第6話 橿原(かしはら)ちゃん3
「でも、攻略不能といわれていた割にはその……報酬が、アレですね」
鑑定ちゃんが控えめに言った。まあしょぼいと感じるのも仕方がない。
確かに有用だけど唯一の性能ではない。類似のものはアイテムでもスキルでも存在するし。
「ああ、スキルも手に入ったよ」
「それを早く言ってくださいよ。どんなスキルですか」
「”狐火”ってスキルだね」
「鑑定しても?」
「おっけーおっけー」
スキル”狐火”を使用する。白い炎がオレの周りの空中で静止していた。
「ああ、浮遊タイプですか」
「モンスターを引き付ける効果があるっぽいよ」
「そうなのですか。では失礼しますね」
鑑定ちゃんの瞳に光が走る。
「なるほど……ローコストなスキルですね。使用時に消費する気力と、使用に要求される秘術値が、類似のスキルの”鬼火”と比べると5分の1くらいです。まあ威力も5分の1ですが」
「駆け出し冒険者向け……なのかな?」
これでモンスターを釣って安全に攻撃するみたいな? あとは照明の代わりにはなるかも。
そんなことを考えつつ狐火をキャンセルした。
「それで、どうやってダンジョンを攻略したんですか? 情報提供していただけるなら組合から報酬出しますよ」
ずっと訊きたそうにしていた疑問を鑑定ちゃんがついにぶつけてきた。まあ気になるよね。
「ああ、それは――」
カクカクシカジカ。
「あの……からかってませんよね? 門前町もダンジョンだったなんて信じられないんですが……行ったことありますけど普通の街でしたよ?」
「だよねぇ」
「でもマジ……なんですよね?」
「まじまじ。まあ色んな人に試してみてもらってよ。あ、報酬だけど年末に組合職員だけに配られる地元の酒蔵のお酒があるらしいじゃん? あれって手に入らないかなぁ?」
「支店長の分を回しておきましょう」
「助かるぅ。じゃあ、またね~♪」
こちらが手を振ると鑑定ちゃんも手を振り返してくれた。鑑定ちゃんは
「なぜ教えてしまったのですか」
何でか知らないけど橿原ちゃんが不機嫌そうだ。声のトーンがいつもより低い。
「しかもあんな報酬で。買い叩かれています」
「まぁまぁ、オレたちだって先輩方が情報を持ち帰って提供してくれたからここまでやってこれたんだし、オレの番になったってことだよ。
あと別に金に困ってるわけじゃないんだよねぇ。いや、酒代に消えるから常に金は無いんだけど、ダンジョン潜ればすぐ稼げるし。だから金じゃ手に入らない酒の方がいい」
「でも、それじゃあ……」
「あ!」
「……?」
「初回限定報酬と他の攻略不能ダンジョンのこと報告するの忘れてた! ちょっともう1回行ってくる!」
「いい加減にしてください」(パンッ!)
「ナチュラルに発砲すなー!?」
橿原ちゃんの隣を通り過ぎる拍子に撃たれた。ハンドガンで。廊下の壁には弾丸が衝突した跡があった。
ギリギリで避けたから無事だけど尻もちついてた。お尻が痛いなぁなんて思っていると自分の体に影が落ちる。顔を上げると、コワーイ顔をした橿原ちゃんがハンドガンの銃口をこちらに向けていた。
「その情報、私に売ってください。だから誰にも言わないように」
「え……初回限定報酬の話とか訊いても参考には――」
タァンッ! ――
「撃ちますよ」
「撃ってるよね!?」
小さな何かが顔のすぐ横を通り抜けて焦げた臭いがした。髪の毛とかをかすったのかもしれない。ていうか首をかしげないとホントに当たる弾道だったんだけど?
「報酬は何が良いですか。あ、お酒以外で。私、まだ買えないので用意できません」
「えー……? 別に
「私に無料で話すってことは他の人にも無料で話すってことですよね? それでは意味がないので」
「わかった、わかったよ。車の免許持ってる? 今度行こうと思ってるダンジョン、車じゃないとアクセス悪いんだよ」
「……!」
「あれ、免許無かった? だったら――」
「では、それで」
「え」
ハンドガンをしまって、橿原ちゃんはすぐに身をひるがえして去っていった。歩みはやけに軽やかだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます