第2話 九尾のダンジョン2
九尾のダンジョンを進む。
武器は構えていない。持ってはいるけど構えてはいない。
だって両手がふさがっているから。いなり寿司と日本酒で。
「……ははは、まじか」
笑えてくる。酔ってるからではない。この状況があまりにもおかしかったからだ。
「道ゆずってくれるじゃん」
普通だったら襲い掛かってくるキツネ型モンスター――序盤なので普通のキツネが狂暴になった程度―― が道を開ける。一瞬こちらを威嚇する素振りを見せるのだが、鼻をひくひくさせた後で表情が緩んでそのままどこかへ行ってしまう。
その先もずっとそんな感じだった。終盤、ボス部屋前の門番的な高ランクモンスター(
さらに鼻をフンと鳴らして首をクイッと動かした後に門の両側に分かれて寝てしまった。「はよ行け」といわんばかりだ。おっかしいなぁ、前にコイツらと戦った時クッソ厄介だったんだけど。
ボス部屋に入る。一応離脱用のアイテムを用意しておく。さすがにボスは例外かもしれんからな。
しかし、それは杞憂だった。
ボス部屋の奥で巨大なキツネが横たわっていた。門番の2匹よりさらに巨大だ。白銀に輝く毛並みは神々しいという言葉がふさわしく、象徴である9本のしっぽは超ふんわりしていてめっちゃモフりたい。しかしアレがこのダンジョンのボスである【九尾】だ。アイツを撃破できた者は未だ存在しない。
そんなヤツがこちらに気が付く。瞼が開いてこちらを見た。のそりとその巨体を起こした。それだけで凄まじい威圧感だ。牙を向くと共に鼻をぴくぴくさせた。
—— 威圧感が喪失した。
『お? お? おぬし、持っておるな?』
「……!?」
しゃべったあああぁあ!? ボスがしゃべったぞ!?
なんか直接脳内に響いてるみたいに聞こえるけど! あと声が女だ。
「まじかよ……」
『何をしておる。我に持ってきたのだろう? 早う、早う寄こせ。褒めてつかわすぞ。まったく、最近の連中は手ぶらで来る者ばかりでまこと無礼と思っていたところよ』
「えっと、これか?」
両手を持ち上げいなり寿司と酒を差し出す。
『そう、それじゃ! 久しく食うも呑んでもおらんのじゃ! 早う!』
「お、おう」
九尾ってこんなやつだったのか。食いしん坊かな?
『む、待つのじゃおぬし。まさか持ってきたのはそれだけか?』
「あー……やっぱ足りない? 体大きいもんな」
『足りぬ』
「わかったわかった。ちょっと待っててくれ。買ってくるから」
『だが体の大きさの問題ではない』
「は……? ぐわーっ!?」
ピカァーン! と九尾が発光する。攻撃かと思って身構えたが眩しいだけだった。すぐに光は収まった。
そして視界が回復する―― ドえらい美人がそこにいた。
「……」
和服で、銀髪で、キツネ耳で、ぼんっ、きゅっ、ぼんっ、だった。
正直、めっちゃタイプだった。胸の谷間がたまらねぇなぁ!
「ふぅ、この姿になるのも久しぶりじゃの……ん? 何を見ておるのじゃ? 早うもっと用意して参れ」
「イエス、マム!」
「あ? まむ? なんじゃそれは」
「なんでもない! 待っててくれよな! すぐ戻るからなー!」
「気を付けるんじゃぞー」
そんな気の抜けた声を背に、俺はアイテムで門前町に離脱していた。
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