第5話 橿原(かしはら)ちゃん2


「あっ、お疲れ様です、樟葉くずはさん!」


「おつかれー、買取いい?」


 買取窓口に行くと馴染みの係員の人がいた。鑑定スキルが使えるお姉さんだ。お姉さんといいつつ俺よりは年下だと思うけど。名前が分からないので心の中で”鑑定ちゃん”と呼んでいる。


「大丈夫ですよー。……あれ? 橿原かしはらさんもご一緒ですか?」


「こんにちは」


「もしかして……パーティー組んだんですか、ついに!」


「あはは、ないない。橿原ちゃんもこんなアル中のおっさんとはパーティー組みたくないでしょ」


「「……」」


「え、何その反応……え? え?」


 鑑定ちゃんと橿原ちゃんの顔を交互に見てみるけど、2人は何も言わなかった。何なんだ。


「ええと……きゅ、【九尾】のダンジョン攻略できたから、そのボスドロップ品を買取してもらいたいんだけどいいかなぁ? あ、性能によっては売らないかもだけど」


「……うぇ!? 九尾!? 九尾って言いました!? 攻略不能ダンジョンですよそこ!」


「偶然攻略できちゃったんだよー」


「ま……マジですか? ほんとに?」


「ほんとほんと。これ、ボスドロね」


 ストレージから報酬アイテムを取り出す。抱き枕とカチューシャがカウンターの上に現れた。


「……っ! 支店長ー! 支店長来てくださいー! え!? いないの!? あのジジイ肝心な時にぃ!」


 鑑定ちゃん、キャラが崩壊してしまっていた。


「はぁはぁ、っ、すみません、ちょっと興奮してしまって。それでは鑑定しますね。買取に出さない場合は手数料いただきますのでご承知おきください」


 鑑定ちゃんの瞳に光が走る。鑑定スキルが使用されたようだ。

 アイテムの名称とか効果とかは鑑定が無くてもある程度分かる。でも鑑定スキルだともっと細かく分かる。

 例えば鑑定スキルがない人でも「炎ダメージを軽減する」とまでは分かる。一方で鑑定スキルだと「炎ダメージを10%軽減する」とハッキリわかるようになる感じだ。便利。


「な、なんだかすごい効能ですよこのアイテム」


 そう呟きながら鑑定ちゃんは鑑定結果をパソコンに打ち込んでいく。そしてプリントアウトしてこちらに渡してきた。



”きつねのしっぽのもふもふ抱き枕”

【九尾】のダンジョンのボス・九尾のしっぽを再現した抱き枕。抱き締めて眠ると必要な睡眠時間を半減させる。また体調を整え、ベッドの中を快適な温度湿度に保ってくれる。



”きつねのとんがりみみカチューシャ”

【九尾】のダンジョンのボス・九尾の耳を再現したカチューシャ。レーダーであり、半径120メートルの地形などを把握することができる。”秘術”のステータスを10%高める。



「おー、有用」


「買取の場合、少しお時間いただけますか? よく考えたら初出のアイテムなので買取価格が決まっていません。類似の効能のアイテムを確認して価格を算出します。ああ、オークションでもいいですよ」


「んんー……橿原ちゃん、これ使う?」


「え」


「ほら、水くれたし。代金代わりに」


「全然価値が違うと思いますが……でもプレゼントということならいただきます」


「なんでもいいよー。いつも心配してくれてるみたいだし」


「では遠慮なく……ありがとうございます」


 カチューシャを手に取り、抱き枕を抱える橿原ちゃん。


「もう私のですから」


「ぜんぜんいいよー」


 抱き枕が巨大過ぎてほっぺがむにってなっていた。かわいい。しかしストレージに収納されたのかすぐに消えた。


「良かったですね、橿原さん」


 鑑定ちゃんがニコニコだ。なんでキミがそんなに嬉しそうなの?


「カチューシャは装備しても?」


「使えそう?」


「今の装備には干渉しません。あと″秘術″のステータスが伸びるなら隠密系のスキルが使えるようになるかもしれません」


「あー隠密。たしかに橿原ちゃん科学かがく系ビルドだから使えるとかゆい所に手が届くかもね」


 科学系ビルド。

 ″科学″のステータスを中心に経験値を振ったビルドだ。アサルトライフルやドローンといった現代兵器型の武装やスキルを使用できるようになる。

 当然、橿原ちゃんの防具はそれに合わせたもので、プロテクター入りベストとかマガジンホルダー付きベルトとかが採用されている。


 銃とか使うとどうしても音が出るから、音が消せたり軽減できる隠密スキルはあると便利なんだよね。そのためだけに秘術ステータスに経験値を振る人もいる。


 橿原ちゃんがカチューシャを装備した。カチューシャの色は九尾と同じ白銀だったんだけど黒に変わった。装備者である橿原ちゃんの髪の色に準拠したようだ。


「どう? 地形分かる?」


「……凄まじいですね、これ。人とか物の動きも分かります。でも情報量が多過ぎて酔いそうです」


「そっかあ」


「でも、もう私のですので。返しませんので。必ず使いこなしてみせますので」


「がんばってねぇ」


 なんかすごい気合い入ってるけど、やる気があるのは良いことだね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る