第44話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】3



 ボス部屋は広大な空間だった。

 サッカースタジアムが2つくらいは入りそうだ。天井も相応に高い。


 ボス部屋に入って扉が閉まる。すぐにビーッ、ビーッ、とアラームが鳴った。

 そして部屋の奥の壁……のような巨大な扉が開いて、奥に伸びるレールがあらわになる。レールはまばらな照明で照らされていた。



 ガァァァァァァァ――。



 そんな音が響く。レールに載って何かが迫ってくる音だ。


「!」


 橿原ちゃんが目を見開く。オレは知ってるけど、初めてだったら驚くかもね。


「なるほど、人型ですか」


 姿を現したのは人型ロボットだった。台座に載って運ばれてきた。


 身長は10メートルくらいか。両腕両肩に武器を装備している。たしか腕の方はライフルとマシンガン、肩の方はミサイルとレーザーキャノンだったはずだ。


「他のエネミーはコレを作りたいがための副産物、いえ実験品に過ぎなかったということですね。いやはやしかし、なかなかにそそられるデザインをしています」


 いやほんと、カッコいいロボットだ。

 面と直線が際立つデザインをしている。全体としてのカラーリングはやや青みがかったグレーといった感じ。橿原ちゃんの言っていた、スチームパンク系とか重機系とかの戦闘兵器とは技術レベルがまるで違うことがひと目で分かる。頭部の複眼が印象的だ。



 その複眼に光が宿る。



 グリーンの光だ。同時に中空にメッセージが表示された。ボス部屋の中央にでかでかと浮いている。ちょうど人型ロボットとオレたちの中間の位置だ。



『テスト開始まであと5』


『4』



「来るよ橿原かしはらちゃん。めちゃくちゃ速いから気をつけて。あとコイツ飛行するよ」


「了解です」



『——0』


 甲高いジェットの音を纏いながら、人型ロボが飛び出した。









『重度の損傷を確認。修正が必要です。テストを終了します』


 そのアナウンスと共にロボットは活動を停止した。煙と火花を上げながら地面に着地したと思ったら、天井からアームが伸びてきて機体を回収。出てきた時の台座に戻されるとそのままレールに乗っていってしまった。


 あの人型ロボット、その辺の冒険者なら相当な難敵になると思う。異次元のスピード、立体的な機動、それから多様で高火力な武器も相まって戦闘の次元が違った。


 オレたちがコイツに勝てたのは、オレたちはオレたちで異次元のパフォーマンスを持つ高レベル冒険者だからというだけに過ぎない。


「確かに引っ込んでしまいますね。ちなみに時間をかけすぎるとどうなるのですか」


「『予定時間を超過。テストを終了します』……だったかな? いずれにせよ完全に破壊することはできない。アームで回収されちゃうよ」


「強制終了というわけですか。損傷を与えた場合はともかく時間切れの概念があるとは……ああ、でも報酬はもらえるんでしたね」


 目の前にウインドウが表示された。報酬の記載がある。

 それと同時に音声アナウンスも流れた。



『有意な戦闘データの取得を確認。テスター、ご協力に感謝します』



「時間切れの場合でも報酬はもらえるのですか?」


「何かしらもらった気がする。印象に残ってないけど」


「今回の報酬は……”高精度スパナセット”×2、”星空のある風景100選(ムラサキ・テクニカ広報部編)”、それと“ゼログラビティ合金ごうきん試作97号“ですか。


 個人的にはスパナセットが2個なのが好感こうかん持てますね。機械の整備とかしてるとボルトが共回りして同じサイズのスパナが2個ほしくなったりしますので」


「ふーん」


 ホームセンターで買った激安ドライバーセットしか家にないヤツには分からん話だ。


「話は戻りますが、与えた損傷に応じて報酬のランクが上がるのかもしれません。損傷が大きい=相手の戦闘力が高い=その際の戦闘データは有益と判定されると考えれば理由は立ちます」


「ということは完全破壊すればロボ自体が手に入ったり……?」


「……しかし強制終了されるので完全破壊はできない、と。ですが欲しいことは確かですね人型ロボ。あの機動力は魅力的です」


「おー、ミサイル駆逐艦の次は人型ロボかぁ」


 いや……ほんと何と戦うつもりなんだ。


「あくまで理想はという話です。そして現実はいつも理想の少し手前にありますから」


「橿原ちゃんらしくないね。いつもならもっとこう『私はそのつもりです』とか言いそうなのに」


「ええ。なにせ、一番ほしいものがまだ手に入っていませんので」


「……」


「ですが、はい、そうですね。私はそのつもりですよ。樟葉くずはさん」


 余計なことを言ったぞこれは。つい顔を反らしちゃったけど橿原ちゃんの方から感じる圧がハンパなかった。


 それから数瞬後、橿原ちゃんは切り替えるように言った。


「探索してみましょうか」


 それが良い。最近自分たちがしてきたこと、見てきたことで分かった。オレたちはもっとダンジョンと向き合うべきなんだ。

 ダンジョンにはダンジョンの世界観があって、ルールがあって、歴史がある。例えそれが5分前にできたものであってもだ。それらを尊重することで見えてくるものがある。……まあ全部が全部ってわけじゃないけど。


「それにしてもゼログラビティ合金か。ゼログラビティ酒とか無いかな?」


「……酒で思い出しました」


「?」


「水、あふれてるかもです」


「あ゛」


 水槽からタンク車に水を移してるんだった。


「ダンジョンの水ですから減ってもしばらくしたら元の水量に戻ると思われますが」


「それでも何かもったいない気がするから早く行こう!」


「いつか樟葉さんに『私とお酒どっちが好きですか』って聞いて困らせます」


 今でも充分困るのでホントやめて?


 そうしてオレは水槽の部屋に戻ってバルブを閉めた。高レベル冒険者の高い身体能力を最大限に活かした行動だった。もう少しで溢れるところだったよ。うん、オレの高いレベルはこの時のためにあったんだねぇ。


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