Aランクパーティを追放され、ソロでダンジョン配信を始めたら迷惑系認定されてしまった僕だけど、不死身スキルがバズって、美少女と攻略することになってしまった。なので今更戻って来いと言われても、もう遅い
第55話 【実況】#13 ワイ氏、Aランクダンジョン『死霊の臓物』に挑戦
第55話 【実況】#13 ワイ氏、Aランクダンジョン『死霊の臓物』に挑戦
「チートスキル『存在吸収』!」
ブラム氏は叫び終えると、ぐわっと大きく口を開いた。
次の瞬間、二本の長い牙が僕の喉に突き立てられる。
ジュルジュルジュル……
血が体外に吸い出される感覚がした。
いや、それだけじゃない。
血とともに、存在自体が吸い取られていくような喪失感を覚え、しかも入れ替わりになにか別の物が自分の中に注入されてゆく感じまでする。
「ふふ……怖がらなくていい。これから君はボクに生まれ変わるんだから」
血を啜りながら、器用にブラム氏が話しかけてくる。
「ほら、ボクの額の目を見てごらん。美しい
視線を相手のおでこのあたりに向けると、金色のおぞましい瞳が、ぎょろりとこちらを睨み返してきた。
「これがボクの長年の研究成果さ。ユニークスキルである『存在吸収』にバンパイアロードの能力を合わせた究極技――君という存在自体を完全に吸収して、ボクは君に生まれ変わるのさ」
にやりとほくそ笑むブラム氏。
「……僕になり替わって、ユニークスキル『無事死亡』も引き継ぐということですか?」
「ご明察!」
固有スキルは、強奪はもちろん、受け渡しも不可能だ。
でも、吸血鬼と自分のスキルを極めたこの人は、その力でもって、強引に裏道を作ったのである。
「だが、なり替わるわけじゃない。
ブラム氏の美しい面貌に、冷酷な笑みが浮かんだ。
「まあ君の自我は消滅するけどね」
ジュルジュル……ズズズズズズッ――
彼は最後のとどめとばかりに、僕の血を吸い込むペースを上げた。
僕の意識が遠のき始める。
「感じるかい? いまボクの魂と君の魂が交じり合ってるよ! ボクたちは完全に同化した!」
ブラム氏はオペラでも歌おうとするように大仰に両腕を開き、宣言した。
「さあ、死のう! そして、ともに生き続けよう! 我が永遠の伴侶となるがいい!
ここまでで充分な気もしたけど、僕は念には念を入れて確認することにした。
「すいません、今の台詞をもう一度お願いできますか?」
「んん~? まあいいけど、大事なところなんだから、しっかり聞き逃さないでくれたまえ」
彼はオペラでも歌おうとするように大仰に両腕を開き、宣言した。
「さあ、死のう! そして、ともに生き続けよう! 我が永遠の伴侶となるがいい! 尾妻涼よ!!」
「あ、すいません、それじゃないです。もう少し前の『生まれ変わる~』の部分をお願いします。あと、お芝居みたいなジェスチャーはしなくて大丈夫です。見ていると恥ずかしくなりますので」
《オッズ氏、さりげなく共感性羞恥を回避www》
《相手、顔真っ赤になってるじゃん。バンパイアなのに》
《強烈な精神攻撃きめてて草w》
「……う、生まれ変わるだよ。き、君は死んでボクになる。お、同じように、ボクも死んで君になる。い、いったん交じり合って死んだあと、そんな風に復活するのさ」
《要求通り繰り返した(笑)》
《引っ込みがつかなくなっただけやろ》
《声、微妙に震えてるよ? 大丈夫、最強バンパイア君? ねえ大丈夫?》
《おまいら煽る時、ほんとに生き生きしてんなw》
《それはそうと、これで死亡フラグ確定やね》
「…………なに?」
最後のコメントを聞き咎めたのか、ブラム氏があいかわらず僕の喉元に食らいついたまま、ぴくりと眉を動かす。
そう。
これで駄目押しの言質がとれた。
あとは待つだけだ。
「あなたの負けですよ」
僕の言葉に、ブラム氏は一瞬虚を付かれた表情になり、次いで鼻で笑った。
「……これはこれは。なにか逆転の秘策でもあるのかな?」
「ええ。というか、もう仕掛け済みです」
「へえー? でも、見たところ、君は僕の金縛りの術で、身動き一つ取れないみたいだけど?」
あざけりの笑みを浮かべるブラム氏。
僕はあえて言い返さなかった。
これから起こる事態に、すでに予想がついているからだ。
たぶん、大半のリスナーさんたちも。
「…………ふん、薄気味悪い奴らだ。だから嫌いなんだよ、この世界の連中は。無能な猿のくせに――」
ブラム氏の言葉が途中でとまった。
「ぐっ…………」
床にがっくり跪く。
「…………なんだこの倦怠感と気分の悪さは?」
半ば白目を剥き、口から涎を垂らしながら、地に転がる彼。
《始まったか》
《こうなったら、もうあんたの負けだよ》
「
《いやいや、俺らは配信みてるだけでしょw》
《無能な猿だからなにもできまちぇん》
《だから、煽りやめやw》
「ブラムさん、早く術を解除した方がいいです」
「な、なに……?」
「今のあなたはたったの20しかMPがないんです。そんな状態で多人数に金縛りの術をかけつつ、バンパイアとユニークスキルの合わせ技なんて使ったら、そりゃ体も頭も壊れますよ」
「小僧、なにを意味の分からないことを言っている? ボクのMPは9999だぞ?」
ブラム氏は額に油汗を浮かべつつも、せせら笑った。
「なら、調べてみては?」
「言われずとも、いま
絶句する彼。
「な、なんだこれは!? HP1、攻撃力1、防御力1……こんなのボクのステータスじゃないぞ?」
「一番下に『死』という項目がありませんか?」
ここに至って、初めてブラム氏はぎょっとした表情を僕に向けた。
「…………おまえがなにかしたのか?」
「厳密には、なにかしたのは、僕ではないです。僕が常時発動しているスキルに、あなたが自ら飛び込んできたんですよ」
「どういうことだ?」
ふいに、どさりという人の倒れ込む音が、複数響いた。
ブラム氏が術を維持できなくなり、パーティメンバーたちの金縛りが解けたのだ。
「すみませんが、説明はあとで」
僕はコキコキ首を鳴らすと、倒れている他のパーティメンバーを介抱しに向かった。
《解説厨のわいが、代わって説明しちゃる》
ドローンがそんなコメントを読み上げた。
《オッズ氏は『来世に期待』っていう新スキルを獲得したんよ。で、これがどんな能力かっていうと、「次回に死亡から復活した後のステータスを前借りできる」っていうスキルなわけ》
「…………なんだと?」
《で、さっきのあんたの発言なんだけど、「僕は死んで君になる」って言ってたでしょ? つまり、血を吸いきってオッズ氏と同化した時点で、そのスキルが発動ちゃったわけよ》
「死んだあとのステータスを前借りだと…………」
不意に、ブラム氏はハッとした顔になった。
「まさか今のボクの能力値は――」
「僕のステータスの
《補足すると彼の一般ステータスはゴミなんよ。とてもじゃないけど、吸血鬼の高度な術とか維持できねーからw》
「く……くそがああああっっっっ!」
絶叫するブラム氏。
今までの飄々とした態度をかなぐり捨て、血走った目で僕をにらみつける。
「こんなことで諦めてたまるか! こうなったら、力ずくでおまえの体を奪ってやるうううううっ!」
喚きながら突進してくる。
「はーっはははははっ! おまえ程度の相手なら今のボクでも楽勝さあああっ!」
僕はため息を一つつくと、彼を平手で張り飛ばした。
「ぶげええええええええっっっっっっっ!?」
奇怪な悲鳴とともに、吹っ飛ばされるブラム氏。
車に撥ねられたカエルのようにビターンと壁に叩きつけられ、その衝撃で体の内容物が床にぶちまけられる。
「ゴフッ……! な゛、な゛な゛な゛な゛、な゛ん゛で!?!?!?」
《いやだから、『来世に期待』のスキルがあるんだってば》
《「いったん死んで、ボクは君に、君はボクになる」って自分で言ってたじゃん?》
「あ゛――――」
ようやく気付いたのか、歯の欠けた顔で呆けた声を上げるブラム氏。
もはやイケメンが跡形もない。
「じ、じゃあ今のおまえは、逆にボクのステータスを引き継いでる……?」
「そういうことです」
しかし、軽く叩いただけで、こんな引くほど威力が出るとは……。
本来の僕と彼の能力差がそこまで大きいってことなんだろうけど。
「さて。どうやって今の状態を解除するかだけど、スキルの条件が、『次回に死亡した後のステータスになる』だから、ここで意図的に柊さんに殺してもらえば、元通りになるかな?」
「だね。でもその前に――」
僕と柊さんは並び立つと、床に転がってのたくっている男に目を落とした。
《 《 《 「「こいつの始末を先にしないとねえ」」 》 》 》
「……その役目はぜひ私にやらせてください」
トレ坊のリーダーさんが低い声で告げた。
他のメンバーたちも、多少足元をふらつかせながらも、立ち上がって、壁際の敵に、にじり寄る。
「お…………おまえたち、な、なにをする気だ!? やめろ! やめてくれえええええっっっ!!!」
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