第15話 開かないドア【蓼科博士の研究所】3
「停電ということは……ヒューズでしょうか」
「洋ゲーだったら間違いなくヒューズだろうけど、さすがにブレーカーかなぁ」
「ですか」
ヒューズもありなくもないけど。海外のホラーゲームとかだと定番だし。でもここ日本だし、元になってるのが新しいビルだし。
「ブレーカーどこにあるのかなぁ?」
「順当にいけば入口とかですけど……個別にあると厄介かもです」
「個別?」
「大元のブレーカーの下流に部屋とか設備ごとにブレーカーがあったりすることがあります」
「なるほど。さすが科学ビルドだねぇ」
「それほどでも」
というわけでブレーカーを探しつつ入り口に戻る。
だけど期待したようなものは無かった。
壁に金属製の扉と取っ手が付いてる場所はところどころにあった。パイプスペースっていう配管を通す空間とかだね。
で「おっ」って思ったのに、どこも
「ありましたね」
「結局入口のだけか。まぁ、あっただけ良いか」
入口まで戻って来たら、あった。ブレーカーというか分電盤だね。
入口の扉があるのと同じ壁面の、天井寄りの隅にあった。薄暗い空間にひっそりと取り付けられている。
これ、完全に意識の外になるものだね。ダンジョンに入った時は視界に映らないし、ダンジョンから帰る時とかは疲れてて扉に意識がいきがちだろうし、あと何よりダンジョンの通電状況とか気にしないだろうから。
「見てみますかぁ」
「ライトどうぞ」
「助かるぅ」
近くにあったガラクタを積み上げて足場を作り、分電盤のフタを開ける。ブレーカーのスイッチがズラっと並んでいた。
「……これ、全部ONになってない? 橿原ちゃんどう?」
「全てONに見えますね。メインのブレーカーも、子ブレーカーも。スイッチ触ってグラグラしてたりしますか?」
「……いや、そんなことはないね」
「では落ちてるわけではないですね。漏電ボタンはどうですか?」
「漏電ボタン……?」
「代わってください」
橿原ちゃんが代わってくれた。頼りになるぅ。
「問題ありませんね」
「ということは問題だねぇ」
「はい」
停電しているのはブレーカーのせいではない。つまりあてが外れてしまったことになる。
となると次はどう考えるべきだろうか? やっぱりダンジョンだから電気とかいう概念を考慮する方がおかしいのかな? 実際、電気なんて関係なく照明が点いてて機械が動き回るダンジョンもあるし。
「どう思う?」
「ブレーカーは元になった空間の名残でしかなく、ダンジョンの構成要素ではない、ということでしょうか」
「やっぱり?」
「そうじゃないとしたら外から電力が投入されていない、くらいしか考えられません。でも外は普通のビルですよ。通電とかだって電力会社とかが管理——」
そこまで言った所で橿原ちゃんが言葉を止めた。そして考える素振りを見せる。
「……ダンジョンがダンジョンの外まで干渉することって」
「ありえないとも言い切れないね。九尾とかイロカネのダンジョンを知った後だと。このダンジョンの出入口だって細かく言えば元のビルの廊下の壁にできてるから、ダンジョンの外に干渉してることになるだろうし」
さすがに九尾のダンジョンみたいにビルごとダンジョンでしたってことはないと思うけど。
「ちょっと訊いてみよう」
「……誰に? 何を?」
「このビルの管理者的な人に。ダンジョンができたのと同じ時期に勝手にブレーカー増えてたりしません? って」
「教えてくれるでしょうか」
「そこはふてぶてしい酔っ払いの出番だ」
「こんにちはぁ~」
「……ど、どうかなさいました?」
ビルの管理室的なところがあったので突撃してみる。酔っ払いモードで。
いたのはメガネをかけたおじいちゃんだ。オレが現れたら困惑半分迷惑半分な様子を見せていた。
「あのぉ、オレ冒険者で蓼科博士のダンジョンに来たんですけどぉ」
「はぁ」
「ダンジョンっていつからあるんですかぁ?」
「え? あー……私がここで働き始める前からあるから、いつからかはちょっと知らないですね……」
「そうなんですかぁ、じゃあ――」
「まどろっこしいのでやめましょう
橿原ちゃんが割り込んできた。こういう変な役はオレの仕事かなって思ってたのに。
「冒険者をしている橿原という者ですが、蓼科博士のダンジョンの攻略のためにダンジョンの外側のブレーカーを探しています。ビル内にあったりしますか?」
「ブレーカーですか? ブレーカー自体はいくつもありますけど、あの部屋のって言われると……あ、恐れ入りますが、そういうの防犯上お答えできない規則なんですよ。どう悪用されるか分からないもので」
「そうですか」
「ああでも、アレはありますよ。不思議なんですけど」
「アレ、というと」
「見れば誰でも分かるのでお教えしますが、あるんですよねぇ
―― あのダンジョン宛ての郵便受けが」
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