第35話 【速報】ワイ氏、今更戻って来いと言われても遅いので断った模様

「「「尾妻涼おづまりょう、私たちのパーティに戻ってきなさい!!!」」」 


「は?」


 僕は間の抜けた声を上げる。

 なにを言っているのか、とっさに理解できなかったからだ。


 ……今、僕は戻ってこいと言われたのか? 

 さんざん僕をなじった末に、一方的に追放した女子たちに?


 絶句している僕を見て、彼女たちは顔を見合わせると、再度口をそろえて告げた。


「「「尾妻涼、とっとと私たちのパーティに戻ってこい!!!」」」 


《 《 《 《 《 いや、逆にひどくなってんだろ!!! 》 》 》 》 》


 リスナーさんのコメントに、ようやく我を取り戻す。


「……えーと、どういうこと? 僕はキモくて使えないからクビになったんでしょ?」

「んー、りゅーしょーはそう言ってたけどさぁ~、しぃ~(いなくなってわかったけど、こいつってすごく使い勝手がいいのよねぇ~、りゅーしょーと違って扱いやすいしぃ)」


《よくもこう見え見えの嘘を付けるよなあ》

《厚顔無恥を体現する女》

《「使い勝手がいいのよねぇ~、扱いやすいしぃ」←心の中の声》


「おまえも一人になって心細いんだろ? そろそろ反省してる頃合いだし、特別に過去のことは水に流してやるぜ(うまい汁をすするなら、こいつに注目が集まってる今だぜ! あと、やっぱり人間サンドバックがいねえと、ストレスがきちぃ~)」


《反省てw どう考えても反省するのはおまえらなんだが?》

《反省だけなら猿でもできるっていうけど、こいつらは猿以下だから仕方ない(´・ω・`)》

《発言の要約→「うまい汁をすするなら今だぜ! 人間サンドバックも恋しい」》


「下の者の粗相を寛大な心で許すのも、上級国民の義務ですわ。戻ってきたいとあなたが懇願するなら、その想いを受け止めてあげてもよろしくってよ?(ふふ……ここまで言われたら、あなたの頭の中は、『戻りたい』で一杯でしょう? まぐれで得た知名度、根こそぎ奪ってさしあげますわ! そして、傀儡薬で一生わたくしの奴隷に……)


《アヘ顔さらしたり、探索の下調べもせずやばい薬を作ってたりと、粗相しまくってるのは、あなたですやん》

《なにげにオッズ氏の方が復帰を頼んでる風に改変してて草。こいつらどんだけプライドたけーんだよ……》

《「知名度を根こそぎ奪ってやる! そして、傀儡薬で一生奴隷に……」←こいつが脳裏で思い描いている、雑な人生プラン》

《さっきから、的確に心理をよんでる奴がおるな?w》


「いや、悪いんだけど――」


 僕が口を開きかけると、ずいっと僕の前に誰かが体ごと乗り出してきた。


「……悪いんだけど、帰ってくれる?」


 ひいらぎさんだ。


「はぁ? なんなのあんた?」


 腰に手をあて、下からねめつけるように真由香まゆか

 前から思っていたんだけど、彼女は美人に風当たりがきつい。


「彼のパーティメンバー……パートナーですけど」


 3人の差すような視線を正面から受け止めつつ、柊さんは言い放つ。


 でも、なんでパーティメンバーをパートナーに言い換えたんだろう?


「てめえじゃ話になんねぇよ。ウチらは涼に聞いてんだ!」

「………………」


 柊さんは押し黙った。

 真面目な彼女は、リーダーたる僕の代弁を、自分がこれ以上務めるのは差し出がましいと考えたのだろう。

 

 ここは僕が自分でこたえねばならない。

 幼なじみたちを突き放すのは心苦しいが……。


「悪いけど、君たちの要求にこたえることはできない」


「「「な――――――!」」」


「僕は彼女――フェンリルナイトさんと探索をする決意をすでに固めてしまったんだ。彼女のご家族にも約束してる。だから――」


 僕は一呼吸おいて、はっきりと告げた。


「今更戻ってきて欲しいと言われても、もう遅いよ」


 3人は絶句して僕を見つめるばかりだ。


《いや、あたりめーだろw》

《今まで、てめえらがオッズ氏にしてきたことを考えてみろや》

《「この私たちが頭を下げてやってるのに断るとか、正気なの!?」←次に言いそうな台詞》


「この私たちが頭を下げてやってるのに断るとか、正気なの!?」

「てめえ……後悔するなよ? ペッ」

「少し有名になったからといって、天狗になっていらっしゃるようですわね。あとで涙目になっても許しませんわよ?」


 3人は口々に捨て台詞的なものを吐いた。


 けど、幼なじみの僕にはわかる。

 きっと素直になれないだけで、本当は心の中で反省しているに違いない。

 

《オッズ氏はなぜ一人でうんうん頷いてるん?》

《この人はこの人で、人が良すぎて相手の本音が見えてなさそう^^;》


 彼女たちは足音高くその場を去っていった。


 その時、天井付近のスピーカーから、放送が流れてきた。


『現在、ギルドに待機中の探索者たちへ。コード・レッドが発生。これから説明会を開くので、至急ロビーに来られたし。繰り返す、コード・レッドが発生――』


 ――コード・レッド


 ギルドの作った危険度を現すカラーの中でも、もっとも危険な状況を示す色だ。

 これは、ダンジョンの周辺環境に、複数の人死にもしくはそれに類する状況が発生したことを意味する。


 僕と柊さんは、慌ただしくロビーに向かう人の列に加わった。

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