第40話 【一方、その頃】① ー真由香ー
「はーい、全国のまゆゆんファンのみなさーん、元気にしてましたかー♪」
私、探索者名まゆゆんこと、
結局、私たちリューショージャー(このクソダサいパーティ名、マジでどうにかして欲しい)も件のダンジョン、『死霊の臓物』に来てた。
と言っても、リーダーは相変わらず雲隠れしてるし、他の二人とも別行動だけど。
「今日はみんなに、とっても素敵なご報告がありまーす☆ 私、まゆゆんはこの度、【まゆゆんチャンネル】を開設しましたっ! よろしくねっ♪」
そう。
私、ユルリ、
理由は簡単。
これまで使っていたリューショージャーチャンネルが洒落になんないレベルで大炎上しちゃったからである。
「ぐす……今まで不快な思いをさせてごめんなさい。リーダーの暴走を止められなかったまゆゆんが全部悪いんですぅ~」
チャームポイントの童顔に、泣きべそを浮かべる私。
これで許さなかった男なんていないんだから、豚共なんてイチコロよね(笑)
『まゆゆんは悪くないよ。全部男が悪いんだ』
ドローンから声が響く。
中年男性の声だ。
「はい、みなさん、ここで紹介でーす」
私は嘘泣きをやめると、笑顔で告げた。
「なんと! このチャンネルを立ち上げるにあたり、人気Dチューバーの
『よろしくお願いします』
配信チャンネルはスタートが肝心。
私たちは、結局このオッサンの手を借りることに決めた。
三人別々に配信を開始して、一番伸びた人のチャンネルを今後のパーティ配信垢にする。
そんな取り決めを三人で交わしたのである。
りゅーしょー?
あいつはもう私たちの引き立て役でしょ?w
「それじゃ、さっそく本日のテイムモンスターちゃんを紹介をさせてもらいまぁす♡」
私は少し離れたところにいるスライムのスラ美を呼び寄せた。
「見ての通り、この子はスライムなんですけど、ただのスライムではありません!」
『なんだろう、ワクワク』
「なんと! なんでも食べれて消化可能な雑食系スーパースライム、『
『うおー、凄い』
儀膳寺さんが合いの手を入れる。
……私の発言を盛り上げようとしてくれてるのはわかるんだけどさ、もうちょっとこう、面白い反応できない?
ちなみに、彼は音声だけの参加だ。
私のチャンネルの一番魅力は、なんといってもこの私自身――美少女魔獣使いのまゆゆんなのだ。
冴えない中年は画面に映さず、可憐な私の外見のみを映えさせた方がいい。
……それにしても、リスナーからなんの反応もないな。
私はちらりと同接人数を確認した。
――0
………………え? どういうこと?
「ち、ちょっと儀膳寺さん? どうなってるの?」
『どうしました?』
「どうしました、じゃねーよ! なんで誰も観てねーんだよ!? ふざけんなよカス!」
『まゆゆんちゃん、ライブ配信中だよ?』
そんなことはわかってる。
けど、そもそも誰も観ていないんじゃ取り繕う必要さえないじゃん。
『あー、なんか、最近話題の人が、ちょうどいま、このダンジョンを攻略中らしくて。みんなそちらを観に行ってしまっているようです』
最近話題の人……。
私の脳裏を、先日追放した幼なじみの横顔がよぎる。
「まさかオッズとかいう奴?」
『そうそう!』
――ブチ
堪忍袋の尾の切れる音が、私の頭の中で響いた。
あいつううううっっっっっ!!!!
どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだよおおおおっっっっっ!
「おい、オッサン!」
私はヤンキーが入ってた中学時代の口調に戻って、言った。
「
『は、はあ…………?』
「はあ、じゃねえよ。てめーが楽勝で視聴者を増やせるっていうから、キモいのを我慢して組んでやったんだろうがっ! もし嘘だったら、わかってんなコラ」
どん、と足を踏み鳴らす。
「私にエロいことをしようとして、逆にスライムに服を溶かされてすっぽんぽんになったことを言いふらしてやるからな!」
『わ、わかりました! ただちにリスナーを集めて参ります!』
たったいま電波にのせて公言してしまったような気がするけど、気が動転しているのか、儀膳寺さんは素直に私の言うことに従った。
まあ、こいつはもういい。
それはそれとして、私自身でもこの配信を盛り上げねば……。
私はくるりとドローンに向き直り、いつもの
「と・り・ま、スラ美ちゃんのすごさをみんなに見せちゃいますねっ♪」
周囲を探ると、ちょうどダンジョンの通路の壁際に手頃な獲物が見つかった。
「テイマースキル『魔物鑑定』発動」
――――――――――――――――――――
種族: エビルウミウシ
レベル: 10
最大HP: 99
最大MP: 0
攻撃力: 3
防御力: 62
魔法攻撃力: 0
魔法防御力: 88
テイムしやすさ: 低
スキル:
・刺突無効
・斬撃無効
・炎&氷無効
・常時猛毒
――――――――――――――――――――
「ふむふむ、極めて攻撃が効きにくいタイプのモンスターみたいですねぇ~。し・か・も、常に猛毒を帯びていて、近付くことさえ厳しそうです」
魔物の大きさは、旅行用トランクぐらい。
ナメクジそっくりで、全身が紫と青のまだら模様に覆われている。キモ。
「しかーし、私のスラ美ちゃんにかかれば、イチコロです!」
私がパチンと指を鳴らすと、スラ美がぬるぬると床を移動して、エビルウミウシに近付いていった。
ガバーッ。
スラ美の体が左右に割れて、ウミウシを丸ごと飲み込む。
再びその体が閉じ合わさった時には、件のモンスターは半透明なスラ美の体内に浮かんでいた。
「ご覧になりましたか! この子にかかれば、どんな魔物でもただの餌になっちゃうんです。それこそ敵だろうと障害物だろうと」
人間だろうと――と言いかけ、すんでのところで留まる。
……ふう、危ない危ない。
ともあれ、これであとからアーカイブを観た人に、私がどんなにすごい魔物をテイムしているのかが伝わるだろう。
そう。
私は同じ過ちを3度も繰り返さない。
前回と前々回に懲りて、今日は道中でモンスターの餌に困らないよう、なんでも食べれる従魔を選んできたのだ。
――どうよ、この聡明ぶり。この私こそが新たなパーティリーダーにふさわしいと思わない?
私は勝利を確信し、にっこりとドローンに向かって微笑む。
「とりあえず、チャンネル登録を
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