Aランクパーティを追放され、ソロでダンジョン配信を始めたら迷惑系認定されてしまった僕だけど、不死身スキルがバズって、美少女と攻略することになってしまった。なので今更戻って来いと言われても、もう遅い
第32話 【朗報?】ワイ氏、美少女生徒会長の母親に娘のパートナー認定されてしまう
第32話 【朗報?】ワイ氏、美少女生徒会長の母親に娘のパートナー認定されてしまう
私の生まれた
祖父母の一人娘が母で、その母に婿入りする形で、父が現当主となった。
しかし、父は現在入院中だ。
これから彼を紹介するのは、実質的にこの家を管理している、母の方である。
「待たせてごめんね」
私は門外で待っていた
しかし、彼はぽかんとした顔で、私を眺めるばかりだ。
「……どうかした?」
「あーごめん、着替えるんだろうとは思ってたけど、まさか着物で出てくるとは思わなかったから」
「変?」
「いや、すごく似合ってるよ」
「……そう」
社交辞令なのはわかっているが、頬に血が上るのを感じた。
私は、そそくさと正面を向いて、彼に顔を見られないようにする。
「お嬢様」
そんな私に声をかけてきたのは、女中頭の
彼女は、一見無表情にも映る眼差しで、じっとこちらを見つめる。
長年の付き合いで、私は伊賀野さんの言わんとすることを察した。
――どうかうまくいきますように
と。
「さっきの人ってさ」
廊下を進んでいると、尾妻君が話しかけてきた。
「伊賀野さんのこと?」
「うん。彼女は知ってるんだよね?」
「なにを?」
「柊さんが探索者ってことを」
私は足を止めた。
くるりと彼を振り返る。
「……なぜそう思うの?」
「いや、普通に車内でパーティ結成の話とかをしてたからさ」
私は心中で自嘲の笑みを浮かべた。
……それはそうだ。
狭い車内であんな話題を堂々と出したら、他の同乗者に聞かれてもよい前提だと、誰だって予想するだろう。
そんなことにも気付けないとは、どうやら自分で思っている以上に、私は緊張しているらしい。
「なんとなくだけど、柊さんは身近な人にも、ダンジョン探索者ってことを隠してるんじゃないかと思ってたからさ。でも、さすがに家の人に内緒にしてるわけないよね。変なこと言ってごめん」
「いいえ」
「え?」
「彼女は、以前から私の正体を知っていた数少ない人物の一人よ」
その言を聞いた尾妻君は、しばし思案する素振りを見せた。
「……もしかして、家族には秘密にしてたりする?」
さすがの察しが良さだ。
「この前のダンジョンで、すごく長い時間潜ってたでしょ? それで、探索者をやっていることがバレてね……」
私は目を伏せる。
本来、こんなことに彼を巻き込んではいけないのだろう。
でも、私には彼以外頼れる人は考えられなかった。
「お願い、尾妻君。母を説得するために力を貸して!」
客間では、すでに母が待っていた。
いつものように完璧な着付けで背筋をまっすぐ伸ばし、一部の隙もない姿で正座している。
私と彼は、座卓を挟んで彼女の対面に座った。
「お初にお目にかかります、
三つ指を付き、丁寧に頭を下げる母。
「お、尾妻です。よろぴくお願いします」
尾妻君もやや噛みながら挨拶を返す。
私は早速、話を切り出した。
「昨日も伝えたけど、彼とパーティを組んでダンジョン探索したいの。認めてくれませんか?」
「だめです」
母は言下に告げた。
「でも――」
「ゆるしません」
彼女は小さく嘆息をもらす。
「当り前でしょう。命の危険がある場所に、まだ未成年の娘を――それも柊家の一人娘を行かせるなど、許可を出せるはずがありません」
完全な正論に、私は昨日同様、閉口するしかなかった。
「昨日の出来事なら、わたくしもテレビで観ました。人類全体に貢献する、大変な発見であり、偉業だと思います。でも――」
母の目が尾妻君を向く。
「それはこちらの方のお力によるものでしょう? 他人の功績に便乗して、増長してはなりませんよ」
痛いところを的確に突かれて、私は身を縮めるしかなかった。
が――
「それは違いますよ」
短いけどきっぱりとした否定の声。
「あのダンジョンは本来なら僕が立ち入ることもできないぐらい高レベルな場所なんです。小鬼とスライムしかいない低難易度ダンジョンならともかく、あんなところに僕一人で行ったら、おそらく最初の入口付近からまったく進めなかったはずです」
彼はまっすぐに母を見据えたのち、私に視線を移した。
「あの部屋まで辿り着けたのは、柊さんがいたからです。僕の方こそ、最後にたまたまスキルが役に立つ状況になっただけで、道中はお荷物に過ぎなかった」
あまりにも謙虚すぎる発言に、私は思わず口を挟みそうになったが、彼に目で制される。
「……那栖菜さん。そもそも、なぜあなたは探索者をやりたいのですか?」
「何度もお伝えしたように、社会の役に立ちたいからです。人の役に立てる人間になれとお母様も常々おっしゃっているじゃないですか」
「それは建前で、本当はお父様の件があるからでは?」
「それは――」
私は俯いた。
「…………正直自分の手でお父様を救いたいというのもあります」
ダンジョン病。
それが入院中の父が罹患している病名だ。
「う~ん……」
ふいに、少しばかり緊張感の欠けた声が響いた。
尾妻君が頭をかきながら、小首を傾げている。
「わたくしの言うことに納得がいきませんか?」
「いや? というか、むしろ個人的にはお母さんの方に賛成かな」
「尾妻君!?」
「僕も妹が探索者になりたいとか言い出したら、全力で反対するし」
――そういうあなたは、妹さんのために探索者をしているじゃないですか
「ただ、もし柊さんと一緒に潜れなかったらあの製法書は確実に入手できなかっただろうし、さっきも言ったように、僕なんかよりも彼女の方が、遥かに探索者として実績を上げていますよ」
「………………」
お母様はしばしの間、黙り込んだ。
「わたくしもあの配信は拝見させて頂きました」
母が尾妻君に語りかける。
「部屋に閉じ込められ、退路を断たれた時、あなたは決して娘を見捨てようとしませんでしたね。なぜですか?」
「当たり前では」
「いえ、あの状況になったら、ほとんどの人間は自分だけが助かろうとするはずです」
そう。
それを車中で私は告げたかったのだ。
いくら不死身とはいえ、自爆作戦なんて狂気の沙汰だし、そもそもリスクが高すぎる。
ボスに攻撃が通じるかどうか、指輪を数百個もミミックが生成するかどうか、そもそもボスにわずかでも自動回復スキルがついていたら、HPを1ずつしか削れない彼にとっては終わりだ。
あんな作戦を思いつくぐらいだから、それらの可能性に思い至らないはずはないだろう。
そして、もしボスを倒せなければ、彼はあの狭い部屋に永遠に閉じ込められることになる。なまじ死ねないだけに。
私だったらゾッとするし、誰だって『パートナーに指輪を使わせて、確実にボスを倒す』という選択肢を選びたくなるだろう。
――にも関わらず、彼はその選択をしなかった
「なかなかできることではないと思います」
私の心の声を代弁するように母が告げた。
「いや、絶対助けるでしょ。パートナーだし」
「………………」
ふぅ、と嘆息をもらす母。
「……わかりました。娘が探索をすることを認めましょう」
「お母様!」
「ただし、一つお約束してください」
母は尾妻君の目をまっすぐ見据える。
「今後は娘と一緒に行動し、必ず傍にいてあげてください。お約束できますか?」
「彼女とパーティを組むという話には、すでに同意済です。これからは常に行動を共にすることになりますので、お約束しますよ」
「わかりました」
ふいにお母様が遠い目になった。
「血は争えないわね……」
「え?」
「私も家を継ぐためにおじいさまたちにそれは厳しく育てられたけど、一度だけ逆らったことがあってね」
「お母様が? どんなことで?」
「お父様との結婚のことよ」
母の目がなぜか私の隣に座る、尾妻君へと向いた。
「若い頃のあの人は、失礼だけど、あなたによく似ていてね。一見さえない感じで、ちょっとぼーっとしたところがあってお人好しで……でも、いざという時は勇気があってものすごく頼りがいのある人だったわ」
いや、失礼だけどって、それは失礼過ぎでは……。
「当然、一緒になることに猛反対されたけど、私もその時ばかりは猛反発してね。両親の連れてきたお見合い相手に頭突きして歯をへし折ったり、後ろから突き飛ばして、汲み取り式便器の中に落としてやったりしたものだわ……ふふ」
穏やかに笑ってるけど、全然洒落になってないと思うのだが。
「というわけで、
「ち、ちょっとお母様――」
「あと、娘のことは『那栖菜』と下の名前でお呼びください♪」
「ま、ママ! 彼とはそういう関係を求めてないから! 尾妻くんも勘違いしないでねっ!」
「はぁ……」
思わず素の声を上げてしまった私に、曖昧な返事をする尾妻君。
どうやら事態がよくわかっていないらしい。
残念なようなほっとしたような…………いやいや、私はなにを言っているの?
と、とにかくこれで私も本格的に探索者として活動できるようになった。
これまでは、習い事や生徒会活動の合間に週2回程度しか潜れなかったけど、これからは彼と毎日探索ができる!
彼と! 毎日! 一緒に!
…………いやいや、私はホントになにを言っているの?
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