第26話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#3 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます!

『みなさーん、お久しぶりぃー。龍翔りゅうしょうでぇすーっ!』


 スマホの画面の中で、男が告げる。


 世間の基準ではイケメンに分類されるのかもしれない。

 しかし、那栖菜なずなは彼の顔を見るたびに「幼い」という印象を受けざるを得なかった。


 人のそれまでの生き様は顔付きに現れるというが、彼の言動をいくども目の当たりにしているため、自然と「そのような顔」に感じてしまうらしい。

 

『僕たちリューショージャーは、本日、Cランクダンジョンに挑戦しまーす』


 それを聞いた途端、那栖菜の口から深いため息がもれた。

 

 ――やはり言っても無駄だったか


 執務机に座ったまま、首をふる。


『Cランク以上のダンジョンには行かない方がいい』

『まずDランクで探索の基礎を学び直すべき』


 彼にそのような忠告をしたのは、ほんの数時間前のことだ。


 ギルド長はDランクの攻略を命じたのだろうが、大方ごねてCランクのミッションに変更してもらったのだろう。

 

 まあ、自分がS級探索者であることは、校内ではただ一人を除いて誰も知らない事実であるため、警告を疎んじられてもやむを得ないところではあるが……。

 

 放課後の生徒会長室には、那栖菜の姿しかなかった。


 彼女はその「ただ一人」の人物を待っているところである。

 一躍時の人となった彼は、この時間になってもまだインタビューを受け続けていた。

 

 彼を待つ間、気がかりだった同級生の探索配信を開いてみたのだが。


『ではメンバーを紹介しま~す。まずは超絶イケメンにして、勇気の者――つまりは勇者の星月夜龍翔せいげつやりゅうしょうくんでぇす!』


『まゆゆんだよー(カスが。てめえより先にわたしの紹介しろや) 今日もよろしくねっ☆ ちなみに今日連れて行くのは、ケツアルコアトルのケツちゃんだよ~。白い蛇にペガサスみたいな翼の生えた格好いいモンスターだよ~』


『……ユルリーと申します……………………本日もよろしくお願いいたします……ふふ』


『がーっはっはっは、カエデだ! ウチだけは、今回もどんなことがあっても生き残るぜっ! みんな、応援よろしくなっ!』


 一見すると単なる陽キャグループの自己紹介だが、那栖菜はこの時点で、彼らの間に漂うきな臭い気配を感じ取っていた。


《ある意味で待ってたよん》

《今日はどんな醜態をさらしてくれるのか、オラ楽しみで仕方ねえゾ^^》

《燃える探索にしてくれよな!》


 那栖菜は暗澹たる気分になった。

 

 明らかに以前と客質が違う。今回の視聴者たちはAランクパーティの活躍ではなく、を期待しているようだ。


『えー、僕たちの他に、今回は特別ゲストに参加してもらうことになりました』


 ドローンが彼の脇に立つ二人の人物を映し出す。


『盾スキル持ちのぬりかべです。前衛でパーティの壁役を務めることが多いです。よろしくお願いします』


『シーフスキル持ちのゴエモンです。主にマッピングやポーター、トラップを担当します』


『はーい、二人ともすごいスキルですねえ(まあおまえらの手助けなんかいらねえけど)』


《小声でなんか言ったぞ》

《全部保存してるからね♪》

《さっそく燃料の投下、ありがとうございます!》


 彼らには見覚えがある。

 どのパーティにも属さない、ギルド直属の探索者たちだ。


 おそらく手助けというより、お目付け役として、このパーティへの同行を命じられたのだろう。

 露骨に態度には現していないが、二人とも隠しようもない嫌々感がにじみ出ている。


『それじゃさっそく出発しまーす』




 

 最初は順調に見えた。

 少なくとも表面上、彼らはチームとしての連携を崩さず、共闘して進んでいた。


 あまりいい印象がないとはいえ、同じ学び舎の生徒たちである。

 無事に帰ってきて欲しいとは、彼女も思っていた。


 ――これなら案外あっさり攻略できるかな

 

 那栖菜がそう思った矢先、事件は起こった。


《うお、マンティコアだ》

《石化攻撃が怖いぞ》


 獅子の頭部に鷲の胴、サソリの尾をもつモンスターである。


『ウチに任せな!』


 女拳闘士のカエデがずいっと前に進み出た。


 彼女はファイティングポーズを取ったが、なぜかそれ以上動こうとせず、くるりと背後を振り返る。


『……俺?』


 ぬりかべ氏が自分を指した。


『いや「俺?」じゃなくて、早くウチの前に出てよ』

『…………は?』

『あんた盾役だろ? ちゃんと仕事してくれる?』


 高圧的な物言いに、ぬりかべ氏は一瞬鼻白らんだものの、無言で前に足を踏み出す。

 このパーティに関わる時点で、ある程度の覚悟をしていたのだろう。


『グオオオオッ!』


 マンティコアが飛び掛かった。

 

『く!』


 足を踏ん張り、攻撃を長盾で受け止める、ぬりかべ氏。


『…………』


 カエデはその様子をじっと見つめる。


『ぐぅ――!』


 ぬりかべ氏は、必死に巨体の敵と押しあいを繰り広げる。


『…………』


 カエデは相変わらずその光景を眺めているばかりだ。 


『な、なにをしている? 早く反撃してくれ!』


『いや、あんたこそなにしてんの? 早く殺られてよ?』



 コメント欄が静まり返った。

 さすがの那栖菜も椅子の上で硬直する。

 

 ただ龍翔チームの面子だけが、さも当然のような顔で頷いていた。


『じ、冗談を言っている場合ではないぞ…………というか、冗談だよな?』

『いや、冗談なわけねーだろ。あんたがやられた隙に、ウチが攻撃を叩き込むんだから、踏ん張ってないでさっさと殺られなって』

 

《で、デターーーーーwwwwww》

《あたり前のように鬼畜発言が飛び出す。それがリューショージャークオリティ》

《ぬりかべ氏、敵はほっといて、このクソ女を攻撃やで》


 不覚にもまったく同じことを思ってしまった那栖菜だが、ハッと我に返ると、慌ててスマホに指を走らせる。


《龍翔氏、そのファイターは不死身ではないぞ?》


「あん?」


《もし致命傷を受けたら、そのまま死んでしまう》


「だから?」


《いやだから、攻撃を受ける前に助ける必要があるという話だ》

 

『でも盾役だぜ?』


  

 間。


 

《…………確認だが、盾役を捨て石にして殺していい存在と思っていないよな?》


『むしろ、違うのか』



《 《 《 《ちげえよ》 》 》 》

 

  

《……盾役は捨て石にしていいという意味ではない。あくまで、自分の命がおびやかされない程度にパーティを守ってくれるだけの役割だ》


『そうなのか。初めて知ったわ』

 

 龍翔は『チッ、仕方ねえな』とぼやきながら、カエデに顎で合図する。


 挟み込むように、敵の側面に回り込み、左右から攻撃を加える二人。


 一拍遅れて、まゆゆんがケツアルコアトルを操り、背後からマンティコアにとどめを差した。

 

『グワッ!』


 敵が断末魔の悲鳴を上げ、地に倒れる。


『ま、俺らクラスなら楽勝だな』


 カメラ目線で呟く龍翔。

 

《いや、ぬりかべ氏と力比べをしてたから、簡単に倒せたんだろ?》

《まず彼にありがとうって言えや》


 しかし、コメントの読み上げが聞こえなかったのか、龍翔は次のように呟いた。


『はぁ……おもんな。ほんのちょっととはいえ、リスクを冒しちまったじゃねーか』

『ほんとそれ。将来有望なウチらは、万一もあっちゃならねーってのに』

『盾役がいつものなら、殺られて喰われてる隙に、もっと安全に倒せたのにね~☆』


《………………》

《………………》

《………………いや、こいつら、人知れずダンジョンの中で始末した方が良くね?》


 ………………私か? 私がその役割を果たすべきなのか?


 那栖菜は据わった目でスマホを睨んだが、その時、画面外で、ガシャンと音が響いた。


 ドローンがそちらを向く。


 床に倒れ伏すぬりかべ氏が映し出された。


《やべえって。顔が真っ青じゃん》

《腕が石になってんぞ》

《さっきのマンティコアの攻撃がかすったんじゃね?》


 慌てて、ユルリーが駆け寄る。


 しかし、さらなる驚愕の事態が那栖菜のスマホの中で展開された。

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