第9話 【救国戦隊☆リュウショージャー】#2 高難易度、Aランクのダンジョンに挑みます! ―龍翔視点―

 俺たちは順調にダンジョンを進んでいった。


 道中、何度かモンスターに出くわしたが、もちろん余裕でなぎ倒してゆく。


《マジでつよつよのパーティだな》

《さすがAランクやね》


 次第に増えていく視聴者数に、内心でほくそ笑む。

 

 ――まず圧倒的な実力を見せつけ、リスナーを畏怖させる


 これが俺のファーストプランだった。

 

 そう。 

 俺が欲しいのは、目先の人気じゃねえ。

 もっと絶対的な尊敬と崇拝――カリスマなのだ。


 なぜなら、生まれながらに多くを持っている俺が、最後に手にするにふさわしいものがそれだからである。


 俺はふと、幼なじみのボンクラのことを思い出した。


 なにやら校門前でスカウトされていたが、あの連中はまるでわかっちゃいない。

 

 りょうのやつがバズったのは、しょせん悪目立ち。

 あんなキモキモのよわよわ野郎は、結局世間のヘイトしか集められない。


 賢くて先見の明のある俺はそこを見抜いて追放したわけだが、他のパーティの奴らは俺よりオツムが足りなくて、長期的な損得計算がしっかりできないのである。


「おおっと、宝箱発見でーす」


 俺はある小部屋に辿り着くと、カメラに向かって告げた。


 煌びやかな装飾の施された宝箱だ。

 あらかじめこのダンジョンのマップを見て、未回収のお宝がある場所を調べておいたのである。

 

 なんたって、宝の発見は配信映えするからな。


「じゃあさっそく開けてみまーす」


 俺はにこやかに宣言すると、背後のパーティメンバーに手ぶりで開けるよう指示した。


 ――が、誰も動かない。


「ん? どうした?」


 再度促すも、いつもは迅速に俺のめいを聞くはずの女どもが、どういうわけか尻込みしている。


「ほ、ほら、龍翔りゅうしょうが困ってるでしょ? 早くしなさいよ!」

「……わたくしには宝漁りのような下品な行為は似合いませんわ。カエデさんにぴったりではなくて?」

「お、おまえなぁ……トラップが怖いからって押し付けてんじゃねーぞ!」


 トラップ……?

 俺はダンジョン情報の記された地図を確認する。


 たしかに、『宝箱←ただし、10%発動の毒トラップ有』という注釈が記されていた。


「たかが10%だろ? さっさと開けろよ!」


「「「じゃあ自分でやれば?」」」


 口をそろえる彼女たちに、俺は、うぐ、と言葉に詰まる。

 

 宝箱のトラップは即死系の威力のものが多い。

 それがわかっているから、誰も積極的に動かないのである。


《なんか揉めてね?》

《どしたん?》


 リスナーも異変を感じたのか、コメントで騒ぎ始める。


 俺はますます焦った。

 くそ…………これまではこんなことはなかったのに。


《というか、今まではどうしていた?》


 今まで?

 そりゃもちろん――


「全部、涼のやつにおしつけ――」


 真由香まゆかが慌てて俺の口を押さえた。


「い、今まではじゃんけんで決めてましたあ~」


 引きつった笑みを浮かべ、テヘペロと舌を出す。


 こうなっては仕方ないので、俺たちは彼女の出任せどおり、じゃんけんをすることになった。


「じゃーんけーん、ポン!」


 俺のかけ声とともに、手を突き出す女たち。

 俺は自慢の動体視力を活かし、ほんの少しだけ遅く手を出す。


《いま後出ししなかったか?》

《マジかよ!? せこw》

《あとでスローで確認してみます》


 負けたのは、かえでだ。


「クソが……」


 うめき声を上げる彼女。


「まゆゆん、おまえのサーバルタイガーで開けられねえのかよ?」

「無理。動物系にそこまで複雑な命令はできないって」

「チッ、つかえねーな……」


 忌々し気に毒づく楓をにらみつける真由香。


 こいつら、配信中ってことを忘れてねえだろうな……。


「万一に備えて、毒消しは用意しておきますわ」

 

 ユルリの言葉に、楓はようやく腹をくくった顔になる。

 

「じゃあいくぜ! さん、にー、いち――オラッ!」



 パカッ――――ぶしゅうううううううっっっっっ。


 

「うおおおっ!?」

「きゃぁぁぁぁ!?」

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

「ぐぼぉ! 目が目がぁぁぁっっっー!?」


《たかが10%とかフラグを立てるから……しかも部屋全体に噴射するタイプだし》

《っていうか、おまえらそこまで揉めたら、やめとけや》

《自業自得すぎる》


「おい! はやく毒消しをよこせ!」

「あっ!?」


 俺はユルリからひったくるように毒消しの小瓶を取った。

 しかし、瓶は3つある。


「なんで3つもあんだよ? どれが毒消しだ?」

「3つとも毒消しですわ。毒の種類まではわかりませんでしたので、とりあえずよくある毒に対応したものを3つ作っておいたのですわ」

「チッ……」


 俺は舌打ちすると、3つとも口元に持っていこうとする。

 やばい、手が震えてきやがった……。


「だ、駄目です!」

「なにぃ!?」

「強い薬なので、今回の毒に対応していないものを飲むと、体内で化学反応を起こして、逆に命の危険がありますわっ!」

「な、なんだと……」

 

 やべえ、目がかすんできやがった……。

 

 どうすりゃいい?

 俺はこんなところで死ぬわけにはいかねぇんだ。


 あの役立たずのポンコツ涼さえいれば、奴で人体実験できるのに……。


 ――そうだ!


 俺はユルリを押さえつけると、適当に選んだ解毒剤の一つを彼女の喉に流し込んだ。


「ぐぼおおおっっっっ!」


 白目を剥くユルリ。


 てことは、これじゃねえ。

 こっちか?


 俺は、手足をぴくぴくさせている彼女の口に、次の瓶を突っ込む。


「げええええエロエロエロッ!」


 奇怪な絶叫を上げ、うつ伏せに倒れるユルリ。


「じゃあ、残りのこれだ!」


 俺は最後の解毒剤を、目を瞑って飲んだ。


 ――ごくりっ


 体からすぅーっと痺れが抜けてゆく。


「わ、私にもちょうだいよっ!」

「ウチにも!」


 真由香と楓が、先を争って瓶の残りをすする。


《わいの見間違いかな? いまこの人たち、仲間で人体実験したように見えたんだが》

《見間違えじゃねえだろ。ドン引きやで……》

《毒自体は大したことなさそうだけど、このパーティの本性を暴いたという点で、大した毒だったな》

《↑うまい》


 俺は楓にユルリを背負わせると、宝の回収も忘れて、部屋を後にした。

 もうこうなっては、いったんダンジョンから撤退するしかない。


 しかし、ここからがさらなる地獄の始まりだった……。

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