第20話 あのとき助けてもらったツルです1



「あのとき助けてもらったツルです!!」



 女の子は言った。


 ……いや何の話!?


「おかげで今日まで生き長らえています! で、そのお話を姫様にしたところ、ぜひクズハさんにお礼をしたいということになり今まで探していたのです! 見つけられて良かったのです!」


「待って待って、ぜんぜん何が何だかわからないよ……」


 姫様? お礼? どゆこと?


「あの、えーと……クズハさん? わ、わたしのこと分かりませんか……? 覚えてませんか……?」


「……ごめん」


「ガーン!」


 女の子が崩れ落ちた。orzの体勢になってる。おかげで背中が見えたけど、マジで翼が生えてるね。肩甲骨のあたりから。


「そ、そんな……ひとばん身を寄せ合った仲なのに……」


樟葉くずはさんちょっと」


「オレは何もしていない!!」


「ヒヒイロカネの弾丸作ったんです。これなら樟葉さんがダンジョン内で常時展開してる障壁も貫通すると思うんです。試射いいですか、いいですね」


「よくないよ!?」


「私にいつまでたっても手を出さないのはそういうことだったんですねですが安心しました私に魅力がないのかとか非常に悩んでいましたからあのワガママボディキツネのこととかもありましたからでもこれで積年の謎が………………私のものにならないならんでいただきます」


「そこのキミぃ! 詳しい話を聞かせてくれるかなぁ!? 好きなデザート注文してくれていいから! お願い!」








「えーとつまり、冬の大阪城のお堀で凍えていたキミを俺がひとばん抱き締めて温めたから凍死を免れた、と」


「その通りです!」


「……」


 どうしよう。全く覚えてない。


「そ、その時のキミは鳥の姿をしていたと?」


「そうですね!」


「不審者じゃんオレ」


 酔っぱらって鳥を抱きしめて寝てただけじゃんそれ絶対。


「はぁー……またですか」


 橿原かしはらちゃんは盛大にため息を吐いていた。またってどういうこと!?


「あなた、ツルの姿になれますか?」


「え゛……、ここでですか?」


「はい」


「……」


「なれないのですか」


「あ、そうだ! 私がツルだって証明できればいいんですね? では鳴きます! ツルツル! ツールツル!」


「ツルはツルツルと鳴きませんが」


「ガーン!」


 ツルツルはないだろツルツルは。イヌじゃないんだから。いや、犬ですらイヌイヌとは鳴かないか。


「正体を現しなさい。さもなくば」


「ひええ! 分かりましたぁ!」


 橿原ちゃんがハンドガンを取り出す。ツル(自称)の女の子は瞬く間に顔を青ざめさせた。



 ぼふん!


 スモークで女の子の姿が見えなくなる。でもすぐに晴れた。1羽の鳥がそこにいた。なんか申し訳なさそうにしてる。


「……ツルじゃないじゃん」


 ツルではなかった。たぶんカモとかアヒルとかそういうのだと思うけど少なくともツルではない。


がんですね」


「ガン?」


「三角形になって飛んでいる鳥の群れを見たことがありませんか。あれが雁です」


「へぇー」


 こういう鳥なんだぁ。


「なんでウソついたの?」


「その……ツルが恩返しに来たと言った方が日本人は一発で状況を理解できると姫様が」


「なるほどねぇ」


 気持ちは分からんでもない。


「それで、お礼と言っていましたが」


「あ、そうでした」


 ガンは女の子の姿に戻った。


「クズハさんを竜宮城にご招待したいのです! 織姫様がぜひにとおっしゃっております!」


「「……」」


 混ざってる混ざってる。めちゃくちゃ混ざってるよ。テキトー過ぎだろダンジョン。


 そう、ダンジョンだ。それ以外考えられない。オレはまた知らないうちにダンジョンへ―― 竜宮城へアクセスするためのフラグを立ててしまったんだ。


 ……まぁ冬の大阪城で鳥をひとばん抱き締めるなんてフラグどうやったら分かるんだという話だけど。偶然以外は無理だろこれ。



「竜宮城はどこにあるのですか」


「兵庫県です!」



 めっちゃ具体的な地名が出てきたわ。



「え、兵庫県のどこにあるの?」


「姫路市です!」


「それ姫路城じゃない?」



 ぜったい姫路城だよそれ。


「姫路城じゃありません! 竜宮城です!」


「……そういえばいつの間にか堀に橋が架かって、その先に門ができて人型モンスターが門番をしているようになったという話がありましたね、姫路城。たしか門には未だに誰も入れていないはずです」


「それか」


 またワケわかんないことになっちゃってるなぁ。でもそれがダンジョンか。


橿原ちゃんこの子も連れていって良い?」


「クズハさんの……えーと、恋人の方ですか? もちろん大丈夫です!」


「良い子ですね。もうひとつケーキはいかがですか。ごちそうしましょう」


 雁の女の子がケーキを食べ終わるのを待ってから俺たちは席を立った。


「とりあえず現地の確認だけしとく? スキルですぐに行けるけど」


「そうしましょう」


「今から行かれますか! ではご案内いたします! あ、抱っこしていただいてもいいですか? 鳥と人間どっちの姿でも皆さんの速度に合わせて移動するの苦手でして」


「では私が」


 雁の姿になった子を橿原ちゃんが抱き抱えた。うーん、橿原ちゃんならそこそこ画になるけど、大阪城ではオレがこれをやっていたのか。ヤバいやつだな。


「それではガンガン行きましょー!」


 橿原ちゃんの腕の中で、翼がばさばさと動かされていた。

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