第13話 開かないドア【蓼科博士の研究所】1



「このビルです。【蓼科たてしな博士の研究所】があるのは」


 目の前にドカーンと大きなビルが建っていた。足元は商業施設、中層はオフィス、上層はマンションになっている複合ビルだ。


「8階だっけ?」


「8階です」


 ダンジョン【蓼科博士の研究所】はこの複合ビルのオフィスエリアだった場所にあるらしい。フロアの一角にいつの間にか扉が出来ていて、入ってみたらダンジョンだということが判明したんだってさ。


 内部はダンジョン的な作用で拡張されていて、ビルの構造とは面積とかが一致していない。工作機械とかミュータントがエネミーとして襲いかかってきて、あとは蓼科博士の発明品とおぼしき諸々が罠として動作しているらしい。

 まぁ、罠の方はクラッカーみたいにびっくりするだけで無害なものから、逆にシャレにならない危険なものまであるらしいけど。


「蓼科博士って何者なんだろうねぇ」


 蓼科博士、ダンジョンに関わっているとたまーに名前を聞く。アイテムの作成者だったり、逆にダンジョンやエネミーを産み出していたり。


 誰も会ったことはない。正体も不明だ。


 だけど性格がろくでもないということは分かっている。


 例えばこのダンジョンが発見された時、入口の扉には



『ごめん。 蓼科』



 と手書きの貼り紙が貼ってあったらしい。うん、ろくでもないな。


 ちなみにダンジョン【蓼科博士の研究所】は他にも何ヵ所かあって、どこも似たような感じらしい。他と区別する場合、ここは“関西蓼科研究所“とか呼ばれることが多いかな。


「バカと天才は紙一重を地で行くやからでしょう」


 どうもやらかして自分の拠点をダンジョン化させてしまいがちなヤツらしいけど、一方で明らかにオーバーテクノロジーなものを生産できる人物でもある。


 冒険者はそういうオーバーテクノロジーな産物を目当てに蓼科博士のダンジョンに潜る。


 有名なのは”臓器製造機“か。

 モンスターの素材と本人の遺伝子情報(血液とか)をぶち込むと拒絶反応の出ない臓器を作ることができる。ボスからのレアドロップだけど入手できれば超高額で売れた。


 あ、ここは攻略不能ダンジョンじゃない。もう攻略されてる。

 ボスは機械のアームを取り付けたバカでかい戦車みたいなやつだ。ベルトコンベアをキャタピラ代わりにして移動する。


 ボスなので見た目に比例しない高い火力と高い防御力があるのはもちろんなんだけど、一番の脅威は実は”排気ガス”というボスらしい。室内だっていうのにガンガンに黒煙を吐いていて、無対策&時間をかけると有毒ガスの餌食になるというイヤらしさだった。


橿原かしはらちゃんここ来たことある?」


「何度か。エネルギー系の銃とかもドロップするんです、ここのエネミー」


「へえー」


 正確には銃というか工業用の大出力レーザー装置が魔改造されてほぼ銃みたいになってるものらしい。あとは武器化した工具とかもドロップするとか。


「じゃあ弾薬の補充……じゃなくてエネルギー系ならバッテリーか」


「それを補充したいというのもありますけど、前から気になっていたところがあって―― があるんです。ダンジョン内に」


 建物に入ってエレベーターに向かう。

 入ったところは普通の商業施設だ。女性向けの服屋さんとかが入っている。橿原ちゃんとかは用があるだろう。お客さんもたくさんいた。


 昔はダンジョンができたら地価が下がったりしたらしいんだけど、今は逆だ。冒険者が集まってくるので店ができて人が住んでまた店ができて……と賑やかになっていく。ダンジョンに入らなければ基本安全だしね。


 このビルのダンジョンのあるフロアも冒険者向けの店が入居してるらしい。オフィスフロアだったらしいけどそんなくくりは吹き飛んでいた。


 エレベーターに乗り込んで上階に向かう。

 橿原ちゃんがボタンを押して8階へ――……あれ? なんで6階してんの? あ、扉いた。


「橿原ちゃんここ6階だよ?」


「そうですね」


 橿原ちゃんについて行く。わー、レストラン街だ。


「橿原ちゃんここイタリアンだね」


「そうですね」


 橿原ちゃんについて行く。イタリアンに入店した。「予約した橿原です」とか言ってる。マメだね。予約してたんだぁ。


「橿原ちゃんここおいしいね」


「そうですね」


 マジで旨い。テキトーに頼んだワインも旨いし。


 いやー、ここに来てよかったね。


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