第38話 最強魔法幼女を攻略せよ【魔法図書館】5
「オレをここで働かせてくれ!!」
初めて言ったよこのセリフ。
だって自営業——冒険者しかしたことないから。
いつも酒飲んでるヤツとか誰も雇ってくれんし。
「オレをここで働かせてくれ!」
『♪~ ♪♪~』
「オレをここで働かせてくれ!!」
『~♪ ~♪』
「オレを! ここで! 働か――」
ポン。
誰かがオレの肩に手を置いた。
採用か!? ガバっと顔を上げる。
橿原ちゃんだった。
「不採用だそうです」
「えっ」
「もうあっちに飛んで行きました」
「……」
指差された方を見た。
歌いながらふよふよしてた。
「私のところに永久就職しますか。そうですか。ではこの書類にサインを」
「まさかそれ持ち歩いてるの?」
さすがに邪魔じゃない?
「ようはこの図書館のお仲間になれれば良いような気がするんだけどなぁ」
ブックエンドを堂々とストーキングしながら考える。
何もしなければホント無害だなこの子。ゆらゆらしてる髪とかローブとかもクラゲっぽくて見てるだけで癒し効果がある。
「従業員証のようなものとか、利用者証のようなものがあるかもしれません」
「1階のカウンターに利用申請書とかないだろうね」
「仮にあったとしても文字の問題がありますが」
「そうだった。じゃあ、あるとしたら持ってるだけで良いタイプかなぁ……あ、エネミーがドロップする防具を装備してみよう」
「なるほど。やってみましょう」
元々ここにいるエネミーの防具—— 魔法使いのローブとかがドロップで入手できるはずだ。それを着ていれば仲間と判定してくれるかもしれない。
というわけで防具が出るまでマラソンする。
「おら! 防具置いてけ!」
『0qM$’qD!?』
「ジャンプしてみなさい」
『vf*¥E:!?!』
魔法使いはローブをあっさりドロップした。親切だなぁ。早速装備してブックエンドと再面接だ!
『♪~ ♪ ♪~』
「不採用のようです」
「……」
その後、念のため閉架エリアまで行ってみた。この格好ならワンチャン立ち入りOKだったりしないかなって。
……うん、戦闘モードのブックエンドが出てきて、最後はまたダンジョン1階まで送還されたよ。
「くっそー、イケると思ったんだけどなぁ」
「あまり褒められた言葉遣いではないかと」
「やっぱりロクな依頼じゃないなクエストさんのは」
1階のカウンター内を漁ってる。ホコリのかぶったカウンターだ。こんなところはとっくに調査してるだろうけどね。
「ん? ここにも扉あるのか。開かないけど」
カウンターの後ろに扉があった。片側に丁番が付いてて押し引きするタイプの扉だ。
「あからさまに何かありそうだねぇ……この魔法図書館が本来の場所にあったらだけど」
元々は倉庫とか事務室とかだったのかなぁ。あとはエライ人の部屋とか。そうだったら何か手がかりがありそうだったのに。
ガタガタ。
「へ?」
ガタガタ。
「どうかしましたか」
「いや……この扉、開かないには開かないんだけど、他の扉よりはだいぶ開きそうなんだよね」
他の場所にあった扉はびくともしなかったのに。ここの扉はけっこうガタガタする。
「壊してみますか?」
「だから思考が脳筋……いや、でもやってみる価値はあるか」
ダンジョンのルール上で壊れないものは壊れないしね。鍵のかかった宝箱とか、あとはこのダンジョンの本棚とか。 でも逆にいうと壊れるものは壊れる。
「よ」
剣をドアの隙間に差し込んでこじ開け――ようとしたんだけど、その前に何かが「カキン」と鳴って切れた。扉の向こうからガタンガタンと音が聞こえた。
「お、開いた」
扉が開く。隙間から明るい光がこぼれだす。中途半端なところで止まったので、ドアノブを持って押し開いた。
「…………は?」
扉を抜けると明るかった。
机とイスが並んでいた。
天井の照明は白い光を放ち、タイルカーペットの床は足音を軽減している。
空調によって室温は快適に保たれていて、パソコンが何台もあるけど排熱は問題になりそうにない。
「「……」」
めちゃくちゃ怯えた様子の人たちと目が合う。みなさん部屋の隅で身を寄せ合って震えていた。
皆さん……そう、皆さんが。
どう見ても、ダンジョンの外の、本来の図書館の職員の皆さんが。
「あ、あはは~……こんちはぁ……?」
いったい何がどうなっているんだ。
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