第34話 【悲報】ワイ氏、追放されたパーティから戻ってきて欲しいと言われてしまう

「こんにちは。オッズです」


 僕はドローンに向かって、お辞儀しながら挨拶した。


「皆様、先日は応援ありがとうございました。おかげでこうして生きて帰ってこれました」


《おー、お疲れさん》

《おつおつお~。オッズ氏もすっかり有名になっちゃったねぇ。でも、変わらず腰が低くて、なんかホッとするわ》

《わいも。ところで、どこから配信してるん? ダンジョン内じゃないみたいやけど》


「あ、ここはギルドの中です。今日はちょっと皆様にご報告したいことがありまして」


《おお、どっか見覚えある背景だと思ったけど、ギルドの東京本部か》

《で、報告って?》

《チャンネル登録者数のことじゃね? 一晩で300万人を超えてて正直ビビったわw》


 僕はチラリと右下に表示されている同接人数を確認する。

 

 40万人か。

 特にSNSとかで告知せず、開始して1分にも満たないのにこの人数だ。


 リスナーさんが言うように、改めて自分を取り巻く状況が一変したのだと再認識する。

 

《それより、オッズ氏の隣に立ってる人が気になる》

《俺もさっきから気になってた。失礼だけど、すごい美少女やな》

《別に失礼じゃねーだろw》

《ファンの子? じゃねーよな、鎧着てるし》

 

「あー、実は報告って、その件なんです。今日からこちらの方と正式にパーティを組むことになりまして、そのお披露目的な感じの回になります、ハイ」


 そこはかとなく照れくさくなって、最後にハイと付けてしまった。


 こうやって口に出すと結婚報告みたいだ、とかちらりと思ってしまったからだ。

 ひいらぎさんに失礼過ぎるから、絶対口に出せないけど。


「皆様、初めまして……といっても、いま見ているほとんどの人は、この前の配信も見てくれていたでしょうから、改めましてとご挨拶した方が良いかしら」


 柊さんが口を開いた。


《うーん?》

《どゆこと?》

《美少女さん、頭の悪い俺にもわかるように言ってくだされ~》


「私がフェンリルナイトです。こうして、兜を外して、人前に出るのは初なのですが」


 

 コメント欄が静まり返った。


 

《え゛》

《え゛え゛っ!?》

《なに? 冗談?w》


 ふじこ構文こそないものの、困惑したコメントがホロ画面を覆う。

 

《おまいら落ち着け。彼女の着ている鎧の色を見てみろ》

《そういや、この白銀の鎧って、たしかS級探索者の彼しか装備できないやつだったよな?》

《いや、じゃなくて、やろ》

 

「本日づけで、オッズ氏のパーティメンバーを務めさせていただくことになりました。ふつつか者ですが、の足を引っ張らないよう頑張りますので、よろしくお願いします」


《え? てことは、オッズ氏がリーダーってこと?》

《S級探索者の彼女を差し置いて?》


 そうなのだ。

 彼女に「それだけはどうしても譲れない」と言われて、僕の方がパーティーリーダーとして登録することになってしまった。

 譲れないっていうか、僕としては譲らないで欲しかったのだが。


《ま、それもいいかもな》

《オッズ氏、洞察力と決断力が並外れて優秀マンやからなあ》


「そうですよね! さすがはこのチャンネルのリスナー様、目が肥えていらっしゃいます!」


 なぜか目をキラキラさせて誇らしげに告げる柊さん。


《でも、ふつつか者ですが、とか結婚の挨拶みたいやねぇ~》


「や、やだもう! なに言ってるんですかぁ~」


 彼女は顔を真っ赤にすると、平手で、バシィッ! とドローンを叩いた。


 

 ベシャッ。


 

 ドローンが壁に激突する。


《うお、が、画面が!?》

《おい! このドローン、高いんやろ?》


 かろうじて、よろよろと再浮上するドローン。


 ……うん、やっぱり予想通りだ。軽口のつもりでも柊さんにそんなことを言ったら、激しく不愉快にさせてしまうところだった。


 自分の洞察力が優れているとはまったく思わないけど、女子の気持ちを忖度する能力は存外高いのかもしれないな。

 

 僕が一人でうんうん頷いていると、突然横合いから、聞き覚えのある声が浴びせかけられた。


「りょー!」「尾妻おづまさん!」「りょう!」




 声のした方を振り向くと、通路に三人の女子が立っていた。


「なにやってんの?」


 ボブカットの小柄な少女が、腕を組みながらたずねる。


「あー、いや、ちょっと配信してて」

「ふーん……」


 真由香まゆかはじろじろと品定めするように、僕の隣に立つ柊さんを爪先から頭まで眺めまわす。


「……で、その女は?」

「いや、こいつ、ウチらの学校の生徒会長じゃね?」

「あの小生意気で見下すような顔、間違いありませんわ!」


《出た。りゅーなんたらの取り巻き三人衆》

《色んな意味でまだ生きてたのか。わい、こいつらのチャンネルブロックしとるから、知らんかったわw》

《つーか、小生意気で見下すような顔って、ブーメランになってますけど、大丈夫ですかあ?》


「おつかれさま。昨日は災難だったわね」


 先刻までとは打って変わった事務的な口調で、応じる柊さん。


「……どーも」

星月夜せいげつやくんがいないみたいだけど?」

「さあ? 今朝、治療室から急にいなくなったし」

「ったく、ウチらが看病してやったのによぉ」

「お礼も述べずに、目を離した隙にどこかへ行ってしまったんですの」

 

 直感的に付きっ切りで看病とか嘘じゃないかと思ったけど、成長著しい女子の心情を汲む力を発揮し、思い直す。


 ……いくら彼女たちでも、怪我をしたリーダーの世話ぐらい、ちゃんとするはずだ。うん。


「で、なんで生徒会長がこんなとこにいて、しかも鎧なんか着てんの?」

「おい! こんな女のことはどうでもいいだろ。それより、ウチらの用事をさっさと済ませようぜ」

「そうですわ。こんな下品な成り上がり者なんて、放置でよろしくてよ」 


 いや、ユルリさん、あなたの家って大手製薬会社だけど、せいぜい祖父の代からですよね?

 彼女は本物の旧家のご令嬢ですけど?


《誰かこの女性に鏡を貸して、下品な顔がどんな顔なのか教えてあげて》


「……なんか僕に用?」


 内心の嫌々感が表情に出ないよう、完璧なポーカーフェイスを保って、僕はそう尋ねる。


《オッズ氏、めちゃ迷惑そうw》


 ……全然保ててなかったみたいだ。


 三人は同時に息を吸い、異口同音に告げた。


 

「「「尾妻涼、私たちのパーティに戻ってきなさい!!!」」」 

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