第40話 最強魔法幼女を攻略せよ【魔法図書館】7



 ブックエンドが何て言ってるのかさっぱり分からない。ここまで来てコレなのかよ。


 と、若干絶望を感じていたそのとき、ブックエンドが「閃いた!」とばかりに手を打った。


『;’$**&(>』


 やっぱり聞き取れない言葉をブックエンドが発する。すると彼女のローブの中から光り輝く何かが飛び出してきた。


 小さな光で2個あるそれは、よく見ると青白い金属でできた指輪だった。それぞれがオレと橿原ちゃんの前に浮かんでいる。


「受け取れ……ってことですよね」


「だろうねぇ」


 ブックエンドを見る。こくこくと頷いていた。なので指輪の下にそっと手を差し込むと、指輪はポトリと手のひらに落ちた。



[ アイテム”魔法学徒の指輪”を獲得しました ※到達者の確定報酬です]



 入手扱いになった。

 この状態なら指輪の機能がある程度分かるようになる。



 ”魔法学徒の指輪”

 魔法学徒が身につける指輪。魔法図書館内の書物に記載されているあらゆる文字を読めるようにする他、図書館内で学ぶ全ての者たちに議論の術を与える。

 ダンタリオンがこの指輪を作った時、高位の魔法使いたちは『こんなものに頼っては永遠に学徒のままだ』と批判した。しかしダンタリオンは言い放った。『魔法の学びに終わりなどない。ゆえに我々は永遠に学徒なのだ』と。

 かくて魔法は栄華を極めた。




「つまり……翻訳指輪って感じか」


「……え? 婚約指輪ですか?」


「違うよ??? でも良かった。これでブックエンドと会話できるようになりそうだ」


 指輪をはめてブックエンドに向き直る。にこにこと微笑んでいた。



『どうだい? ボクの言葉が分かるかい?』



 口の形と言葉が合っていないけど些末な問題だ。映画の吹替みたいなものだ。ブックエンドが何と言っているのかハッキリ分かった。


「ああ、よく分かるよ。便利な指輪だ」


『そうだろうそうだろう! この図書館じゃそれが無いと始まらないのさ。何せ世界中どころか、別の世界の本だってここには流れ付いてしまうからね!』


 まさかのボクっこだった。そして饒舌じょうぜつだ。まぁあんなにルンルンで歌ってたような子だからおかしくないか。


「オレは冒険者の樟葉くずはだ。こっちはパーティメンバーの橿原かしはらちゃん。キミは?」


『好きに呼んでくれて構わないよ。名前らしい名前は無いからね。ボクは閉架本棚を管理するために作られたダンタリアン様の魔法にすぎないんだ』


「オレたちは君のことをブックエンドと呼んでいる。それでも良いかな?」


『問題ないさ! それでキミたちがそうなのかい? キミカゲカナタが言ってたボクらを手伝ってくれる人って。

 そうならそうと言ってくれれば良いのに。何度か勝手に閉架本棚の区画に入ろうとしてたよね? ダメだよ? でもキミたち強いね。×し切れなかったから追い出すことしかできなかったよ』


「……手伝い? そういう話になってるの?」


『ああそうだとも! 図書館の仕事を手伝ってもらう代わりに、キミたちに蔵書の閲覧を許可するっていう約束なのさ。ああ。手伝いというのは本棚の整理のことだね』


 それは分量にもよるな……と思ったらその後ブックエンドが説明した分量はまあ常識的な範囲内だった。少なくはないけど。


「閉架エリアも見せてもらえないかなぁ」


『……キミたち閉架本棚が目当てなのかい? うーん……』


 ブックエンドは腕を組む。


『クズハ、キミくらいの使い手なら大丈夫そうだね。けどカシハラチャンでは許可できない。

 閉架本棚の魔法は難解だ。使い手に高い能力を要求するし、たとえ高い能力があったとしても扱いが難しいんだ。カシハラチャンの場合は能力が足りていないよ。読んでも意味がないし、理解できないし、何らかの害を受ける可能性もある』


 おそらくは秘術のステータスのことだ。橿原ちゃんは秘術に経験値を振っていない。科学型のビルドだし。


『かといってクズハにもいまは見せられない。最上階にいるダンタリオン様か、一番下にいる”知られなき物語の編纂者”に認められること。そのくらいじゃないとあの閉架本棚にはらせないよ』


 ようは1度はどっちかのボスを倒してから来いってことか。じゃあ今のオレたちは閉架エリアは見られないな。ボス倒してないし。


 しかし閲覧条件は分かった。依頼は達成だ。


「オレたちの他にも手伝いに来ても大丈夫かな?」


『大歓迎さ! この図書館は魔法を学びたい全ての者に開かれているからね! 指輪もたくさんあるから安心してほしい。ああ、でも本を大切にしない人はダメだよ。あとは勝手に持ち出したりしたら魔法で本に変えちゃうからね』


 しれっと恐ろしいことをおっしゃる。たぶん本気だし。


『そうだ! ここに初めて来てくれたキミたちにはこれをあげよう。代わりといってはなんだけど、ボクらを手伝って魔法を学べば良いことあるよってみんなに教えてあげてね』


 目の前にウインドウが現れた。強制入手だ。

 これは逆に頼みをもう断れないってことだ。有無を言わさずってやつだね。



[ アイテム”ブックエンドのブックエンド”を獲得しました ※初到達者の限定報酬です]


[ スキル”書籍防護(防水)”を獲得しました ※初到達者の確定報酬です ]


[ スキル”書籍防護(防湿)”を獲得しました ※初到達者の確定報酬です]




「「……」」


 うん……後ろの2つは何となく分かる。本を読んでてコーヒーこぼしても大丈夫になるスキルと、風呂の中でも本を読めるようになるスキルだ、たぶん。


 でも最初のは何なんだ。ろくでもない予感しかしないけど一応確認してみる。



 ”ブックエンドのブックエンド”

 魔法図書館・閉架本棚の番人たる”ブックエンド”のミニチュアに、本の転倒を防止するブックエンドの機能を持たせたブロンズの置物。”ブックエンド”が巨大な本に寄りかかって本を読んでいる。

 君影きみかげ彼方かなたから”ブックエンド”へのお近づきの印であり、非常に精巧に作られている。特別な力はない。

 ―― ”見事なんだけど、キミ、自分の銅像とかもらって嬉しいのかい?”。




「……」


 いらないものを押し付けてきやがった……? いやそんなバカな……。


『喜んでくれると嬉しいな!』


「あ、ああ……」


『それじゃあ2人とも、早速手伝いしていくかい?』


「……いや、今日のところはもうやめとこうかな。ここまで歩いてきて疲れてて……」


 嘘じゃないよ。嘘じゃない。最後のでガツンと疲れが出たけど。


『あー、そうだろうね。ここは確かに入口から遠いから。じゃあせっかくだから入口まで送っていくね。良いかな?』


 お願いすることにした。最初の戦闘の時に1階に送還された本棚エレベータだ。


『またねー!』


 ブックエンドが手を振っていた。満面の笑みだった。







 数週間後の話をしよう。


 オレたちが魔法図書館の規則を見出したことで、魔法図書館の利用者は2パターン分かれた。


 1つは今までどおりメインエントランスから入場してエネミーを倒していって攻略するパターン。

 もう1つは従業員用出入口から入場して、ブックエンドから指輪をもらって図書館を手伝い蔵書へアクセスするパターンだ。


 どちらの利用方法でも魔法―― 秘術系のスキルを獲得することが可能だった。


 後者の場合は蔵書を読み解くことでスキルを入手することができる。だから初心者だったり戦闘は苦手だけどどうしても欲しい秘術スキルがある、という冒険者に需要がある方法だった。


 あと、後者の場合は今まで未知だったスキルを見出せることもあった。だから秘術系スキル研究者みたいな人たちが図書館に入り浸るようになったりもしている。実に魔法図書館っぽいね。


 閉架エリアも探索できるようになった。閉架エリアの本を読み解くことで、場合によってはかなり有用なスキルを獲得できるらしい。秘術系ビルドの高ランク冒険者にとって、いま最もアツいのは魔法図書館となった。この活況はしばらく続くことになるだろうね。


『♪~ ♪』


 ブックエンドもゴキゲンだ。ゆらゆらしてて癒し系だし、外見も可愛らしいし、すっかり魔法図書館のマスコットみたいになっちゃったよ。



「いやぁ、ありがとうございました”黎明記れいめいき機械きかい”のお二方ふたかた!」


「「……」」


 クエストさんだ。例によって組合で列が溶けるのを待ってたら寄って来た。大量の紙束を持っている。


 ……まさかそれ、オレたちに頼もうとしてる案件じゃないよね?


「それで実はまたお願いしたいことが……」


「よし、帰ろう橿原ちゃん」


「はい」


「ああっ、待って! 話だけでも!」


「えー?」


「今回の報酬はなんと! 美味しい料理と美味しい地酒を取りそろえた――」


「話を聞こう」


「樟葉さんちょっと」


「高級旅館のペアチケットが!」


「話を聞きましょう」


 やっぱりそれなりの理由があるんだなぁ、クエストさんがクエストさんをしているのは。


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