第45話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】4
水タンク車を回収したあとダンジョン内を探索する。
配置されているものはやっぱり宇宙にまつわるものが多い。
地球儀、太陽系儀、天体望遠鏡、星座盤。
意味のわからない計算式が延々と書かれたノート、ロケットのミニチュア、
あとはエネミーの戦闘メカに使われている部品と思しきものも大量に。
『星々の光を希望の光へ。私たちは宇宙の可能性を探し続けます。共に未来を―― 私たちはムラサキ・テクニカです』
食堂っぽいところに来たらクソデカモニターがあった。その画面にはムラサキ・テクニカのものと思われるロゴマークが表示されていて、同時に天井のスピーカーからはそんな音声が繰り返し流れていた。
エネミーがいなくて「コレハ訓練デス」の放送が流れてないと思ったらこれかよ。メシ食う時に延々とこの音声を聞かされてたら頭おかしくなりそうだね。
「お、厨房に宝箱とはなかなか期待できるじゃないか。……って、なんだこれ。ああ、宇宙食か。レトルト食品みたいだな」
「正直あまり期待しない方が良いかと。宇宙ステーションなどは飲酒NGらしいので」
「なるほど、オレは宇宙には行けないみたいだ」
酒が飲めない所になんていられるか。オレは地上で暮らすぞ。
「……それにしてもエネミーといい宇宙食といい、ここは宇宙観測所の
やっぱりそう思うよね。オレも初めて来た時「観測所ってなんだっけ?」って思った記憶あるもん。
「ムラサキ・テクニカ。おそらく宇宙観測所というのはカモフラージュで、その実は兵器開発とかをしていたのではないでしょうか。
現代の軍事技術は航空宇宙分野と切っても切れません。オーバーテクノロジーでもそのあたりは同じでしょう。ああ、いえ、まあそういう設定という話ですが」
「『コレハ訓練デス』って言ってるあたり、実戦があるってことだと思うんだけどどう思う?」
「……なるほど。その状態を引き起こすことでこのダンジョンが完全攻略できるかも、と。ではその方法を探す方針で行きましょう。何かアイデアはありますか」
「ない!」
「ハァ……フレイム・オブ・ライフの時に
ダンジョン内を気が済むまで探索する。
それができるのも高レベル冒険者ゆえだ。レベルの低い冒険者ではそうはいかない。お目当てのものを入手したら速やかにダンジョンから出る。それが冒険者の基本だ。
だからダンジョン内のパソコンを漁っていたり、その隣でボスドロの星空写真集とかを眺めてるのは、見る人が見れば正気を疑うような光景かも。
ダンジョン内にあったパソコンだ。イントラネットにアクセスできていろいろと情報をのぞき見できるらしい。
橿原ちゃんの顔は青白く浮かび上がってる。薄暗い中でモニタを見ているからだ。けどそれでも美人って分かるからスゴイね。
その綺麗な顔がわずかに曇った。
「橿原ちゃん?」
「はい」
「ああいや、なんか顔をしかめた? みたいだったから」
「……そうですか。そのつもりはありませんでしたが。見苦しいところお見せしました」
「見苦しいってことはないけど」
「両親にすら『表情の変化がよく分からない』と言われる私の表情を読み取るとは、さては
「何がなるほどか分からないよ?? それで何か見つかったの?」
「ええ、まあ。でも個人的にはもうお腹いっぱいという感じですが」
「?? というと?」
橿原ちゃんはキーボードをカタカタさせながら言った。
「この観測所……真剣に宇宙人を探していたようです」
「……宇宙人?」
「しかも方向性が……宇宙人がいることはもう確信していて、ゆえに必死になっていた感じがします。もはや焦っているといっても過言ではありません」
橿原ちゃんがモニタを裏返す。作業着を着たおっちゃんが表示されていた。
「
彼の宇宙人への執着は異常と言って良いでしょう。ムラサキ・テクニカを設立したことですら宇宙人を見つけ出すためと言って
デスクから雑誌が取り出された。橿原ちゃんからそれを受け取ってざっと目を通す。本当に実在している雑誌かのようだ。こんなところまで作り込むなんてダンジョンもマメだね。
「彼は高い技術力で様々な製品とサービスを世に送り出しましたが、それで得た収益のほとんどがこの観測所につぎ込まれていたようです」
「その成れの果てがこのダンジョン……という設定と」
「考えられる限り最悪に厄介な組み合わせかもしれません。
宇宙人とダンジョン、どちらも何でもありの代名詞で、それを持ち出せば大抵のことが原因にも解決策にもなりますから。牛がいなくなったら宇宙人の仕業、戻ってきても宇宙人の仕業です。そういう意味でもうお腹いっぱいですね」
牛がいなくなったらダンジョンの仕業、戻ってきてもダンジョンの仕業、か。
「全ての原因で全ての解決策ってお酒もそう言われてるけど、もしかしてオレが酒をやめられないのも宇宙人やダンジョンの仕業……!?」
「それは違うかと。というか樟葉さんの場合そもそもお酒をやめる意思が……はっ!? 私と樟葉さんがいまだに次のステップに進まないも宇宙人やダンジョンの仕業では……!?」
「それは違うと思うよ??」
「ほう。では誰のせいだと樟葉さんは思いますか?」
「や、やっぱりダンジョンのせいでいいです……」
ダンジョン許せねぇなぁ、うん。
「それで樟葉さんはさっきから何を」
「何かヒント無いかなと。ボスドロでもらった星空写真集あったじゃん?」
「あのネタ枠っぽい報酬ですか」
「で、このダンジョンの中にも星空の写真がたくさん貼ってある」
さっきの食堂とか廊下とか、それにまさにこの部屋にも貼ってあった。露骨なくらいだ。九尾の時の商店街みたい。
「これ、どこで撮ったかとか書いてあるんだよね、写真の右下に。だから分かったんだけど、写真集と建物の中のどちらにも採用されてる写真がちらほらある。しかも岡山近辺ばっかり」
「……怪しいですね。樟葉さんと攻略してきたダンジョンのことを思うと」
「でしょ? だからあとでちょっと行ってみない? 何も無くても綺麗な星空は見られると思うんだ」
「つまり私と一緒に星空を眺めたいと。良いでしょう。2人で
「橿原ちゃんって謎のシチュエーションがごりごり出て来るよね」
USBメモリをパソコンから抜き取ると同時に橿原ちゃんは席を立った。それを合図にしてオレたちはダンジョンをあとにする。外には美しい星空が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます