Aランクパーティを追放され、ソロでダンジョン配信を始めたら迷惑系認定されてしまった僕だけど、不死身スキルがバズって、美少女と攻略することになってしまった。なので今更戻って来いと言われても、もう遅い
第20話 【実況】#8 ワイ氏、Aランクダンジョン『死の顎』に挑戦
第20話 【実況】#8 ワイ氏、Aランクダンジョン『死の顎』に挑戦
「失敗したな! おまえのおかげで、攻略方法を思い付いたぞ!」
不敵に宣言する少年に、獅子の表情から笑みが消えた。
……虚勢ではない。
追い詰められた探索者を腐るほど見てきた彼には、そのことがはっきりとわかった。
その獅子は
領主の息子という境遇に生まれ、何不自由なく育ち、やがて自らも領主の座についた。
そんな彼の元に、ある日、一人の男がやってきたのだ。
――ダンジョンを造っていただきたい
開口一番、男は言った。
なぜそんなことを頼むのか、と問うと、次のようにこたえる。
――あなたの性格がきわめて悪いという評判を聞いたからです
その評判が正しいことは彼自身がよく知っていた。
――どうか領民に嫌がらせをするときの熱意と悪意をもって、ことに当たって頂きたい。完成した暁には、あなたの終生の夢である「不老不死」を差し上げますので
なぜその男が彼の密やかな願望を知っていたのかはわからなかったが、とにかく彼は了承した。
趣味と実益を兼ね、領民を死ぬ寸前まで酷使してダンジョンを完成させると、再び男が現れた。
――素晴らしい! こんなにも悪意に満ちたダンジョンは初めてだ!
死の顎という名前にしたよ。
――いい名ですね! では、約束通り不老不死にして差し上げます。目をつぶってください
次に目を開けた時には、もうこの姿でダンジョンマスターとしてここに幽閉されていた。
以来、数千年――
退屈で退屈で退屈で退屈で、とにかく退屈で仕方なかった。
欺かれたという怒りはとっくの昔に消えうせ、その後は永遠に続く時間という名の拷問。
唯一の心の慰めは、たまに紛れ込んでくる探索者たちだけだ。
彼らが絶望し、心底後悔し、互いにいがみ合い、殺し合いをするのを見ることだけが、唯一の娯楽だったのに――
「うおおおおおおおっ!」
雄たけびを上げながら突っ込んでくる男。
彼の右手には、あの黒い指輪がはめられていた。
獅子は、失望のあまりため息をもらす。
……一番つまらない展開だ。
どうせ自爆などできはしないのに、「死ぬ覚悟ができている」自分に酔いしれて、特攻してくるパターン。
彼は再度ため息を吐くと、剣を振り上げた。
瞬間――
ボォォォォォォォン!
派手な音とともに、熱風と衝撃波が獅子の体を打ち据えた。
「!?」
思わず、身体を硬直させる。
少年が、彼の目の前で、ゆっくりくず折れて床に突っ伏していった。
…………驚いた。
指輪の使用を試みる探索者は今まで何百人も見てきたが、実際に発動させた者は初めてだ。
だが、それ以上に不思議なのは、自分の体に損傷がないことだった。
痛みさえ感じず、ダメージを受けた感じがまるでしない。
獅子は、自分のステータスを確認した。
――――――――――――――――――――
職業: ダンジョンマスター
レベル: 9999
HP: 253/254
MP: 0
攻撃力: 9999
防御力: ――
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: ――
スキル:
・物理攻撃無効
・魔法無効
・ステータス異常無効
――――――――――――――――――――
HPが1しか減っていない。
……つまり、最大HP1で特攻してきたのか?
「くく……くくくくくくく」
喉の奥から笑いが漏れる。
「ふはははははははははっ!」
退屈だと思っていたが、まさかこんな喜劇が見れるとは。
いやいやこんなに無意味な死があろうか?
まさに犬死ではないか!
「へぇ、肉体的な損傷は受けないのか」
高笑いしていた彼は、その言葉を発したのが誰なのか、とっさにはわからなかった。
顔を上げると、件の少年が何事もなかったように立ち上がっていた。
「自爆っていうから派手に吹っ飛ぶのかと思ったけど、痛くもかゆくもなかったなあ」
《乙~》
《今回、復活早かったじゃん?》
「たぶん最速ですね」
《しかもぜんぜん苦しくなさそうw》
《いつもやばい死に方してるから、正直ホッとしたわ》
《最楽死って感じ?》
「たしかに。これまでで、一番楽な死に方だったかも」
……………………………………………………………待て。
これはいったい、どういうことだ?
なぜ、あいつが生きている?
そして、なぜあのドローンとやらで観ている連中も、平然とそれを受け入れているのだ?
「…………さすがに驚いたようだな」
女探索者が床に伏したまま、笑んだ。
「彼は不死身なんだよ。『無事死亡』それが彼のユニークスキルだ」
「……………………」
嘘だ。
そんなものがあるはずがない。
死は不可逆的で絶対なもののはずだ。
いったん死んだら、生き返りなどあるはずがない。
だからこそ、俺は
「よし! じゃあ次のプランに移りまーす」
少年は何事もなかったかのようにドローンに宣言すると、室内をすたすたと歩き始めた。
気が付けば、獅子は無意識に後退していた。
胸の鼓動が速い。
顔を伝う汗も妙に冷たかった。
なにより、この胃をつかまれているような不快極まりない気分はなんだ……?
彼はようやく、その感情の正体を思い出した。
数千年ぶりの恐怖が彼の心に去来していた。
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