第41話 カウンターの内側からね


 私が声をかけると冒険者の人たちは「あっ……」みたいな顔をするわ。それか心情を表に出すまいと作る無表情ね。


 まぁ気持ちはわかる。だって私が振る依頼って、いわゆるオイシくなかったり面倒だったりする依頼だもの。けどしょうがないじゃない! そういう業務が担当なんだから!


 はぁ、異動願いだそうかな……。


 っと、いけない。現実逃避している場合じゃなかった。


 私は冒険者組合でなかなか受注されなかったり緊急性があったりする依頼の調整と振り分けをしているわ。


 業務のウエイトは交渉事がかなりの割合を占めているわね。冒険者になんとか依頼を受けてもらったりとか、あるいは依頼主に報酬のアップを要請したりとか。


 冒険者の人たちにはクエストさんとか呼ばれているわ。

 ゲームのキャラっぽくてあんまり好きじゃないわね正直。けど分かりやすくはあると思う。私が担当になる前からこの業務してる人はクエストさんだったし。


 この業務は大変だ。どう大変なのかを語ろうとすると何回もの昼と夜と大量のお酒が必要になるので語らないけど。面白くないし。でもまあヒトコトで言うと間に挟まれるツラさよね。


 そんな私が最近重宝しているのが新設パーティの“黎明記れいめいき機械きかい”。樟葉くずはくんと橿原かしはらさんの2人組パーティね。


 互いにソロで活動してる時から有名だし実績のあった2人だ。レベルも平均を大きく超えて高レベルだし、それがパーティを組んだので組合でも冒険者の間でも話題になったわね。


 私としては「待ってました!」のひとことに尽きた。


 もともと樟葉くんは重宝していた。酔っぱらいだけど高レベルだし、酔っぱらいだけど話ができるし、あと酔っぱらいだけどアルコール系の報酬があれば割と依頼を受けてくれるし。あ、最後は酔っぱらいだからか。


 でも他に重要なことがある。


 彼はとにかく生きて戻った。


 それはもうゾンビとか言われるほどに。しかしそれの何と心強いことか。

 もちろん依頼を達成できないこともある。けれど情報を持ち帰ってくれるだけでも十分だ。


 彼は生存性能に重きを置いた冒険者だ。梅田ダンジョンの大深部からソロで戻って来た時の名残ね。詳細は分からないけど、常設パッシブ型のバリアや回復、状態異常解除系のスキルを積んでいるらしい。


 さらに言うなら、ステータスをバランス型寄りにすることで様々なタイプのスキルを使えるようにしていて、いわゆる”詰み”の状況に陥ることを回避しているようだった……普通はパーティ単位で考えることなんだけど。


 特化型のような高火力が出ないことは悩みどころらしい。


 生存性能—— 継戦能力を活かしてエネミーの体力を削っていくような戦いができるらしいけど、戦闘時間が短いに越したことはない。戦っている時間が長ければ長いほど、ミスや不慮の事故に遭う可能性は上がっていくんだから。


 そこで橿原さんの出番だった。


 ”アサルト女子大生”の異名を取る、同世代では特にずば抜けて高い戦闘力を持つ冒険者だ。

 まだ20歳にもなっていないのにレベルは1000を超え、数多の火器兵器を自在かつ苛烈に使いこなした。強力な兵器系ドロップも数多く保有していて積極的に運用する。


 もっとも、全ては樟葉くんとかいう酔っぱらいのためなんだけど。


 ただでさえ恐ろしいくらい苛烈な戦い方をするのに、あの酔っぱらいの隣に立ちたいがための行為だと考えると余計に恐ろしかった。まぁ、樟葉くんの火力が若干乏しいと見抜いたからこそああいう風になったのかも。他の男には見向きもしないし。


 話が反れた。

 重要なのは樟葉くんがパーティを組んだことだ。これで樟葉くんの安全マージンがさらに増えた。いくら樟葉くんでも1人じゃどうにもならないことがあるんだし。


 火力が出せて戦闘時間が短くなる。事故に遭いにくくなる。

 ひとりだからこそ撤退の判断が自在だったということもあったと思う、これまでは。パーティを組むとそのあたりで意見が分かれて判断を誤ることがあり得るけど、橿原さんなら基本的に……基本的に、おおむね、大抵の場合、ダンジョンに関することについては樟葉くんの判断に追従するのでその点も安心だ。


 これでもっといろいろな依頼を頼むことができる。黎明記機械に頼んでおけば悪い結果にはならない。


 最上位層よりフットワークが軽いし、中堅層より遥かに安定感がある。かゆいところに手が届いた。


 ”魔法図書館”では早速期待きたい通り成果を上げてくれた。理不尽魔法砲台のブックエンドを相手にしてほぼ無傷だったっぽいし。


 となればあとは、2人が乗ってきそうな報酬をどれだけ用意できるかだ。そこは依頼主に要請、つまり私の交渉力次第となる。ショボイ報酬で冒険者に危険な場所へ行ってと頼むよりよほどやる気になれる仕事だ。



「母は言いました。『いないなら 作ってしまえ 理想の相手』と」


「橿原ちゃんがご両親のどちらに似たのかはよく分かった」


「親の顔が見たい、ですか? なるほど」


「言ってないよ?」


「仕方がありませんね。良いですよ、両親から樟葉さんに会わせろと言われているので」


「なんで??」


「父に会ったら『私の手取りは億単位です』と言えば黙るでしょう」


「戦闘力かな?」


「あ、ヒゲは剃ってください。それだけは擁護できません」


「会うの前提で話すのやめてもらっても……?」


 ちょうど黎明記機械が通りかかる。

 相変わらずマイペースにイチャイチャしてるわね。これで彼氏彼女じゃないっていうんだから意味が分からないわ。


 樟葉くんもさっさと手ぇ出しちゃえばいいのに。橿原さんもあんなに好き好きオーラ出してるんだから。橿原さんが若いからってビビり過ぎなのよ樟葉くん。いやまあ当人たちはあれが楽しいのかもしれない。



「せんぱーい、お疲れ様ですー」


 とか考えてたら後輩がやってきた。冒険者の人たちからは鑑定ちゃんとか呼ばれている子だ。高ランクの鑑定系のスキル持ちらしくみんなに重宝されてる。正直うらやましい。


「黎明記機械さんたちのこと見てました? 仲良いですよねー」


「ほんと。早くくっつかないかしら」


「パーティ組んだのでもう時間の問題じゃないですか? 橿原さんの相談に何度も乗って大変でしたよ」


 この子は橿原さんの相談を何度も受けている。年齢が近いからかしら。そのせいか樟葉くんたちがパーティを組んで喜んでいる人間の1人だった。


「私、がんばりました! さっきも橿原さんにパーティハウスでも買ったらどうですかって勧めておきましたよ。どうです? 先輩の仕事も捗るんじゃないですか? 褒めてくれても良いんですよ?」


「あんた鬼ね」


「えー? またまたそんなぁー? うふふふ」


「やっぱり面白がってるじゃないの」


 また樟葉くんが振り回されるわねコレは。


 うん、応援してるわ樟葉くん。カウンターの内側からね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る