第45話 【実況】#7 ワイ氏、Aランクダンジョン『死霊の臓物』に挑戦

「チートスキル『接続』ぅぅぅぅぅっっっっ!」


 叫び終わると同時に、僕にとってはお馴染みの『繋がる感覚』が首の断面に走る。


 ――よーし、うまくいった!


 僕は侵入者共を見下ろした。


 この高さから眺めると、ゴミのようにちっぽけに見える。

 まるで僕と彼らの存在の格差を体現しているみたいじゃないか? ふっ!


 

 どしーん、どしーん、どしーん――


 

 僕はフレッシュゴーレムの巨大な足を動かして、彼らの前に立ちふさがった。


「ふん……驚きのあまり声も出ないか?」


 にやりと笑む。


「これが僕の最終手段『合体巨神王フレッシュフランケ1世』だ!」


《だっせええええwww》

《救国戦隊なみのネーミングセンスのなさ》


「う、うるさい! 外野は黙ってろ!」


 僕は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「いいか、よく聞け。この合体巨神王はなあ、1000人分もの新鮮な死体をベースに――」


「で、これからだが、リーダーはどう考えている?」


 僕の発言を無視して、女探索者が口を開いた。

 

 唖然とする僕。

 しかし、他の連中も僕を振り返ることもなく、会話に加わる。


「うーん、やっぱり他のカシナートの翼の人たちを探すことになるかなぁ……」

「やはり、他の連中もと同様にこの騒動に関わっていると?」

「残念ながらね。トレ坊のリーダーさんもそう思いませんか?」

「思いますね」


 

「おまえらぁぁぁぁーーーっっっ!」


 

 僕は顔を熟れ過ぎたトマトのように赤黒くさせて吠えた。


「自分たちの状況がわかってるのかぁ? ああん!? これからおまえたちはぐちゃぐちゃに踏みつぶされて死ぬんだぞぉ?」


 しかし、やはり誰もこちらを見ようとさえしない。

 僕の怒りは頂点に達した。


「それともあれかぁ、強がってるのかぁ? 現実逃避かぁ? 猿共リスナーの反応を見てみろ、素直に恐怖に慄いて――」



《悪い。わい、是流田ゼルダやってるから、終わったら誰か教えて》

《俺もやるから無理やで》

《2窓でアニメ観てるから、終了したら知らせるよ~》

《おけ》


 

 ブチッ。

 


「ブチころぉぉぉぉぉすっ!」


 僕は巨人の手を振り上げて、探索者たちに叩きつけた。


 いや、叩きつけられなかった。


 代わりに巨人の手が、ぐいっと上方に伸びて僕の頭部を摘んだからだ。


「………………」


 なんだ?

 なにが起こっている?


 なぜ僕は自分の本体あたまを巨人の指先で摘まんでいるんだ?

 危ないじゃないか。


 僕は腕を下ろそうとしたが、下ろせなかった。

 というか、微動だにしない。


 慌てた僕は、とりあえず敵と距離をとるべく、後退しようとした。


 しかし、今度は足が動かない。


「――――――!?」


 ……まさか、スキルの不発?

 巨人との合体に失敗したのか?


「でも、スキルが発動している感覚はある……それに最初に何歩か足を動かせたし……」

「違うな、それはおまえが動かしたんじゃない」


 僕の独り言にこたえたのは、例のフェンリルナイトとかいう女探索者だ。

 

「……どういうことだ?」

「先程その巨人の足を動かしたのは、おまえじゃない。別の人間だ」

「僕じゃなかったら、誰が動かしたというんだ?」

「オッズ氏だよ」


 ………………なにを言ってるんだこいつは。


「僕の身長、1センチぐらい縮んでるですけど、気付きませんでした?」


 今度はオッズ自身が、僕にそう尋ねた。


「まあ気付きませんよね、普通」

「……おまえら、一体なんの話をしている?」

「正確にいうと、背じゃなくて、首が1センチ短くなったんですけど」


 自分の首筋をとんとん、と叩くオッズ。


 ……………………首だと?


 僕は奴の首元をじっと睨んだ。


 そして、ようやくある恐ろしい仮説に思い当たる。


「まさかおまえ………………」


 それ以上、言葉が出ない。


 嘘だ。

 いくらなんでも、そんな滅茶苦茶なことをするはずがない。


 自他ともに認めるぐらいイカれてる僕でさえ、そんなことは思いもつかない。



「はい。



 驚愕のあまり、目を飛び出すぐらい見開く僕。


「じ……じゃあ僕が接続したのは――」

「巨人の首ではなく、です」


 先程、僕は『自分の剣→フェンリルナイトの剣→フェンリルナイトの腕』と繋いで、女の動きを封じた。


 今回も同じように――しかし自分でまったく意図することなく、『自分の頭部→オッズの輪切りにした首肉→巨人の肉体』の順で接続してしまったということになる。


 するとどうなるか。


「僕のスキル『死んでもズッ友』は、死亡時に分離していた肉体を自分の意志で自在に操れる能力です」

「……………………」


 それはもちろん、輪切りにした首の肉も例外ではないのだろう。


 そして、僕はその肉と巨人の体を接続スキルでつないでしまった……。


「ご存じのように、首は脳から発せられた命令を全身に伝える役割を担います。よって、というわけです」


 僕はようやくすべてを悟った。


 最初に数歩巨人の足を動かしたのは、僕ではなかった。

 僕が自分の意志で歩いたと思っていただけで、実際はこのオッズが足を動かしていたのを、自分で動かしていたと錯覚していただけだったのだ。


 要は、最初からこいつの掌の上で踊らされていたのだ。


「まあこんな風に解説しちゃってますけど、そもそもこの作戦はリスナーさんのおかげで思いついたんですけどね」

「な、なに……!?」

「あなたの巨人の体と転移魔法陣を見て、どういう戦術でくるかを的確に読んでくれたリスナーさんがいたんです。そこから、このプランを立てたわけです」


 …………リスナーだと?

 

 するとなにか? 僕は、なんのスキルも持たず、ゴミのように見下していた猿共に、出し抜かれたっていうのか?


「リスナーの皆さん、いつも本当にありがとうございます!」


 ドローンにぺこりと頭を下げるオッズ。


《いーってことよ。それより、巨人の体を動かすってどんな感じなん?》

《わいも気になった。やっぱフルダイブ型VRみたいな感じ?》


「うーん、ちょっと違うような気がしますねぇ……。なんて言ったらいいか、身体が2つに分裂して、同時に動かしてる感じかな?」


《へえ》


「今はこうして立ち止まってるからいいけど、自分の体を動かしつつ、巨人の体も動かすと、パニックになりそうです」


《おもろ(笑)》


  

「ゆ…………許さんぞ、おまえら……」


 僕は声を震わせて呻いた。


「この僕にここまで屈辱を味わわせて、ただで済むと思うなよ」


《……………………》

 

「全員ブチ殺す! 猿共も一人残らず見つけ出して、皆殺しにしてやるからなぁ!」


《どうやって?》

 

「ああ!?」


《いや、おまえ首だけじゃん。具体的にどうやって殺すんかなって》


「………………!」


《ほら、オッズ氏がその巨人の指先にちょっと力を込めただけで、おまいの頭、潰れちゃうよ? どうすんの?》

《どんな気分? 他人に生殺与奪握られて、いまどんな気分?》


  

「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!」


 

 僕は血が噴き出すほど、顔を真っ赤っ赤にして、叫んだ。


《目に涙浮かんでるよ?》

《イキってスキル自慢してたのに、逆にうまく利用されちゃったね~》

《ぼくちん、もう首だけになっちゃったから、赤ちゃんと一緒でちゅよ? 誰も56しにいけないでちゅ》

《おまいら、死体蹴りは笑うからやめやw》

《叩いていいカスを見つけたら、容赦なく叩くネット民、異世界人よりこえええwwww》


「ということで、降伏をお勧めします」


 オッズがたんたんと告げる。


「ふざけるなぁぁぁぁぁっ! おまえたち、やれえっ!」


 僕は部屋の死角に潜ませておいた、伏兵たちに命じた。


 バラバラと探索者どもの前に、合成獣キメラが姿を現す。


 たちまち場は混戦となった。


「ち、ちょっと……フランケさん、やめさせてください!」

「ああん? だれがやめさせるかマヌケ! 今更後悔しても遅いんだよ!」

「あなたのために言ってるんです! このままだと巨人の体を変な風に動かしちゃいそうなんです」

「なにぃ――」


 言っている傍から、ぐらりと僕の乗っている巨体が傾く。

 

 ……そういえばさっき、同時に体を動かすと混乱しそうとか言ってたような――


 キメラの攻撃を必死に避けるオッズを見て、僕はようやくそのことを思い出したが、少し遅かった。


 巨人が大きくバランスを崩した。

 足をよろけさせ、倒れ込む。


「ひぃぃぃぃぃぃぃーっ!?」


 部屋の壁がぐんぐん目の前に迫ってくるが、なにしろ首だけしか動かせないから、避けようがない。


「#%$、*****ー@」


 次の瞬間、巨大な肉の塊が壁に激突した。


 

 ――グチャリ


 

 そんな音が広間に響き渡った。

  

 

*****


 

「これは生きていないだろうな……」


 ひいらぎさんが呟いた。


 合成獣の群れを倒し終わると、僕たちはすぐに例のフレッシュゴーレムの元にむかったのだが、そこで目にしたのは頭から壁に突っ込んだ巨大な肉の塊だった。


「生きて捕らえたかったけど、これじゃ潰れて跡形もないよね……」

「いえ、そうは思いません」


 告げたのは、トレ坊のリーダーさんだ。


「壁に激突する寸前、あの男は転移魔法を叫んでいました」

「ということは――」

「はい。いずこかに逃げ出した可能性が高いです」


 僕は全員に言った。


「追いかけましょう!」

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