第24話 あのとき助けてもらったツルです5



 ―― ス……。


 ヒョイ。


 スタスタ。


 ポイッ。


「うわあああーーーーっ!!」


 ボチャーン!



 以上、橿原かしはらちゃんが攻撃を避けたついでに冒険者を肩で担ぎ上げ、橋の手すりまで歩いたあと冒険者を投げ捨てた時の効果音でした。悲鳴と水音のおまけ付き。


『えぇ……』


 鮮やかすぎでしょ。他の冒険者もビックリしてるよ。

 この間わずか数秒だし。戦闘を開始してからも数秒の出来事だ。


 でもこっちの困惑もよそに、橿原ちゃんはひと仕事終えた顔で肩を手ではたいてる。冒険者の身体が触れたところだね。他人のコトとはいえ傷つくからやめてあげて。


 でもまあ、水に落とす程度なら穏便な方かな。水面まで近いし。ボスエリアから離脱したことになるだろうからあの冒険者は逃亡判定だ。オレも真似しよう。


「よくも!」


 まだ無事な冒険者が橿原ちゃんに向かっていく。いけない。役割分担たさないと。


 そうだ。アレ使ってみよう。 イロカネダンジョンの報酬だったやつ。”ダイダラボッチの眼差し”を。


「——……は!?」


「なんだぁ!?」


 急に頭上に暗雲が立ち込めた。冒険者たちは足を止めて空を見上げる。


 雲が割れた―― 巨大な顔がぬっと出てきた。


 ダイダラボッチだ。あの瞳がジッ……と冒険者たちを見つめていた。


「ひっ」


「ぁ……あぁ……!」


 冒険者たちがおののいている。効いてるみたいだ。


 スキル”ダイダラボッチの眼差し”—— 効果は”確定ひるみ”だった。ただし1度の戦闘で1回限りだ。まあコストが重くて連打できないけど。でもスキルの効果うんぬん以前にあの光景はビビッて足が止まっちゃいそうだよね。


『まずはお前だ』


 橿原ちゃんに向かっていったヤツに対処する。

 ”衝撃”のスキルで吹き飛ばした。攻撃自体にダメージはない。吹き飛ばすだけだ。吹き飛んだ結果、打ち所が悪くてケガする場合はある。冒険者はレベルで守られるからたいてい大丈夫だ。 今回は水に落ちるしよけい大丈夫か。


「ああああぁーーっ!?」


 ボチャーン。




「くそっ!」


 健在だった1人が秘術を使う素振りを見せる。狙いはオレだねよしよし。手のひらに炎が握られていた。火炎系のスキルを使うつもりだ。


「”火斬かざん”!」


 障壁の対策をしてくるか。前情報あったもんな。

 スキル”火斬”は2連の攻撃だ。炎には切断の効果があって、斬り付けたところがひと息いて爆発炎上する。障壁を減衰させてから熱を叩き込むつもりだ。炸裂する。


『さすがに熱いな』


 まあレベル差と自動回復で正面から受け切れちゃうんだけど。そもそも大深部ダンジョンから生きて戻るために始めたセットアップだし。そのへんの冒険者の攻撃なら支障ないんだよなぁ。華やかさもないけどね。


『おっと』


 冒険者が距離を詰めてきていた。炎で塞がった視界を利用したんだ。

 でも悪いね、もう次の障壁できてるよ。


「あ痛゛っ!」


 窓ガラスに突っ込んだハトみたいになっちゃった。


『ごめんなぁ、梅田まで来てくれたら酒おごるから。今回はお引き取りで頼むよ』


「あ!? おいちょっ、なんだこれ! 壁!? 障壁か!? 押すな押すな! 落ちるってばおい! おいおいおいおーーーーいっ!」


 バシャーン。


 手すりの方に押し込んで退場してもらった。



「うっ……オレは一体……?」


 あ。橿原ちゃんに気絶させれられた冒険者が起きた。どうしようかね。


『降伏勧告でもしますか』


『でもオレたちの声、聞こえないんじゃない?』


『まあやってみましょう』


 橿原ちゃんが冒険者に近づいた。そしてライフルを突きつけて顎をくいっと動かす。立て、歩けって意味だねたぶん。


「あれ? 仲間はどこに……わー待て待て撃つな! なんだ!? 立てばいいのか!?」


 冒険者を手すりまで追いつめて、ジェスチャーで下を見ろと指示する橿原ちゃん。冒険者が恐る恐る下を見る。ついでにオレも一緒に下を見た。


 先に落とされた冒険者が仰向けでプカプカ浮いていた。


「……」


『……』



 バッ!


 ザボォーン!


 冒険者は自分から堀に飛び込んでいった。


 水に沈んでいく冒険者はしかし、右手を高くつき上げるとbサムズアップを作った状態でゆっくりと姿を消していった。




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