第37話 【悲報】ワイ氏、Aランクパーティの人たちに忠誠を誓われてしまう

 振り向くと、7名の男女が僕たちの脇に立っていた。

 

 声をかけてきたのは、彼らの代表者と思しき、短髪の女性だ。


 20代前半ぐらいだろうか。

 すらりと背が高く、日に焼けている。

 ダンジョンに潜らない日は、屋外でスポーツでもやっていそうな感じである。

 

「あなたはたしか……」

「はい。死の顎では大変お世話になりました」


 女性は丁寧に頭を下げた。


 僕とひいらぎさんが、件のAランクダンジョンに挑むことになった発端。

 迷宮内から救助要請のDMを送ってきた、あのパーティ一行だった。


「お二人のおかげで、仲間の遺体を回収し、無事弔うことができました。本当にありがとうございます」


 彼女は顔を伏せたまま、礼を述べる。


「死亡したメンバーは我々のリーダーでしたが、『ダンジョン探索をもっと安全なものにしたい』と生前よく私に語っておりました」

「そうでしたか……」


 どうやら、この人は副リーダーだったらしい。

 リーダーがあんなことになって、急遽陣頭指揮を執ることになったのだろう。 


 突然、彼女が片膝を付いた。


「故人が存命なら、今回の件も必ず参加を希望したかと思います。なので、我々『トレ坊の猟犬』7名、及ばずながら、あなた方に従い、探索のお供をさせて頂きたく思います!」


 他のメンバーも彼女に倣って、一斉に跪く。

 

 僕は若干あたふたしながら、柊さんを振り返った。


 『トレ坊の猟犬』と言えば、Aランクパーティだ。

 Sランクの柊さんはともかく、ようやくCランクになったばかりの僕に、そんなに畏まられても……。


「い、いや、どう考えてもあなたたちの方が実績も実力も上ですし、付き従うのは僕の方では……」

「いいえ、あなたの方が格上です。それも遥かに」


 膝を付いたままきっぱり告げる彼女に、他の面子も静かに頷く。


「……わかりました。では、よろしくお願いします」

「ひ――フェンリルナイトさん!?」

「今回のダンジョンは私も未経験よ。特殊な状況だし、同行者が大いに越したことはないわ。ありがたく申し出を受けましょう」

「ありがとうございます!」


 こうして新たに、『トレ坊の猟犬』の7名が今回の探索に加わることになった。


「つまり、オッズ君が私たち9人のリーダーってことになるから、お願いね!」

「「「「「「「なんなりとご命令を!」」」」」」」


 う~~~ん……。

 

 

*****


  

 一方。


 ギルドの反対側の廊下では、三人の女子が顔を突き合わせて、なにやら話し込んでいた。


「まったくあのチンカス野郎~」

「何様のつもりなのでしょうね」

「言うな! 思い出すだけで腹が立ってくるぜ」


 言わずと知れたリューショージャーの女性メンバーたちである。


「……で、さっき聞いたミッション、どーする?」

「うーん、正直わたくしはあまり気乗りがしませんわ。Aランクに返り咲く絶好の機会ですけど」

「肝心のリーダーがいねぇんじゃーなぁ……ったく龍翔の奴あのアホ、どこほっつき歩いてやがんだ!」


「あのぅ」


 ふいにあがった声に3人は振り返る。


 中年の男性がにこやかな笑みを浮かべて、立っていた。


「……誰? ゆかりんの知り合い?」

「いえ、初めてお目にかかる方ですわ」

「っていうか、こんなおっさん、ギルドで見たことねーぞ」


 露骨に警戒する3人に、男は慌てて手を振る。


「怪しい者ではありません! 私はこういう者です」


 差し出された名刺を、楓がひったくった。

 男から距離をとり、輪になって名刺を覗き込む。


 

『探索者を支援したい会 

                   会長

                  儀膳寺暁ぎぜんじぎょう

  〒×××-××××東京都湊区八本木○-○-○

          TEL : 03-○○○○-××××

  e-mail : ofupako24hour@××××.○○○.jp』



「この団体名……聞いたことがありますわね」

「でも、これってたしか民間のボランティア団体じゃなかったっけ?」

「てことは、部外者だよな?」


 再度、不信感に満ちた眼差しを、おじさんに送る3人。


「……おい、おっさん。ギルドに入る許可は取ったんだろうな?」

「いえ、実は……」

「不審者じゃん」

「い、いえ、違います! 私は困っている探索者の手助けをしたくて、時々こうやって潜入しているだけです! 若くて未婚の女性探索者限定ですが」

「おまわりさーん、ここでーす」

「あなたたち、落ちた評判を取り戻したいんでしょう?」


 おじさんの叫び声に、女子三人組がほぼ同時にぴくりと眉を動かす。


「……なんですって?」

「当団体は、宣伝活動のための配信チャンネルも所有しております。もしよろしければ、コラボという形でご協力させて頂きますが」


 ぷっ、と吹き出す真由香まゆか


「……バカにしてんの? あんたみたいな中年親父のチャンネルがなんの役に立つわけ?」

「わたくしたちも、そんなものに縋るほど堕ちてはいませんのよ?」

「時間の無駄無駄。さっさとこいつを突き出しちまおうぜ!」


 かえでがガシッとおじさんの首根っこを掴み、ギルドの事務所へ向かおうとする。


「ま、待ってくれ!」

「はいはい、言い訳はギルマスにでも――」

「私のチャンネルの登録者数は50だ!」


 パッと手を離す楓。

 

 3人は、ゆっくりおじさんに向き直った。

 

 

「「「詳しくkwsk」」」

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