第16話 開かないドア【蓼科博士の研究所】4
「どうして郵便受けだけあるんですか」
「オレに訊かれてもねぇ」
管理室の人に教えてもらった場所に来た。このビルに入居しているお店とか会社とかの郵便受けがまとめて設置されているところだ。入り口にはメールコーナーという看板があった。
「それでどこに……あれですね」
「あれだ……」
一発で分かった。明らかにメカメカしているデザインの郵便受けがドーンと置いてあった。パソコンの本体くらいの大きさで、【蓼科博士の研究所】と書かれた看板を持ったアームが生えている。
他の郵便受けは壁に埋め込まれて整然と並んでいる。ずらっと並んでいた。なのにそれだけ床に置いてあった……こんなに目立つなら冒険者とか組合に誰か教えてくれてもいいじゃん?
「いくら撤去しても勝手に戻ってくるそうです」
「呪いの人形か何かなの??」
「開けようとしたら噛みついてきたりするのでしょうか」
「ないとは言い切れないのが怖いね」
パカン。
いや開けるのかよ。躊躇なさ過ぎでしょ
「橿原ちゃん今度からそういうのオレがやるから……」
「? そうですか?」
オレの方がレベル高いし何かあっても耐えられる可能性は高い。ともあれ橿原ちゃんが無事でよかった。
「それで何か入ってた?」
「基本ゴミですね。勝手に投げ込まれるチラシとか。でも……」
ばさりと取り出した紙の束を選別する橿原ちゃん。あとで片づけるんだろうけどゴミと認識したものは足元にバサバサ捨てていた……その手が止まる。ため息を吐いた。
「どしたの?」
「呆れました」
橿原ちゃんが紙を渡してくる。受け取って中身を確認した。そこに記載されていた文字列は……
『電気料金のお支払いのお願い』
「いや払えよ」
止められてんじゃん。
電気代滞納してんじゃねーよ。
どんだけだらしないんだよ
「しかも25万って」
口座残高が無くて引落できなくて滞納扱いになることはオレもあるけど、こんな金額にはならないって。水道の次くらいには優先で支払うインフラだろ。
督促状の差出人は……関西電力ではない。ていうかそもそも読めない字だ。文字
「払ってみますか」
「そうだねぇ……」
「そこのQRコードから払えそうですね」
橿原ちゃんが支払おうとして……さすがにオレが支払うことにした。大人の沽券にかかわると思うんだこれは。
橿原ちゃんはいつものキリッとした顔で「いえ、ここは私が」とか言うけど、督促状を高く掲げて渡さないようにする。紙を奪おうとして背伸びする橿原ちゃんかわいいね。
支払いは問題ない。幸いにもヒヒイロカネを売った金があるから。確率ドロップ分の60グラムしか売ってないけどウン百万だったし。
「上で支払いましょう。おそらくダンジョン的な作用で即座に通電されるでしょうからドアの前に居たいです」
たしかにそうだね。オレたちはゴミを片付け督促状を回収しダンジョンに戻った。郵便受けはいつの間にか無くなっていた。
「じゃあ払うよ」
「お願いします」
QRコードを読んでクレカで支払う。『決済が完了しました!』というメッセージが表示された。
そして―― ゴウンという音と共にダンジョンに明かりが灯った。
「おー」
「正解でしたね」
……正解は良いんだけど、なんだかダンジョンに金巻き上げられてるみたいじゃない? それか蓼科博士に。
「本命も確認しますかね。扉開けてすぐにエネミーいるかもしれないから気をつけて」
「はい」
橿原ちゃんが銃を構える。開ける役はオレだ。
――ヴーん
さっきまで動かなかったドア。近づいただけで開いた。自動ドアだ。
内部に敵はいない。例によってガラクタだらけだけど床が見える程度には他より散らかっていなかった。
「……エレベーターホール、でしょうか」
壁にドアが2つ並んでいる。ドアの近くには↑と↓のマークがあるボタンがあった。エレベーターだね。
「もしかしてショートカットかな?」
ショートカット。
ダンジョンにたまにある。いろいろすっ飛ばしてより深いエリアに行けたりするヤツだね。
「でもこのダンジョン基本平面じゃなかった?」
「そうです」
「ということは……」
「おそらく未発見の新エリアです」
「おぉ~」
新エリア。つまり手付かずのダンジョンが広がっている領域だ。情報が無い分危険だけど、まだ世に出ていないアイテムとかがみつかったりする。
「このエレベーター、カードリーダーがありますね。一部のボタンが押しても反応しません」
エレベーターに入る。まあどこにでもありそうな内装だね。カードリーダーがあるのは初めて見たけど。
「どゆこと?」
「反応しないフロアに行くには、そのフロアに行くためのカードが必要なのだと思います。セキュリティの固いマンションとかではよくある方式ですね」
エレベーターが動き出す。扉が開く。そこは橿原ちゃんの見覚えのある場所だった。
「……ボス部屋の前ですね」
「え? このダンジョン平面じゃなかったの?」
「空間がねじ曲がっているんだと思います。お陰でショートカットとしても使えそうです」
またエレベーターで別の階へ行く。
そこは橿原ちゃんも見覚えのない場所だった。新エリアだ。
「順当に考えれば、このフロアのボスがカードキーを持っていて、倒すとドロップするのでそれを使って別のフロアへ行けるということでしょう」
エレベーターで行ける新エリアはここだけだった。他はショートカットだ。橿原ちゃんの予想は合ってると思う。
「何かあります」
「お?」
エレベーターホールの左手はダンジョンが広がっているけど、右手は行き止まりだった。その行き止まりに何かある。折り畳み型のコンテナの隙間から光が漏れていた。
「アイテムですね」
これは九尾の時と同じパターンか。開けるとアイテム貰えるやつだ。蹴り飛ばしても動かないのでミミックでもない。開けてみよう。
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