第21話 あのとき助けてもらったツルです2


 姫路に着いた。


 家具を選びまわったりした後なのでもう夕方だ。空気は少し肌寒い。


橿原かしはらちゃんだいじょうぶ? 寒くない?」


「大丈夫です。この子を抱っこしてるので割と暖かいです」


「なら良かったよ」


「……もしかして樟葉くずはさんも抱っこしてもらいたいのですか?」


「違うよ??」


「そうならそうと―― あなたは降りて自分で歩いてください」


「ガーン!」


「そのままで良いからねー」


 スキル”鳥居渡り”で姫路の神社に到着した。

 姫路駅から少し東にある神社だ。そこから西に歩いて大手前通り(JR姫路駅から姫路城に真っ直ぐ伸びる道)に出る。


 話には聞いてたけど、ほんとに姫路城がどーんと見えるね。これは迷いようがないわ。親切設計だ。


「……」


「どこ行くんですか」


「……はっ!? あっちにさげな飲み屋がある気配がしてつい……!」


 橿原ちゃんに服のえりを掴まれて止められた。喉がぐえってなった。

 でもクセになってんだ。良いカンジの飲み屋がありそうだと思わずそっちに行っちゃうの。


「ごめんごめん、無意識で」


「迷いますよ」


「こうやって人は道に迷うんだなぁ」


「樟葉さんだけです」


 ちょっとしたトラブルがあったものの、無事に姫路城のお堀のところまで来た。姫路城がどっしりかつ優美に構えてて画になるねぇほんと。あたりにも観光客がいっぱいだ。桜の時期は過ぎちゃってるけどシーズンの時はスゴそうだね。


「それではご案内いたします!」


 がんの子の案内でお堀を回っていく。話題のはしもんはお城の南西にあった。


「こちらです!」


 違和感なくそれはあった。


 お堀に木製の橋が架かっている。少しアーチを描く橋だ。

 不自然なところの無い、国の基準とかもちゃんと遵守してそうな橋だった。人が歩く面もなだらかで段差とかも見受けられない。ぼーっと歩いてたら渡っちゃいそうだね。


 しかし不用意に渡っちゃうと非常にマズい。


 橋の向こうには大きくて立派な門がある。木製で観音かんのんびらきの城門だ。


 その両脇に仁王像におうぞうみたいな筋肉モリモリ、マッチョマンな人型モンスターがたたずんでいた。


 身長は4メートルくらいあるかな。両方とも浅黒い体表をしているけど、片方は深い青の光を纏っていて、もう片方は鮮烈な赤い光を纏っていた。門に近づく輩をコイツらが撃退するらしい。


 見ただけで分かる。ヤバいヤツらだ。


 両方とも獣モードの九尾くらいの威圧感がある。勝てる気がしない。こいつらに殴りかかっていく冒険者がそこそこ居るってマジ?


「〇されはしないみたいですね。だから今は腕試し的に挑戦する冒険者が多いようです。もちろん本気で倒しにいく冒険者もいるようですが」


「ケガとかはするってことでしょ?」


 冒険者もやべーな。どんな連中なんだ。


「門の向こう側は異空間型のダンジョンなんでしょうね」


「だろうねぇ」


「入り口にあんなボス級のモンスターがいるのに、内部には一体なにがいるというのでしょうか」


「確かに」


 あれより強いヤツがわんさかいるとしたら国内最難関のダンジョンになるぞ。ゲームだと終盤になったらかつてのボスがモブになって出てきてボスラッシュになったりするけど、現実ではやめてもらいたいね。


「さぁさぁ行きましょう! 姫様がお待ちです! どうか遠慮せず!」


 雁の子がハイテンションだ。

 ホントに近づいて大丈夫なの? すげー威圧感だけどあの2人。


「橿原ちゃんどうする? 今日はもう遅いから明日にする?」


「少し覗いて行きましょう。それで対策を考えて出直します」


「なるほど」


「決まりですね! みなさ~ん! ただいまです~!」


 雁の子が橿原ちゃんの腕の中でばっさばさする。まあここまで来て襲われるってことも無いだろうから覚悟を決めて行ってみよう。


 橋に足を踏み出す。そして橋の中央くらいまで進んだところで門番の2人が動き出した。


「「!」」


 一瞬いっしゅん身構える。しかし杞憂きゆうだった。

 門番2人は体を《ひるがえ》翻すと、それぞれが片腕で門を押し開いた。ごごご、と音と振動がする。見た目通りの怪力だ。巨大な門を軽々と操作していた。


 開かれた門の向こう側は霞んでいてよく見えない。スキル”鳥居渡り”を使った時の鳥居みたいだ。


 さて、何が待っているのか。


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