事実を認められないらしい。

  

『いくぞお、てめぇらあ!』


 龍翔が勢いよく扉を開いた。


 部屋の中では、灼熱色の肌を持つ、大きなトカゲのようなモンスターが待ち構えていた。


火トカゲサラマンダーだ!》

《かなり強ええぞ》


『しめた! ユルリー、さっき火蝙蝠と闘った時、熱耐性剤を作ってたよな?』

『ええ。まだストックもございますわ!』

『ナイス!』


 全員、素早く熱耐性剤を飲み、ボスへと突進する。


 くわぁ、と大きく口を開くサラマンダー。


 ゴオオオオオーッ。


 炎が奔流となって、その喉から迸る。


『ケツちゃん!』


 まゆゆんがテイムモンスターに人差し指で合図した。


 ケツアルコアトルが翼をばさりとはためかせると、凄まじい突風が巻き起こる。


 ビョオオオオオオ――


 風は空気の壁となり、敵の炎をはじき返した。


『いまだ!』


 龍翔とカエデが二手に分かれて挟み撃ちする。

 

 サラマンダーの反応も早かったが、直後その鼻づらになにか丸い物が投げつけられた。

 ぶつかる直前、物体が爆ぜて特大の霜柱のようなものをまき散らす。


『アイスボールですわ!』


 冷属性のアイテム攻撃に、サラマンダーは明らかに怯む。


 その横っ腹に、左右から拳と斬撃が加えられた。


『ぐげええええええっっっっっ!』


 断末魔を迸らせるボス。


 大きく口を開き、体を仰け反らせると、そのままどう、と床に沈み込む。


《おおお、すげええええ》

《サラマンダーを瞬殺かよ》

《腐っても元Aランクパーティだな》


『ふひ……ふはははははぁ! どうだあ? 俺様の実力、思い知ったかぁ!? ん? オッズ推しの視聴者のみなさぁん? 僕ちんとキモいオッズくん、どっちが強いでちゅかぁ?』


 中指を立てて、ドローンに突き出してみせる龍翔。


『ボケナスども! これがわたしの真の実力なんだよ! キモキモ野郎と一緒にすんな!』

『エレガント! 気持ちの悪い彼には、絶対わたくしのように優雅な戦いはできませんことよ、おほほほ』

『はーっ、この場にあいつがいたら、いつもみたいに意味もなく、勝利を祝うパンチを顔面にぶち込めるのによぉ』


 静寂に満ちるコメント欄。


『ん~? みなさーん、僕に論破されて、静かになっちゃいましたかあー?』


 ――いや、引いてるんだよ


 那栖菜はスマホの前で一人顔を赤らめた。


 ……これが共感性羞恥というやつだろうか。

 

 自らの言動がどう映るかを想像することもできず、猿のように騒ぎ立て続ける彼らに、彼女はいたたまれなくなって、目を伏せた。


『……龍翔氏、とりあえずアイテムを回収しませんか?』


 ゴエモン氏が声を上げる。

 彼らの同類に思われたくなかったのか、少し離れたところに立っている。


『おー、そうだったな~』

 

 いまだに体をクネクネさせながら、龍翔がサラマンダーの死骸に近付いてゆく。


 天に向かって大きく開かれた火トカゲの口からは、剣の柄が突き出していた。


《火属性の刀とかかな?》

《変わったアイテムのドロップのしかたやね》


 龍翔が剣に手をかけた。


『待った!』


 ゴエモン氏の声に動きを止める。


『なんだよ?』

『たぶん罠が仕掛けてあります』

『なにィ!?』


 慌てて柄から手を離す彼。


 ゴエモン氏は剣に歩み寄ると、慎重に調べ始めた。

 スキルを使ったり、ボスの死骸を検分したのち、再度告げる。


『やはり十中八九、罠がしかけてありますね。おそらく、剣を引き抜くと、サラマンダーの口から炎が噴き出す仕組みだ』

『マジかよ……』


 その時、まゆゆんの声が画面外から響いてきた。


『りゅーしょー、やばい――』

『どうした?』

『入口のドアが開かないよ』


 ドローンが彼女を映し出す。

 いつの間にか、ボス部屋の出入り口の扉が閉まっており、まゆゆんが懸命に押したり引いたりしていた。

 

 だが、びくともしないようだ。


『おそらくですが、扉もこの罠と連動しているのでしょう。つまりこの剣を引き抜かないと部屋から出られない』

『わかった。それじゃたのむぜ?』

『は?』

『いや、「は?」じゃなくて早く引き抜いてくれよ』

『またまたご冗談を。引き抜くのはあなた方の役目ですよ』

『おまえこそなに冗談言ってんだ? あと、どうして後ろに下がっていく?』

『私の役割は罠を確認し、その解析をすることです。罠を解除するのは、私の仕事の範囲外だ。契約書にもそう記してあります』

『……なんだって?』


 いまや、ゴエモン氏は部屋の反対側まで後退していた。

 明らかに罠が発動しても、とばっちりを食わないポジションを意識している。


 彼は懐から一枚の用紙を取り出した。


『これが契約書です。あなたのサインもしてありますよ。さ、理解していただけましたら、早く剣を引き抜いてください』

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