第43話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】2
「
「へ……?」
キキィィィーーーーッ、ギュゴオゴゴ、ヴヴゥゥウン!!!
「うおおおおぁ!??!?」
高速を走らせていた橿原ちゃんの車が大暴れした。
ガードレールにぶつかりそうになってそれを回避するためにハンドルを切り、勢いあまって隣の車線に行って今度は反対側の壁に衝突しかけた。
けどなんとか持ち直した。周りに車がいなくて良かった。ほんと良かった……!
「ッッッ……!! すすすすみませんっ! 動揺してしまって……!」
「オレそんなに変なこと言った……?」
「い、いえそんなことは。実は私もちょうど考えていたので、同じこと言われて勝手にびっくりしただけです」
「それなら良かった……のかな? それでパーティハウスとかどう思う?」
「悩ましいですね。いろいろクリアしたい条件が多くて。ダンジョンへのアクセスの良さとか、あとは車を駐車できるようにするかどうかとか。予算はそこまで気にしていませんが」
「なるほどねぇ」
「あと樟葉さんの意見も聞きながら色々決めたいのですが、そういうイベントは後に取っておきたいという気持ちもあって……」
「……」
「私としては”樟葉さんの部屋を暫定パーティハウスにする”に考えが傾いています、だいぶ」
「はーん。まあそれはそれでオレは楽でいいけど」
「はい。私としてもそうすれば合法的に樟葉さんの部屋に入り浸れるので」
「橿原ちゃんって欲望を隠そうっていう意識無いよね」
「ボタン押したら壁にかけた絵画がひっくり返って武器ケースが出て来る機能ありますか?」
「当然ありますよね? みたいなノリで訊いてくるのおかしくない? むしろ橿原ちゃんちにはあるの……?」
「……」
「あるの!?」
それはそれで見たい。とても見たい。
「ところでどこに向かえばいいですか。ダンジョンですか、組合ですか、酒蔵ですか」
「もうダンジョン行っちゃおうか。組合は後からでもいいでしょ」
「酒蔵は行かなくていいんですか」
「お酒ってデリケートだからねぇ。例えば酒蔵見学に行く前って納豆食べないでってよくいわれるんだよね。麹菌が納豆菌に負けちゃってうまく醸造できなくなる場合があるらしい。だから用もないのに行くべきじゃないよ」
「お酒のことになると真面目ですよね、
「そりゃあ生きがいだからね。……あー、待って橿原ちゃん。水を持って帰るためのポリタンク的なもの欲しいからホームセンター寄ってくれない?」
「未使用の
「まじ? 使って良いの? ありがとう助かるよ。橿原ちゃんほんと何でも持ってるねぇ」
「何でもは持っていません。持っているものだけです。あと水タンク車も持ってますけど使えませんか。5000リットル入ります」
「……もう橿原ちゃんなしでは生きていけないかもしれない」
「もっと依存しても良いんですよ。……あ、お酒に依存するのはやめてください」
「手厳しいなぁ……」
スポーツカーは道を行く。ロードノイズは結構あるはずだけど、途切れない会話のおかげでそれほど気にはならなかった。
「ここが【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】ですか」
件のダンジョンは山の上にあった。今はまだ昼間だけど、夜になったら綺麗に星が見えそうだ。街の明かりも遠い。順当だね。宇宙観測所と名が付いている以上、星が綺麗に見えそうな場所にあるべきだろう。
まずはゲートがある。そのすぐそばに看板があって、そこに【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】と書かれている。ゲートの向こうには芝生やロータリーやらの
メインの建物は大きい。ショッピングモールほど大きくはないけど大型スーパーくらいの規模はありそうだ。
実際に山の上にこれだけの建物を建てようと思うと大変だろうなぁ。まあダンジョン的な作用で施設もここまでの道も一夜で出現したっぽいけど。ああ、例によって内部は外観以上に拡張してるよ。
屋上にあるドーム状の建屋が印象的だ。天文台とかでよく見る造りだね。1個で充分そうだけど2個もある。
あとは電波式の望遠鏡が近くに建ち並んでる。こっちは6基もあった。
「少し調べました。例の水以外では
特にスーツは宇宙空間でも使用できるので航空宇宙関連の会社とかが良いお値段で買い取ってくれるとか。
それから搭乗式アームズ—— スチームパンク系や重機系のものですね――に適合する大型兵器類も手に入るらしいです。明らかに人間が使うサイズではない銃とかシールドとかです。大型の戦闘メカのエネミーがドロップするとか」
「そういえばバカでかい拳銃みたいなのドロップしたことあるかも。ステータスの都合で使えないから売っちゃったけど」
というわけでダンジョンに踏み入れる。
心情的には建物の中に入ってからエネミーが出てきてほしいけど、ここはゲートを通った時点で出現するようになる。物陰からドローンが出てきて攻撃してくるんだよね。地面を走り回るタイプも飛ぶタイプもいる。
ちなみにドローンに付いてるスピーカーが。
『コレハ訓練デス。コレハ訓練デス』
ってずーっと言ってる。
まぁ攻撃は全く訓練レベルじゃないけど。完全に×しに来てる。
建物の中でも同じだ。入口から離れるので当然エネミーは強化されるんだけど、今度は館内放送が、
『コレハ訓練デス。コレハ訓練デス』
って連呼してた。
やっぱり攻撃は×しに来てるけど。
内部ではエネミーの種類も増える。ドローンに加えて多脚タイプだったりキャタピラタイプだったりする、アームがあって武器を持ったエネミーとかが出て来る。最初は人間サイズなんだけど、徐々にデカくなっていって最終的には見上げるようなサイズになった。
ああ、建物内部は”近未来”って感じの内装だね。金属っぽい壁と床、等間隔に並んだ間接照明。カラーリングは白と黒とグレーくらいしか採用されていない。例外は非常口の案内看板のグリーンと消火栓の赤いランプくらいか。とても無機質な印象を受ける。
「どうしましょう。良さげなドロップがたくさんでストレージがいっぱいになってしまいます……」
橿原ちゃんが両手で……いや両腕でドロップを抱えていた。銃火器ばっかりだ。ご満悦な様子でなによりだよ。
「この扉の向こうにボスがいる。奥に引っ込んじゃうボスね。で、こっちの通路の先に例の水が入った水槽がある」
「先に水の方を済ませましょう」
ということで水槽の方へやってきた。
「これは……大きい水槽ですね」
「でしょ」
円柱状のガラスの水槽だ。直径は6メートルくらい。高さは10メートル以上あるだろうね。それが8つほど並んでいた。内部に湛えられる水は澄み切っていて、どこからか照らされるライトで青く輝いて見えた。
「どうやって取水するんですか、これ」
「上にマンホールがあるからポリタンクだったらよじ登って水に
「そこに取水口? と耐圧ホースがありますね。そこの床に排水口があるので本来は水抜き用でしょうか。
ですがちょうど良いです。取水口の位置が低いですが、これだけ背丈のある水槽だと圧力がかかるでしょうから問題なくタンク車に給水できると思います」
橿原ちゃんの指示で取水口に太いホースをつなげる。そしてホースの端をタンク車の中に入れた。バルブを開いたら勢いよく水が流れ出し始める。タンクの中には順調に水が溜まっていった。
「では、水が溜まるのを待つ間にボスのところに行きましょう」
「あー、水の状態ですでに旨そう」
「そう思うなら水の状態で飲んだ方が良いですよ樟葉さんは」
「オレは美味しくなるまで待てる男なのだ」
「なるほど。でも待ちきれない人間もいるということも知っておくべきですね」
「え、何の話?」
「こちらの話です。それではボス部屋に行きましょうか」
よく分からなかったけど、早くボス部屋に行きたかったのかな? 根っからの冒険者だなぁ、橿原ちゃんは。
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