第24話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#1 中難易度、Cランクのダンジョンに挑みます! ―龍翔視点―

 俺こと星月夜龍翔せいげつやりゅうしょうは、えあるAランクパーティのリーダーだ。


 生まれや育ちに恵まれた上、数少ないスキル覚醒者のさらに希少な勇者スキル持ち、おまけにイケメンとあっては、俺が学校の人気者にならないわけがない。


 現にこれまでは、そうだったのだ。

 これまでは…………。


 


「おはようございまーす」

「おはよう」

「おはーっ」


 今日もそんな声が校門で響き渡る。


 俺はいつものように両手をポケットに突っ込み、肩で風を切りながら、門をくぐった。

 このスタイルが一番格好いいからな!


「おーっす」


 そこらへんにいた見ず知らずの生徒たちに挨拶する。

 器の大きい俺は、自らが有名人であることに奢らず、庶民にも気さくに挨拶することで知られている。

 ま、人としての出来が違うんだよな、俺様は。


 しかし――


「…………」

「…………」

「…………チッ」


 すん……という効果音が聞こえてくるような、沈黙が返ってきた。

 

 ………………?

 おかしいな、いつもは元気のいい挨拶がかえってくるのだが。

 ていうか、最後の奴は舌打ちしてなかったか?


 首を傾げながら昇降口で靴を履き替えていると、今度はクラスの連中と顔を合わせた。


「うす!」


「…………」

「…………」

「…………ぺっ」


 またしても塩対応がかえってくる。

 いったいどういうことだ?

 

「お、おい! おまえら、俺の声が聞こえなかったのか?」


 俺は手近にいた一人に、慌ててたずねた。


 だが、そいつは氷点下の眼差しでこちらを一瞥し、すぐに目を逸らす。

 まるで汚いものでも見てしまったかのように。

 

「……くせえ口開くなよ、カス」


 聞えよがしに吐き捨てると、他の連中と足早に去っていく。


 俺は呆然とその後ろ姿を眺めた。


 こいつら正気か?

 

 何が気に食わなかったのか知らないが、学校一の人気を誇る俺にこんな態度をとって、これからも楽しい学園生活を続けられると思ってるんだろうか。


 だが、教室にいくとさらなる衝撃が俺を待ち受けていた。


 俺の席の周囲に円形の空白地帯ができていたのだ。


 なにを言ってるのかわからねえかもしれねえが、俺もなにが起こってるのかわからねえ。

 とにかく周りの生徒どもが、俺の席から距離をとるように、大きく自分の机を離していたのである。


「な、なんだよおまえら? 俺の席に産業廃棄物でも埋まってんのかあ~?」


 俺のジョークにも、すん……と白茶けた空気が返ってくるのみだ。


 どこか後ろの方からぼそぼそと声が聞こえてきた。


「あいつ、よく平気な顔で学校に来れるよなあ……」

「あんな生き恥さらしたら、俺なら生きていけねえよ」

「産業廃棄物って、あいつ自身が産業廃棄物みたいなもんだから、ある意味合ってるかもな」


 控えめな、しかし、明確な嫌悪感に満ちた陰口が俺の耳朶に響いた……。



 

「いったいどうなってやがんだよおぉぉーっ!」

 

 昼休み。

 校舎裏のスペースに、俺の叫び声がこだまする。


「なんで学園スターの俺が、いきなりハブリみたいな扱いを受けんだよ、意味わかんねえだろ!」

「……実はわたしもなのよね」


 俺の言葉に真由香まゆかが告げた。


「なに?」

「わたしも、今朝からクラスの女子にハブられててさ……。LIMEグループでも既読無視されるし」

「わたくしもですわ」

「ウチもだ」


 ユルリとかえでも続く。


「……いったいどういうことだ?」


 俺たちは眉をひそめた。

 

 ここにいる全員に共通することといったら――


「先日のダンジョン配信のことしかないのでは?」


 俺たちは一斉に振り返る。


 校舎の曲がり角に一人の女子生徒が立っていた。

 

 ちょっと前にもそっくり同じ光景を見た。

 今回もそこに立っていたのは、あの女だ。


柊那栖菜ひいらぎなずな……」


 真由香がいまいましげな声で呟く。

 こいつは昔から、自分より上玉の女が大嫌いなのだ。


「なんだよ、生徒会長が俺たちになんか用か?」

「別に。ただを迎えに行こうとしたら、たまたまあなたたちを見かけたから」

「彼?」

尾妻おづま君のことだけど」


 不快な名前を聞いて、思わず顔をしかめる俺たち。


 それにしても、生徒会長がなんであんなゴミカスの出迎えなんかするんだ?


「……もしかしたら、あいつが原因じゃね?」


 不意に楓が呟いた。


「どういうことだ?」

「ウチらに追放されたことを逆恨み。で、あることないこと言いふらしてまわっているんじゃねって話」

「そういうことでしたの……」

「ありえそ。あいつキモいし」


 合点がいった俺は、怒りに拳を震わせる。

 散々俺らの世話になっておきながら、恩を仇で返してきやがって……。

 飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのことじゃねえか!


 しかし――


「違う」


 生徒会長が叫んだ。

 思いの外強い声に、俺たちはギョッとして顔を強張らせる。


「彼は絶対そんなことはしない」

「じゃあ何が原因だってんだよ!?」

「本当にわからないの?」


 柊は人形のように小さく整った唇から、一つ嘆息を漏らした。


「……そういえば、今日、探索者ギルドに行くんだって?」

「それがどうした?」

「さすがに、そこに行けば、いま自分たちの置かれている状況があなたにもわかると思うわ」

「…………なにぃ?」


 イライラと眼前の女を睨む。


 こいつは何が言いたい?

 思わせぶりな発言をしやがって……。


 その時、校庭の方から凄まじい歓声が聞こえてきた。


「オッズ君が来たぞ!」

「おお、うちの学校から英雄が!」

「これから体育館で記者会見だってよ!」

「マジですげえよなあ!」


 ――オッズ?


 咄嗟に誰のことかわからなかったが、俺の脳内でその名が幼馴染みの間抜け面に変換される。

 

 涼のくそボケ野郎のことか?


 英雄ってどういうことだ?

 なんで、こんな所まで聞こえてくるぐらい、生徒どもが興奮して騒いでいやがる?


「り、りゅーしょー」

「あん?」

「これ見て!」


 真由香がプルプル震える手でスマホを差し出す。


 そこには、大手ニュースサイトのトップページが表示されていた。

 大きな記事で見出しが書かれている。


『探索者の高校生、アンブローシアの製法書を発見。世界初の快挙』


 その下の写真には――涼のキモ面がアップで写っていた!


「……………………おい、こいつはなんの冗談だ?」

「わ、わかんないよ。わたし、昨日は疲れて一日中寝てたし」


 俺もだ。

 例のAランクダンジョンから辛うじて生還できたものの、さすがに身も心もクタクタになってずっと寝てた。


 なので、世間でなにが起きてるのか、まったく知らなかったわけだが……。


「それじゃ、私は彼を迎えに行くから」


 そう告げて、校庭の方に向かう生徒会長。


「お、おい!」


 俺の声に、彼女は肩越しに振り返る。

 

「……一つだけ忠告しておいてあげる。あなたたちは、Cランク以上のダンジョンに行かない方がいい」

「ああ!?」

「まずDランクで探索の基礎を学び直した方がいいわ。死にたくないならね」

「な、なんだとおっ!?」


 それだけ伝えると、くるりと反転し、あとは振り返ることもなく、校庭へと歩き去っていく。


 俺たちは、呆然と彼女の姿を見送った。


 なんだあの女……。


 あの涼が世界初の発見だと?


 いったいなにが起こってやがるんだ…………

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