第37話 最強魔法幼女を攻略せよ【魔法図書館】4
本を読んでる
まぁ橿原ちゃんレベルになると大抵の仕草は絵になるんだけどさ。やっぱり勉強が本分の大学生かと思うと余計にね。
これは負けてられないぞ。
「オレも酒を飲んでるのが似合う大人にならなくては……飲酒は大人の本分だし」
「どういう経緯でその考えに至ったのかは存じませんが、違うと思います」
橿原ちゃんはパタンと本を閉じた。こちらを見る顔はいつも通りの無表情だったけど、ちょっとだけ呆れの感じが読み取れる気がした。
「それでどうして唐突にキャンプを?」
オレたちはキャンプをしていた――【魔法図書館】の中で。
「今まで誰も攻略できてないヤツを相手にするから、今まで誰もやったこと無さそうなことしようと思って」
「本当は?」
「図書館の中で焼き肉&飲酒&テント泊とか1度してみたくない? ほら、入ってすぐならエネミー出ないし。外の図書館でやったら絶対怒られるし」
「……気持ちは分からなくもありませんが、実行するか否かは話が別かと」
「まぁまぁ。あ、マシュマロ焼けたけど食べる?」
「食べます」
「はい、あーん」
はぷ。
「どう?」
「おいひいです」
「紅茶もあるよ」
「いただきます」
カップを渡すとくぴくぴ飲み始めた。うん、何だかんだ橿原ちゃんも楽しそうで良かった。
というわけで”ゴールデンピークボアの味噌漬け(蓼科博士謹製)”をヒヒイロカネ製の鉄板で焼いていただいた。ちなみどのくらい旨かったかというと、オレは叫んだし橿原ちゃんは言葉を失い手で押さえた口をもぐもぐさせていた。もちろん肉はあっという間になくなった。
「スープ作っておきました。お口に合えば良いのですが」
「うんまい!」
「ありがとうございます。お嫁さんにしたくなりましたか」
「うますぎて言葉が出てこねぇ……!」
「それは良かったです。デザートもあります」
オシャレなお皿にオシャレに盛り付けられたケーキが出てきた。ストレージから出したのかな? 至れり尽くせりだ。キャンプって何だっけ? ダメ人間になりそうだよ。
「ブックエンド、その辺にいないかなぁ」
「他の女の名前を出すとは良い度胸ですね。テントに行きましょう」
「どうする気……!? いや、甘いものとかで買収できないなぁって。九尾の時みたいに」
「仮にそうだとしてもそんな都合よく……」
――ふよふよふよ~。
少し上の吹き抜けをブックエンドが横切った。
「……いましたね」
「いたね……」
というわけでブックエンドのところに行ってみた。
『~♪ ~♪』
「「……」」
超ご機嫌だった。
言葉は全く聞き取れないけど、体を左右に揺らしながら歌ってる。あと本を読んでた。例によって読めない文字で書かれていた。
いやいや、昨日の無機質で冷徹な魔法砲台っぷりは何だったんだ。閉架エリアに入られるのどんだけ嫌なんだよ。
それと彼女が何故“ブックエンド”と呼ばれているのか分かった。
バカでかい本が床に積んであって、それに寄りかかって本を読んでいた。
ちなみに今は浮いていない。見方を変えると本を支えているように見えなくもない。だからブックエンドなのだろう。
「チャンスです。撃ちましょう」
オレのパーティメンバーが脳筋すぎる。
「待って待って。攻撃しなきゃ戦闘にならないらしいからちょっと声かけてみよう」
「分かりました」
「じゃあ」
「通報します」
「何でだよ……。こんにちは!」
子供向け(当社比)の笑顔を浮かべながら話しかける。
『~~♪ ~~♪』
「こんにちは~……」
『~♪♪』
「ケ、ケーキはいかがかなぁ?」
『♪ ♪ ~♪』
「……」
ガン無視だった。
……な、泣いてないんだから!
「樟葉さんを無視するとは……。経験値にされたいようですね……!」
「だからストップぅ!」
橿原ちゃんはブックエンドのこめかみにライフルを突きつける。ライフルは怒りに震えていた。ぜったい勝てないってもう分かってるよね?
でもブックエンドは相変わらずお
「魔法なら興味あるかな? “花火”!」
どーん。
図書館に花火が打ち上がった。本来は合図用のスキルだね。ほぼ宴会芸だけど。
なお、ブックエンドは無視だった。
「ならこれはいかがでしょう」
ゴン、と橿原ちゃんの後ろに戦闘機が現れる。
「F2です。カッコいいでしょう。こういうのに興味ありませんか? ……なさそうですね」
ブックエンドはやっぱり無視だった……けどそれはそれとして、だから橿原ちゃんは何と戦う気なんだ。
「ブックエンドには追跡ドローンを付けておきます。その間に探索をしましょう」
「そうしよっかぁ」
そんなこんなで探索をしている。
けどまあ他のダンジョンとそう変わらないね。
入口から離れれば離れるほど敵が強くなる。ドロップするアイテムや獲得できるスキルもランクが上がっていった。エネミーは固有のものから色が違うだけのヤツもいた。
「ここの扉は開きませんね」
「ショートカットかな?」
「でもエレベータなら別にあります」
ところどころに開かない扉がある。ショートカットかもしれないけど、でもエレベータはエレベータで別にあったりするんだよね。
「構造を考えるとフロアの外? に出てしまいそうな扉ですが」
扉があるのはおおむねフロアの端っこだ。だからそこから仮に出られるとするなら、フロアの外に出るということになる。でもこのバカでかい図書館の外ってどこだ?
橿原ちゃんは少し考える様子を見せる。
「この【魔法図書館】は、外の通常の図書館の一画にできたというより、元々はどこか別の場所にあったものが移動してきたものかもしれません。そのせいでこの扉は機能を失っている……つながっている先がないから」
「でもこのダンジョン200階もあるから実際建ってるとしたら……ああ、ここはダンジョン化したから【魔法図書館】になったわけじゃなくて、元から【魔法図書館】だったんじゃない? ってことか。
このダンジョンの世界観的には、図書館内が異様に広いのはダンジョン的な作用ではなく魔法的な作用だと」
どこかの剣と魔法のファンタジーな異世界に建っていた、外観と一致しない広さを持つ魔法図書館をポンと持ってきたイメージか。魔法図書館としては「オレはダンジョンじゃねぇ!」と。
橿原ちゃんは頷く。
「あくまでそういう設定、ということになると思いますが。我々からすれば魔法的なものはダンジョン的な物なので」
卵が先かニワトリが先かってやつだね。まぁメタ的な視点に立てる冒険者としてはダンジョンが先なのは明白なんだけど。
「そういう風に考えると見えてくるものがあるな……」
「?」
「図書館で襲われるのっておかしくない?」
「……言われてみると」
図書館って基本的に開かれた場所だ。現代の日本なら大抵の人が入れるし、仮に異世界ファンタジーな世界でも関係者くらいは入れる。
そう、関係者なら。
「オレたちは盗人か何かだと思われてる。だからエネミーに攻撃される」
「ブックエンドは攻撃してきませんでしたが」
「管轄が閉架エリアだけなんじゃない? ほら、海外とかってそういう契約に厳しいというかドライっていうじゃん? 自分の担当エリア以外知らんよむしろ他人のエリアに手を出すなっていう」
「となると、私たちが取るべき行動は……」
「橿原ちゃん、ブックエンド今どこにいる?」
「すぐそこです」
「ラッキー」
オレたちはブックエンドの所に走った。歌が聞こえてくる。本棚の上の空中で寝そべりながら本を読んでいる彼女を視認した。そのすぐ下に滑り込んで、オレは正座してから頭を下げた。
「オレをここで働かせてくれ!!」
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