第43話 【実況】#5 ワイ氏、Aランクダンジョン『死霊の臓物』に挑戦

「お、おまえらぁぁぁぁ……この僕にこんな真似をして生きて帰れると思うなよぉぉぉぉっ? 全員醜い化け物にして飼ってやるからなあぁぁぁぁっっっ!」


 フランケ氏は血走った目で叫ぶと、くるりと身を翻した。


《逃げよった》


 僕たちは、すぐに彼のあとを追おうとする。

 しかし――


《うお、合成獣キメラ!?》

《大量にいるぞ!》


 どこからともなく、奇怪な姿のモンスターたちが湧き出し、僕たちの行く手を阻む。


「はっはー、俺からのおもてなしだぁ! ありがたく受けとれ、マヌケ共ぉぉぉぉっ!」

 

 吠えるようなフランケ氏の声が通路にこだまする。


 思わず立ち尽くす僕。

 キメラたちの何体かに、人体の一部が使われていることに気付いたからだ。


「このダンジョンの生還率が異様に低い理由がわかってきたな……」


 ひいらぎさんが呻くように呟いた。

 

「コロス、コロシテ、コロス、コロシテ……」


 眼前の魔物からそんな言葉が流れてきた。

 

 狼の頭部にイカの触手がイソギンチャクのように生えた、奇怪なモンスターだ。

 その胴体には――人間の顔が埋まっていた。


 ……ここにいるモンスターが全部、行方不明になった探索者のなれの果ての姿だっていうのか?


《完全に正気を失ってるじゃん……》

《見てられない。早く楽にしてやって》

  

 十数分後。

 僕たちは、身も心も削りながらようやくすべての合成獣を倒した。


「……あの人をこのまま逃がすわけにはいかない。追いましょう!」


 僕の言葉に全員が頷く。


 逃げられてからかなりの時間が経過していたものの、床に点々と血が付いていたため、足取りを辿るのは容易だった。

 

 ほどなく、僕たちは大広間に辿り着く。


 ここが地下だということを忘れそうなぐらい天井が高い。


 そして、広間の中央にとてつもなく巨大なオブジェクトがあった。


《なんだこれ?》

《肌色の彫刻かな? やけに生々しいけど》

《違う。よく見てみろ、本物の肉でできてるぞ》

 

 それは途方もない大きさの肉塊だった。


「フレッシュゴーレムか……」


 柊さんが呟く。

 

《新鮮な死体を継ぎ接ぎして作ったゴーレムだっけ?》

《こんなでかいの聞いたこともねぇぞ》

《ていうか、首がなくね?》


 リスナーさんの言う通り、その巨人肉ジャイアントフレッシュゴーレムとでもいうべき代物には、頭部が存在しなかった。


《まだ未完成なんじゃね?》


 なにかが引っ掛かった。

 

「……あの巨人の首、やけに小さいと思わない?」

「たしかに。まるで人間の頭のサイズに合わせて作られているみたいだな……」


 巨体に比して、あまりにも首の直径が小さいのだ。


「それに、あの魔法陣も気になるよ」

 

 僕は、ゴーレムの真上の天井に描かれた複雑な幾何学模様を指した。


 ふと、トレ坊の猟犬の人たちが険しい眼差しで、その魔法陣を睨んでいることに気付く。

 

「……あれは、転送魔法陣です」


 トレ坊リーダーさんが告げた。


「しかも、どうやら普通の転送魔法用ではないようです。私たちが開発していた改良型転送魔法に使用する物に似ている……」


 どういうことだろう?


 色々と不明な点が多いけど、一つだけ僕にもはっきりわかることがあった。

 

 

 ――これは敵の罠だ



《俺、なんとなーく敵の作戦がわかっちゃったかも》

《マジで?》

《うん》


 現在の同接人数は100万人を超えている。

 これだけ視聴者がいれば、誰かが敵の罠を見抜いていてもおかしくはない。


 僕はそのリスナーさんの仮説を拝聴することにした。


「……なるほど。たしかにそんな手できそうですね」


《せやろ?》

 

 正直、敵の計略通りにことが進んでしまったら、こちらに勝ち目はないだろう。

 

 ここから先は僕の仕事だ。

 なんとか相手の裏をかき、逆転できる方法を考えねば……。

 


 ほどなく僕は一つの作戦を思いついた。


 

「こんなのはどうでしょう?」


 僕はパーティメンバーとドローンに説明する。



《 《 《 《 「「「「いや、めちゃくちゃすぎだろ!!!」」」」 》 》 》 》

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