第36話 最強魔法幼女を攻略せよ【魔法図書館】3



 いやービビった。ほんとに目の前に現れるんだもんなぁ。


「いてて」


 フロアの南端の本棚に叩き付けられてようやく止まった。

 被害はスキル”常壁“が全損。スキル”気絶解除”も発動した。体力は3/4持ってかれてる。常に満タンじゃないと死ぬねコレ。回復回復再展開と。


「スキルの“衝撃“の最上位版かなぁ」


 スキル”衝撃”はダメージが無い代わりに素早い発生と吹き飛ばし効果がある。でも今オレがもらったのはダメージ有りだ。それなのに”衝撃”の長所が無くなっていなかった。そんなものをバカスカ撃たれたらたまらないよ。


「あ、橿原かしはらちゃん1人にしちゃった」


 立ち上がってさっきの場所まで急いで戻る。さすがに今のは不用心すぎたね。でもまさかここまで吹き飛ばされるとは。





 元の場所に戻ったら戦場だった。


 橿原ちゃんがライフルを撃った。

 ブックエンドの障壁が弾丸を静止して反転させた。


 橿原ちゃんがドローンの編隊で爆撃を試みた。

 でもドローンが動き出した瞬間に光線の魔法でブックエンドに撃墜された。


 ブックエンドが幾本もの魔法の奔流を放った。それらは各々やや乱れた軌道を描きつつ、しかし確実に橿原ちゃんに迫った。追尾タイプだ。

 橿原ちゃんはライフルを格納。代わりに2丁のハンドガンを装備した。そして縦横無尽に立ち回りながらハンドガンの銃撃でブックエンドの魔法を迎撃した。



 えーと……どっちがボスですか?



 橿原ちゃんスゴすぎない? あんなの真似できないよ? モンスターを狩るゲームのモンスター同士のナワバリ争い見せられてる気分だ。


 オレが異次元の戦闘に唖然としている間に、橿原ちゃんがブックエンドから距離を取った。本棚の上に立って、普段よく使っているものとは違うゴツいライフルを装備する。そして弾丸が装填された。


「あ」


 一瞬だけ見えた。あの色合いはヒヒイロカネだ。ヒヒイロカネの弾丸だ。

 あれは秘術的な効果を無視する。ブックエンドの障壁も貫通するはずだ。


 橿原ちゃんは狙い澄ます。


 そして――


「ぐっ!?」


 引金ひきがねを引く直前、側方から滑り込んできた本棚に跳ね飛ばされた。

 いや、ギリギリで避けたけどひっかかった感じか。キツネ耳のレーダー機能で察知したとみえる。橿原ちゃんはそのまま床を転がって受け身を取って立ち上がった。


「ご無事でなによりです。無傷とはさすがですね」


「橿原ちゃんこそ。絶対オレより強いでしょ」


「ビルドの差かと」


 まぁ確かに、生存性能を高めたせいで火力が低めなんだよなオレのビルド。橿原ちゃんが火力あるの助かるよほんと。逆に敵の攻撃はオレが受けて橿原ちゃんを守らないと。


「思った以上です」


「そうだねぇ」


 閉架エリアの手前にいる女の子ブックエンドを見据える。


 向こうもこちらを見つめていた。漫画的な表現をするなら、ハイライトが失われた瞳で見つめられていた。


 背格好は小学校低学年かそれより幼いくらいか。髪は黒くて長い。顔に前髪がかなりかかっている。顔立ちは人形のようにキレイだ。


 金糸の緻密な刺繍が広がるローブを着ているけど、ぶかぶかだ。サイズが合っていない。


 あと宙に浮いていた。あの子だけ水中にいるかのようだ。長い髪とローブの余った生地がゆらゆらしている。


「……なんだ?」


 本棚から本が抜け出してふわふわと浮かび上がった。

 と思ったら、ブックエンドの周りに集まってきてゆっくり旋回し始めた。色もサイズも様々な本だ。イヤな予感しかしないね。


「ギアを上げられましたね。第2形態とでも呼ぶべきでしょうか」


「2人になったからか、あるいは評価されてるってことかな?」


「1人は無傷で返ってきて、1人は秘術無効攻撃持ちなのが分かったでしょうから、私がブックエンドならかなり警戒します」



 そこからもまあスゴかった。


 検証のためにいろいろやってみたわけだけど、『結論:ブックエンドは魔法図書館内にて最強』にしかならなかった。


 ブックエンドの周りを旋回する本。あれは様々な魔法を呼び起こす魔法書で、ブックエンドが干渉することで魔法を発動した。発動される魔法の性質や属性は様々で、さらに数も多いものだから対応しきれない。ブックエンド本人が使用する魔法もある。


 あとは召喚も使ってきた。高ランクモンスターが召喚されてブックエンドに使役されていた。ドラゴンの首が出てきて炎を撒き散らされた時はそんなんアリかよってなったね。でも、本気になれば首だけじゃなくて全身を召喚できるんだろうな。


 1人がブックエンドを引き付けている間にこっそり閉架エリアに入れないかも試してみた。失敗した。

 ブックエンド、平然と分身しやがる。コソコソしながら閉架エリアの廊下を覗き込んだら、死んだ目をしたブックエンドの顔が至近距離にあって心臓止まりかけた。ああ、狙撃も察知されて対応されたよ。


 あと一番やっかいだったのは本棚だ。あれがブックエンドの制御下にあるのが彼女の真骨頂かもしれない。地形がブックエンドに都合が良いように変更されるし、こちらの足場もおぼつかない。


 最後は本棚に取り囲まれてブックエンドと分断された。本棚でできた部屋に閉じ込められたんだ。

 ああ。ここの本棚、そういう性質なんだと思うけど壊れないんだよね。だから破壊して脱出は無理だった。中身の本は飛び散るけど。


 閉じ込められていると足元がせり上がってきた。押しつぶされるのかと思ったら天井が無くなっていた。やがて部屋は超高速のエレベータと化し、オレたちはダンジョンの1階に送り返されていた。


「……理不尽でしょう、これは」


「最強だよこれ、ブックエンド最強……あー、疲れた……」


 オレは床に大の字になって倒れた。橿原ちゃんはライフルを抱いたまま横座りになって背中を丸めていた。


 手をつけられないとはこのことだ。こりゃ力押しでの攻略は確実に無理だね。


「明日は探索にしましょう」


「賛成」


 帰って飲もう。酒を飲もう。悔しいからあのお子様ブックエンドにはできないことしてやるんだ。




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