第2話 【速報】ワイ氏、ダンジョンで初配信

「えー、今日から配信を始める、オッズと申します。みなさまよろしくお願いします!」


 とあるダンジョンの入口。

 僕は宙に浮かぶドローンに向かって、ぺこりと頭を下げた。


《おー、よろしく!》

《がんばれよ!》


 目の前の空間に文字列が浮かび上がり、左から右に流れてゆく。

 いわゆるホログラムってやつだ。


《声が聞こえないけど、コメント読み上げはオンにしてる?》


「あ! すみません、忘れてました」


《設定しときな~》

《そうそう。戦闘中とか、コメントを見れない時でも、アドバイスを聞けるからね》


「はい! わかりました。ありがとうございます!」


《わいは、このダンジョンを知り尽くしてるから、困ったことがあったら、頼ってな》

《もしや教えたがりおぢさん?》

《まあオッサンじゃなくて、女子大生だけどな》

《嘘松乙》


「あはは」


 僕は声を上げて笑った。

 

 どんな人がくるか心配だったけど、優しそうなリスナーさんばかりでよかった。

 

「ええと、実は僕、ちょっと前まであるパーティに入っていました。なので、ダンジョン探索自体は素人ではないです。ただ、配信とソロ活動は初体験なので、みなさまご指導お願いします!」


《おけ》

《それじゃスペックとスキルをよろしく~》


 誰も『なんでパーティを抜けたの?』というツッコミをしてこない。


 気を使われているというより、なんとなく察している感じだ。

 もしかしたら、僕みたいに、なんらかの理由でパーティを離脱する人というのは、存外多いのかもしれない。

 痴情のもつれでパーティ崩壊とか、たまに聞くし。


 僕は心の中で(ステータスオープン)と唱えた。

 すると、頭の中に自然と情報が浮かんでくる。


――――――――――――――――――――


探索者名: オッズ

ジョブ:  死亡遊戯者

性別:   男

年齢:   17歳


レベル:   1

最大HP:   1

最大MP:  20

攻撃力:   1

防御力:   1

魔法攻撃力: 1

魔法防御力: 1

素早さ:   9

運:     8

死:    9999


スキル:

・無事死亡 (ユニークスキル)

 

――――――――――――――――――――


「スペックはこんな感じです」


 口頭で一通り読み上げると、僕はそう締めくくった。


 しばし――いや、かなり長い間、コメントが途絶える。


《………………えーと、ちょっと色々ツッコミどころがあるんだけど》

《わいも。まずジョブ名「死亡遊戯者」ってなん?》

《俺も聞いたことない》

 

「僕もよくわからないです」


《じゃあ、ステータスの最後にある「死」って項目は? カンストしてるみたいだけど》

 

「それもよくわからないです」


 再びコメントが途絶えた。


《……じゃあ、そのへんはいったん放置やな》

《放置してええんか?》

《いや、放置しかなくね? 本人もわかんないって言ってるんだし》

《せやな》


 …………なんかすみません。


《で、気のなったのは他のステータスね。レベル1なのはまあいいんだけど、それにしたって、各種パラメータが低すぎない?》

《わいも気になった。特に最大HP1はやばくね?》

《初めて見たわ》

《俺も》


「あー、これもちょっと原因がわからないんです。生まれつき病弱とか、極端な虚弱体質ってわけでは、いちおうないはずなんですけど……」


《攻撃力と防御力もやばいよなあ……》

《そり。初期ステータスで両方1とかありえんの???》


 たしかにスポーツは得意じゃない。

 でも、運動神経はせいぜい平均ちょい下ぐらいだと思う。

 体力測定も軒並み普通だ。


 にもかかわらず、このステータスである…………。


《あー、暗い顔するな。このダンジョンは今まで死んだ奴がいない超初心者向けだから、まあ大丈夫だよ》

《そーそ。とりあえず、レベルアップに期待しようぜ!》

《てことで、先に進もう》


「りょーかいです。では、出発します」


 僕はダンジョンを進み始めた。


《ところで君、なんでダンジョン探索者やってんの?》

《やっぱ金?》


「いえ……たしかにお金も欲しいけど、アンブローシアが目的です」


《なるほどね》

《りょ》


 これだけで僕の事情を把握するあたりは、さすが熟練のリスナーさんたちである。


 ――などと、感心していると、ふいに僕の前方になにかが現れた。


 モンスターだ。


小鬼ピクシーレベル1か》

《最弱モンスターだから、ショートソードで楽勝だよ》

《小学生の探索者でも一撃で倒せるんだよな》


 小鬼が僕の存在に気付き、ちっぽけなこん棒を振り上げて駆けてくる。

 僕は敵の突進に合わせ、ショートソードを繰り出した。


 ――ボグンッ!

 

 次の瞬間、小鬼のこん棒が僕の首をへし折り、僕の頭部は180度後ろを向いた。


《えw》

《いやちょっと待って。こっちが即死?》

《嘘やろ?》


 嘘だ――と言いたいところだが、残念ながら僕は死んだ。

 あっさりと。

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