第25話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#2 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます! ―龍翔視点―

「ふっっっっっざけんなああああああーっっっ!」


 俺の怒声がギルドの1階に響く。


「なーんで俺たちがAランクからCランクに降格されなきゃいけねーんだよ!? ああっ!?」

「り、りゅーしょー……落ち着いて? ほら、周りの目もあるし」


 壁をガスガス殴る俺を、真由香まゆかが懸命になだめる。


「降格っていってもさ、あくまで保留措置だし」

「そうだぜ、リーダー。ギルド長から割り振られたミッションをこなせば、きっと元にもどしてくれるって!」


 かえでも腕を組んで、口添えする。


 ギルドに足を運んだ俺たち『救国戦隊リュウショージャー』を待ち受けていたのは、いつものような感謝の言葉――ではなく、ギルドマスターの刺々しい眼差しだった。


「『前回の探索で他のパーティに多大な迷惑をかけたので、そのような措置をとらせてもらった』だとう!?」


 ギルド長の口から伝えられた文言を思い出し、俺のはらわたが再び煮えくり返る。


「たった一度だぞ!? ちょっとシクって他人の手を借りたってだけで、勇者の俺様のいるパーティをCランクに格下げだあ?」


 ガスガスガス。

 頭を柱に打ち付けていると、低い笑い声が響いてきた。


「ああ!?」


 振り返ると、三人組の男たちが、にやにやしながらこちらを眺めていた。

 そこそこ良い装備をしてるので、Bランクパーティってとこか。


 まあ俺レベルになると、Bランクの連中の名前なんざ、いちいち覚えちゃいねえが……。


「……なんだあ、てめえら。なにへらへら笑ってやがる?」

「悪い悪い」

「あまりにも頭の悪いことを言ってるから、ついな」

「まったく……ふふふふ」

「……てめえらあ――」

「待って!」


 怒りを爆発させようとした俺を、またしても真由香が止める。


「……どーいうこと? 説明して」


 彼女の言葉に、三人組は顔を見合わせた。


「本当にわかってないみたいだから、教えてやるよ。まずおまえらは、他人の手を煩わせたからペナルティを受けたと思っているようだが、そもそもそれが間違ってる」

 

 ……?

 どういうことだ?


 前回探索時、たしかに俺たちは他人の手を借りた。

 散り散りになって逃げ出したところを、たまたま通りかかった他のパーティに助けてもらったのだ。

 だから、誰も死人を出さずに済んだのである。


「でも、それ自体はよくあることだし、妙だろう? それだけで降格なんて」


 ……たしかに。

 ダンジョン内でたまたま居合わせたパーティに助けられるってのは、よくあることだ。


 まあ俺はほとんど助けた記憶がないが。


「だったら、どうしてウチらは格下げされたんだよ!?」

「あの配信のせいに決まってるだろ」


 俺たちは凍り付いたように動きを止める。


 配信だと?

 そういえば、あの生徒会長も同じことを言ってたような……。


「ダンジョン内では、日本の法律は適用されない。だから、おまえたちのしたことも裁かれない」


 そう。

 ダンジョン内は超法規的空間だ。

 銃刀法を始め、あらゆる法律の縛りから解放された場なのである。


 また、そこでの行動は「危険地帯における緊急回避」ということで、すべて見逃してもらえる。

 そのぐらいやらないと、ほとんどの人が危険なダンジョンに行こうとすらしないからだ。


「でもな、世間体ってもんがあるんだよ、ギルドにもな」

「なにぃ?」

「しょせん公的機関だからな。一般市民に是と認識してもらってないと、立ち行かなくなってしまう」

「だから、あまりにも目に余るパーティには、制裁を加えねばならないんだよ。おまえら高校生だろ? 見せしめ退学とか言ったら、わかりやすいか?」

「そ……その制裁を俺たちが受けたと……?」

「この話の流れで、それ以外だったら、おかしいだろ」 

 

 はははは、と顔を見合わせて笑う。


「……ったく迷惑かけやがってよお。真面目にやってる俺らまで白い目で見られんだろうが」 

「こいつらポカンとした顔をしてるけど、まさか、まだわかってねえんじゃねえだろうな?」

「マジかよ……カスは自分がカスであることを自覚できないっていうが」


 三人組は、もはや処置なしという感じで、あきれ顔で立ち去ってゆく。


「ちったあオッズさんを見習えよ? あの人、つい最近までおまえたちのパーティにんだろ?」

「……………………」


 去り際の一言に俺は衝撃を受けた。


 ゴミカスでキモキモなりょうの野郎を見習えだと?

 この俺が?


 しかもパーティにだと?

 まるで俺たちの方がお荷物だったみたいに……


「ふざけやがってええええええ…………」

 

 俺は腹の底から声を絞り出した。

 

 悔しさに歯を食いしばる。

 拳を強く握り締めすぎて、血が出てきた。


「ね、ねえ、それはそうとさ、ユルリンは大丈夫~?」


 ふいに真由香がそんな声を上げる。


「…………」

「こ、この前のことなら、ウチもやり過ぎたと思ってるよ。ほ、ほら、LIMEで謝ったろ」

「…………」


 楓も珍しく下手に出て、ごますり笑いをした。


 二人が話しかけているのは、俺たちのパーティのアイテム士、花園はなぞのユルリだ。

 彼女は先程からずっと無言だった。

 いや、もっと言えば、このギルドに着く前からずっと。


 実は、前回の探索時、俺たちは彼女にハードなことをしてしまったのだ。

 薬の実験台として飲ませ、意識のラリった彼女をモンスターの囮として利用してしまったのである。


「い、いや、あんときは俺もどうかしてたよ。ほら、毒にやられててさ?」

「…………いいんですよ別に。それより、本日も頑張りましょうね? わたくしも自作の薬で皆様のお役に立たせて頂きますから、ふふふ……」


 濁った目で、懐から取り出したフラスコを振ってみせる彼女に、俺たちは、ズザザザッと壁際まで後ずさる。

 

 …………今日はこいつの回復アイテムは飲まないでおこう。


「ま、まあとにかくだ、今日はCランクダンジョンに行くんだから、気楽にいこうぜ!」

「そ、そうだよ! わたしたちなら、こんなダンジョンよゆーよゆー」

「たしかに、前回みたいな事態には、なりたくてもなりようがねえな! 低レベル過ぎて、ウチには物足りないぜ、がははははっ」


 大口を開けて下品に笑う楓に、俺は内心「チッ」と舌打ちする。

 

 ……こいつ、前回真っ先にすたこら逃げ出したことを俺が忘れたとでも思ってやがんのか!?

 ふざけた雌ガキがよお……。


 俺は真由香に目をスライドさせた。


 ――こいつもこいつだ。へらへら笑ってやがるけど、俺が苦渋の決断で置き去りにしたことに逆ギレして、あることないことバラしやがってよお(しかし、なんでこいつは俺が童貞ってことを知ってたんだろう?)


 俺はふと、真由香もじっと俺を見つめ返していることに気付く。

 満面の笑みを浮かべているのに、なぜか目だけは笑っていないように見えるが、俺の気のせいか?


「……このセクハラ童貞野郎。よりにもよってこのわたしを囮に使いやがって。今に見てろよ、そのうち超ドブスの雌オークをテイムして、無理矢理脱童貞させてやっからよお……」

「あ? なんか言ったか? 小声すぎて聞こえねえぞ」

「ううん、なにも♪ それより、今日は頑張ろうね♡」

「ああ」



「ふふふふふ」

「ははははは」

「くすくすくす」

「がーっはっは」



 俺たち4人は、顔を見合わせて笑い合う。


 よし。

 今日もチームワークは万全、救国戦隊リューショージャーは絶好調だ!

 

 色々あったけど、栄光ある俺たちパーティが、こんなところでけつまずくはずがない。

 Cランクダンジョンなんか、軽く攻略するぜっ!

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