第35話 最強魔法幼女を攻略せよ【魔法図書館】2



「普通の図書館ですね」


「まあ外観はね」


 ついでに中身も普通だ。ただし6階まで。


 それより先の階は本棚の無限回廊って感じの構造になってる。


 ワンフロアあたりの広さとしては、立つ場所によっては四方の壁が見えなくなるくらいに広かった。天井の高さはだいぶ振れ幅があって、3メートルくらいの階もあるし吹き抜けになっていて天井が見えない階もある。


 階層数でいうと上に200階で下に100階だ。

 ああ、下にっていうのはダンジョンの1階(本来の建物では7階相当)に下方向に向かう階段があって、それが100階したまで続いてるってことね。


 閉架エリアというのは地下40階から70階のそれぞれ北側のエリアに広がっている。


 ”ブックエンド”が図書館内のどこにいるのかはまちまちだ。いろいろな階で目撃情報がある。

 でも閉架エリアに入ろうとすると瞬間移動してきて追い出されたり戦闘になる、らしい。ああ、オレが体験したわけじゃないから知らんよ。聞いた話だ。でもこれから検証しなくちゃいけないんだろうなぁ。


 というわけでまずはダンジョンになっているエリアに入った。ここから先が【魔法図書館】だ。


 入ってすぐのところは空間が広くすっきりしている。エントランス的な感じかな。吹き抜けになっていて天井が青く霞むくらい高くまで続いている。

 目の前には受付カウンターがみたいなのがある。木製のそれは経年で黒ずんでいるしホコリも積もっていた。人の手は長らく入っていない。


「……まったく読めませんね」


 橿原かしはらちゃんが本棚の本を無作為に取って開く。ぜんぜん読めない文字が羅列されていた。ここにある本を解読しようとしたことが過去にあったみたいだけど、あまり成果は上がってないってさ。


 魔法図書館なので心情的には本から魔法を学びたいけど、新しい魔法を覚えたいとかならエネミーを倒してスキルを得るのが手っ取り早いってことだね。


「それでは行きましょう」


 橿原ちゃんがヘッドマウントディスプレイをおろしたのを合図に、オレたちは下へ続く階段へを降りていった。






『P%6MQ瞭|1鳩3!』


 魔法使いのエネミー(シワシワのミイラみたいな人型。目も歯もない。ローブと杖を身に着けていた)が何か言いながら魔法を放ってくる。まあ全部障壁で何とかなるので近づいて剣で殴るだけだ。


「何と言ってるんでしょうね」


「図書館ではお静かに! とかじゃない? ……あ、橿原ちゃん後ろに”本の虫”」


 パァン!


 ハンドガンを肩越しに発砲して終わった。見もしなかった。無言だった。ちなみに”本の虫”は白いワームみたいなやつで本棚からそろーっと出てきて不意打ちしてくる。


「橿原ちゃん虫平気なタイプ?」


「いえ。なので×します」


 つまり虫と間違われると撃たれる、と。橿原ちゃんの後ろには立たない方が良いな、うん。


「また何か来ましたね……何ですかあのシャンデリアのオバケは」


 バカでかいシャンデリアがふよふよ浮きながら上空から降りて来た。蝋燭ろうそくタイプのシャンデリアで、オレンジ色の火がゆらゆらと揺らいでいた。



 ぎゅるん!!



 シャンデリアのオバケが高速で回転した。すると蝋と炎が辺りに飛び散った。たぶんめっちゃ熱いやつだ。

 オレは例によって障壁で大丈夫だったんだけど、橿原ちゃんは――。



 ガッ。


 シャンデリアに跳び乗っていた。



『柚U$W!?』


 火が熱くは……ないんだろうね。

 シャンデリアのオバケ、あからさまに動揺してるよ。まさか上から来るとは思わなかったんだろう。


「水平方向に回転していたようなので、真上には蝋と炎が飛び散らないかと思いまして」


「なるほど~」


 オレが感心している間に橿原ちゃんはシャンデリアに爆薬をセット。飛び降りて遠隔で起爆した。シャンデリアはさっきよりも派手に四散した。


「この調子で行きましょう」


「40階は遠いなぁ」






 そんなこんなで閉架エリアに辿り着いた。


「本棚が動いてますね」


「来館者が閲覧することを想定してないんだろうねぇ」


 閉架エリアでは本棚が動き回っていた。

 無軌道というわけではなさそうだ。パズルゲームがカシャカシャ上下左右に動く感じに似ている。機械的な動きだ。もっとも、重い本棚が動くのでゴゴゴ、ゴゴゴ、という感じだけど。

 本棚と本棚の間がゼロになるタイミングもあるので、タイミングによっては挟まれて大変なことになるかもしれない。


「”ブックエンド”はいませんね」


「エリアに入ろうとするとすぐに来るらしいよ」


「どうしましょうか」


「入ってみるしかないんじゃない?」


 そうしないと会うの難しいしね。このダンジョン広いし。というわけでエリアに足を踏み入れてみる。まあレベルもあるし何とかなるだろう。


「待ってください。それはさすがに危険――」





 ゴッ!!




「——っ!!」


樟葉くずはさん!!」



 こうしてオレは、瞬きの間に出現した”ブックエンド”によって、フロアの端まで吹き飛ばされたのだった。



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