Aランクパーティを追放され、ソロでダンジョン配信を始めたら迷惑系認定されてしまった僕だけど、不死身スキルがバズって、美少女と攻略することになってしまった。なので今更戻って来いと言われても、もう遅い
第19話 【実況】#7 ワイ氏、Aランクダンジョン『死の顎』に挑戦
第19話 【実況】#7 ワイ氏、Aランクダンジョン『死の顎』に挑戦
《うおっ!? なんだこれぇぇぇ!》
《宝箱に擬態したモンスターだと!?》
《こんなの実在したのかよ!》
噛まれた直後こそ悲鳴を上げたものの、即座に歯を食いしばって、足で宝箱――いや、宝箱に擬態したモンスターの上顎を蹴り上げる。
バカン、と勢いよく「蓋」の部分が開いた。
同時に鋭い牙が彼女の腕から抜ける。
「――――ッ!」
顔を歪めて跳び退り、擬態生物と距離を取る彼女。
ミミックはしばらくの間、長い舌で周囲を探っていたが、獲物が消えたのを悟ったのか、口を閉ざして動かなくなる。
どうやら自分で移動することはできないらしい。
「ひ――フェンリルナイトさん……!」
「……大丈夫だ。大したことはない」
明らかに大怪我を負っているにも関わらず、平静を装う彼女。
「油断したよ。自業自得だな……」
「いや、僕の責任だよ! 僕が開ければよかったんだ」
念には念を入れて、僕が開けていれば……。
臍を噛むが、もう遅い。
「とにかく傷の手当をしよう」
「その前に、これを受け取ってくれ」
柊さんはそう言いながら、ゆっくり左手を開いた。
震える掌の上に、なにか黒いものがある。
指輪のようだ。
「……これは?」
「さっきの宝箱……いや、モンスターの腹の中にあったものだ」
《うお、マジかよ……》
《よく咄嗟に握りこんだな》
「おそらくこれが奴を倒すキーアイテムになるはずだ。なんとしても脱出するぞ!」
「うん!」
僕と柊さんは、敵を睨みつける。
件の獅子は、高笑いこそ終えていたが、にやにや笑いをまだ張り付かせたまま、僕たちを眺めている。
まるでなにかを期待するように……。
しかし、事態は深刻だった。
「すまんな……」
普段気丈な柊さんが、意気消沈した声でもらす。
彼女の両腕は、僕でさえ思わず目をそむけたくなるレベルの損傷を受けていた。
かろうじて繋がっているものの、腕を自力で持ち上げることも叶わず、まして剣を振るなど論外だ。
「……大丈夫だよ。回復術師の治療を受ければ、元通りになるから」
「そうだな」
『生きて戻れれば』という言葉が僕の語尾にも彼女の語尾にも潜んでいたが、お互い気付かないふりをする。
最悪の事実はもう一つあった。
「……これは自爆アイテムだな」
例の指輪をアイテム鑑定スキルで調べた柊さんが告げる。
「ご丁寧に発動条件も記されているよ……『心から我が身を犠牲にすることを望む時、発動する』だそうだ」
《ふざけてるにもほどがあんだろ……》
《自爆なんか、誰がしたくてするかよ》
《マジで悪意しか感じねーな、このダンジョンはよお……》
僕はようやく、すべてを悟る。
レベルやチートスキルと比較して、ボスの254という最大HPの値は不自然に少なすぎると、最初から思っていた。
そのこたえが、この指輪だったのだ。
《自爆ってあれだろ? 自分のHP分を相手にダメージとして与えるやつだろ?》
《もしかして、ボスのHPが低めなのって――》
《一発で共倒れできるようにってことやろ》
《マジで悪意しか感じん……》
一切の攻撃が通じないボスを唯一倒せるアイテム。
僕は彼女から受け取った指輪をギュッと握りしめた。
――僕ならその裏をかける。なのに…………
《ちょっと待て。オッズ氏なら普通に使えるだろ!》
《そうか! 自爆しても死なねえよ!》
リスナーさんたちもそのことに気付いたみたいだ。
でも――
《いや、無理やで》
《なんで?》
《わいは前回の配信から見てるんやけど、たしか彼の最大HPは1だったはず》
そう。
僕の最大HPはたったの「1」しかない。
これはつまり自爆しても敵に与えられるダメージが「1」しか出ないことを意味する。
ボスのHPは254だから、254→253になるだけだ。
蚊に刺された程度の痛痒しか感じないだろう……。
《なんてこった……》
普通Aランクダンジョンまで来れるような探索者だったら、後衛職でもHP300はあるに違いない。
このダンジョンを作ったのがどんなに悪知恵の働く人だったとしても、まさかHP1の人間が来るなんて、想定していなかったのだ。
その結果がこれである……。
僕はふと、例の獅子が人差し指を動かしていることに気付いた。
くいくいっ動かし、こちらの注意を引いている。
僕が視線を向けたことに気付くと、嗜虐的な笑みを口の端に浮かべつつ、その指を少し離れた柱の陰に向ける。
そちらを見た僕は思わず息をのんだ。
《うわ、なんだこれ!?》
《鎧を着た死体?》
《何体あんだよ……》
そこには、山のようにうず高く白骨死体が積まれていた。
僕たち同様、この部屋まで辿り着いたものの、進退窮まった探索者たちのなれの果ての姿だろう。
半ば風化した骸もあるので、このダンジョンが「こちら側」に現出する以前から、同じ悲劇が繰り返されてきたに違いない。
《オッズ氏! フェンリルナイト氏も気を確かに持てよ!【¥50,000】》
《せやで! わいらがついとる【¥50,000】》
《わいも精一杯の支援や!【¥500】》
《いや、おまえ投げ銭渋すぎん?w》
こんな時でも平常運転のコメント欄に、かえってホッとする。
同接は200万人を超えていた。
今なお凄まじい勢いで増えている。
「頑張って」「戻ってきて」――
そんな切なるコメントが、相変わらず流れ続けている。
僕は改めて、自分たちの発見の重大を思い知らされた。
この製法書に何百万人もの命運がかかっているんだ……。
「お、
ふいに柊さんが僕に小声で語り掛ける。
「どうしたの? 傷が痛む?」
「いや、それはもういい。それより、指輪を渡してくれないか」
「なんだって?」
「
「……なにを言ってるの?」
「私なら奴を倒せると言っているんだ」
「嫌だよそんなの」
僕は言下に告げた。
「……子供みたいなことを言ってる場合じゃないぞ。こうしている間にも、出血でじりじりHPが減っているんだ。早くしないと手遅れになる」
「絶対渡さないよ」
「だから――」
くくくくくくく……。
ふいに忍び笑いが聞こえてきた。
例の獅子がいよいよ笑みを深くして、僕たちのやり取りを見つめている。
楽しくて仕方がないといった様子だ。
おそらく、これまでも同様のやり取りを幾度となく見てきたのだろう。
僕はもう一度、白骨死体の山を見る。
遺体の傍に黒い指輪がたくさん転がっていた。
最後まで使えなかったのか、それとも使おうとしたが覚悟が足らずに発動してくれなかったのか……。
再び視線を戻し、獅子のにやけ面と対面する。
僕は大きく息を吸い込み、あえて挑発的な笑みを浮かべて見せた。
「失敗したな! おまえのおかげで、攻略方法を思い付いたぞ!」
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