第46話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】5



 車を降りて道を歩く。


 オレたちがやって来たのはダンジョンからほど近いところにあった撮影スポットだ。展望台として整備されているところで駐車場もあったりする。


 だけどやっぱり暗かった。星空をメインにした写真が撮影されるだけのことはある。オレはスマホで、橿原かしはらちゃんはゴツいライトで前を照らしながら進んでいた。


 周りは森というか、とにかく木が茂っている。ほとんど山道だね。レベルの無い人とかは夜にこういうところは絶対に歩いちゃダメだぞ。オレたちは特殊な訓練を受けています。


「おぉ、ここかな?」


「そのようです」


 視野が開けたと思ったら目的地みたいだ。地面が見えなくなったその先に、街の明かりと瀬戸内海、さらにその後ろには星を掲げた夜空が広がっていた。


「……さすがに綺麗ですね」


 橿原ちゃんがゆっくりと視線を持ち上げながら言った。確かに綺麗だ。たくさんの星がまたたいている。

 大阪の街中に住んでいる身としては馴染みの無い光景だ。これだけの星があれば宇宙人だっているに違いないと思えた。


「しかしさきほどの写真とは少しアングルが違うような」


「たしかに」


 写真集を取り出して件の写真と見比べる。


「あっちの方かな?」


「行ってみましょう」


 少しばかり移動する。展望台といっても公園みたいな感じで多少は広さがあるからね。


「あー、ここじゃない?」


 写真集を掲げて風景と重ねてみる。さきほどよりやや東を向いたアングルだった。橿原ちゃんも隣から覗き込んだ。


「ぴったりですね」


 山の形や海岸線の形は完全に一致してる。星の並びは時間帯のせいか微妙に違うけどほぼ一緒だ。


「ここまで一致すると楽しいねぇ」


 絵ハガキと同じ風景探す某旅番組みたいだ。ああ、せっかくだから橿原ちゃんと写真でも撮ろうかな。これと同じアングルに映り込む感じで。



 なーんて考えていた時だった。



「く、樟葉くずはさんっ」


「へ?」


 驚いた声。

 風景に重ねていた写真集を顔の高さからとっさにろした。

 そこで待っていた光景に思わず目をみはっていた。


「な、なんだこれっ?」


「分かりません……」


 目の前に妙なものが現れていた。

 一瞬前までは確かに無かったものだ。こんなものが最初からあったら絶対に気が付いている。


「何ですか、これ。ひと? 家族、でしょうか?」


「ネオンサインみたいだねぇ」


 それは白く光る何かだった。

 ネオンサインみたいな光の線でできている。人の形をかたどっているようだ。しかも1人じゃなくて4人も。

 大人が2人、子供が2人って感じかな。手を伸ばしてみてもれられない。光の幻影だ。



「……子供がどこかを指差していますね」



 一番小さな子供—— と思われる光の人型がどこかを指差している。他の人型は指先が示す方向に顔を向けているようだった。


「どこを見ているんでしょうか?」


 オレたちも同じ方向を見つめる。しかし先ほど眺めていたアングルとほとんど変わらない方角だ。視界に映るのは山、街、海、星。そんな感じ。


「あ」


「消えましたね」


 そうこうしている間に光が弱まって最後には跡形もなく消えてしまった。もう1度写真集しゃしんしゅうと風景を重ねてみたけどダメだった。再現しないようだ。


 何だったんだ今のは。ダンジョンがらみの何かなのは確かなのに。


 と考えていたところで橿原ちゃんが閃いた。


「樟葉さん」


「んー?」


「写真集と建物内とで写真で重複しているのは何枚かあったって言っていましたよね」


「……あ、それか」


「はい。別の場所にも行ってみましょう。同じような幻影—— どこかを指差す幻影が現れるとしたら、指先が示した方向の延長線が交わるところに何かがあるはずです」


「となると次に行くのはちょっと離れたところの方がいいかな?」


「それが良いかと」


 というわけで別の撮影スポットにやって来た。1時間くらいは走ったかな。


 今度は砂浜だ。海に面している。

 波の音が響いて潮の香りがした。やっぱり辺りは暗くて星空の撮影には適していそうだった。


 橿原ちゃんと砂浜を歩く。

 砂浜を歩くのもだいぶ久しぶりだと思う。ただの砂地だったらダンジョン内で歩いたりするけどね。


「この先っぽいかなぁ」


 写真集と目の前の風景を見比べながら進む。

 足元から水平線までは、つまり海は黒に染まっている。陸地があるところでも光はまばらだ。

 それと対照的に映るのが星空で、静かに瞬く星明りのおかげで空全体が薄っすら明るく見えていた。


「あ、ここだ」


「ここですか」


 写真集と実際の光景を重ね合わせる。するとすぐに狙い通りのイベントが発生した。光の幻影が浮かび上がっていた。


 今度は大人2人だね。シルエット的に男女のペアかな? 女の人の方がどこかを指差していた。


「橿原ちゃん、どう?」


「だいたい分かりました」


 幻影が消えた頃に尋ねる。橿原ちゃんは何度かスマホと指差された方向を見比べた後、オレに向かってスマホの画面を向けていた。


「瀬戸大橋のすぐ近くです」


 マップにピンが打たれていた。瀬戸大橋のほんとにすぐ近くだった。ここからもそう離れていない。


「行きましょうか」


 橿原ちゃんの言葉にうなずくと、オレたちは砂浜をあとにして地図に示された場所へと出発した。



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