第47話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】6
指先の示す方向。その交点。
それはとある山だった。
海に伸び出る
相変わらず夜なので暗い。だけど街灯が整備されているのでさっきまでいた場所より遥かに明るかった。逆にそのせいで星はほとんど見えないけど。
代わりと言ってはアレかもしれないが、瀬戸大橋はかなり見ごたえがあった。それ自体に取り付けられた照明のおかげで夜にその姿が浮かび上がっていた。
「あーっ、あった! この場所の写真!」
「ずいぶん探していましたね」
「途中のページじゃなくて裏表紙にあったよ。散々探したのに」
たぶん今回もあの光の幻影が現れるんだろう。だけど実際の風景に重ねるための写真が写真集に無かった。
いや、無いと思って探していたら裏表紙だった。灯台下暗しってやつだね。
「この辺りじゃないですか」
「ていうかまさにここだね」
ふらふら歩いていたらちょうど写真と景色が重なるところにいた。だから写真集を持ち上げて目の前の光景と重ね合わせる。隣で
そして――光の幻影が現れた。
「正解のようですね」
「そうだね。今度はどうなるんだろう」
今回の光の幻影は1人だ。髪の長い女の人っぽい。
こちらに背を向けて立っていた。瀬戸大橋を見ているのかな? どこかを指差しているわけではないようだけど……。
『父からの
「「!」」
声がした。
目の前の幻影のものだ。この幻影は喋るらしい。
『いえ、でも、誰かがこうしてここに来たということは、もう時間だということなのでしょう』
橿原ちゃんに目配せすると頷いた。とりあえずオレが喋ってみることにしよう。
「あー、キミはもしかして、
『今は……いいえ、もう時間がない。だから私の話を聞いてください。
そして力を貸してください。この場所に辿り着いたということは、あなた方には力があるということです。巨大な力であっても
おっと。これはコミュニケーションができるようでできないヤツかな? 定型文しか話せないNPCみたいな。
『彼らが来ます。必ず来る。もうそこまで迫っています。
父は確信し、そして恐れていました。だからこそ備えていたのです。例えどれだけ非難されようとも、狂ったのだと
母や私に嫌われたって構わない。私や私の子ども、そのまた子どもがずっと命をつないでいけるなら……未来を守れるなら。父はそう言って聞きませんでした』
幻影が振り返る。顔は無い。幻影の眩さに目を細めていると、彼女がゆっくりとこちらに手を差し出した。
『これを持って行ってください。父の会社にあった人型兵器……”グランドリーフ”を完成させるものです』
”グランドリーフ”
それがあの戦闘を強制終了するボスロボットの名前らしい。
「
「そうだねぇ、そうしてくれる?」
「はい」
橿原ちゃんが幻影の前に歩み出る。そして何かを受け取った。ソフトボール大のガラスの球体にそれは見えた。
「”SADクリスタル”……? なるほど、あの人型ロボットのジェネレーターに組み込めば良いのですね」
アイテムに触れた橿原ちゃんはSADクリスタルとやらが何なのかおおよそ分かったようだ。使い道をすぐに理解していた。
「樟葉さん、あの人型ロボットはボスでもありますが味方でもあるようです」
「そのようだね。もしあのボスがアームズの一種だとすると、あれを扱えるのは科学ビルドの橿原ちゃんだ。頼むよ」
「ダンジョンに戻ってこれをあのロボットに――」
その時だった。
空で何かが
ジジッ――……ズガアアァァァアァァン!!
稲妻が走るような音が鳴り響いた。耳を覆いたくなるような爆音だった。周りにある街灯やフェンスなんかもあまりの音の大きさにビリビリと振動していた。
そして空を見上げる。
「……おいおい、マジかよ」
空に何かが浮かんでいた。
巨大な何かだ。瀬戸大橋の上空に浮かんでいる。
どこからかワープして来たとしか思えない出現だ。表面に電撃がチカチカと奔っていた。
瀬戸大橋と比べた感じだと全長は3キロくらいか。円柱状の構造を水平に横たえていて、円柱部分を中心に枝のようなものが空中に伸び広がっていた。円柱部分にはフシがあって、ドラム缶を連結したみたいな見た目をしていた。
「……宇宙船、でしょうか」
「これに”彼ら”とやらが乗っているんだろうねぇ」
「宇宙観測所のエネミーが『コレハ訓練デス』って言っていましたが、おそらくこれが実戦です。ムラサキ・テクニカ宇宙観測所と協力して宇宙人を撃退する。それがあのダンジョンの攻略条件です」
ヤバそうな敵が出てきたなぁ、おい。
でも、あれを撃破するのはあの人型ロボットが前提っぽいから……。
あれ? もしかしてこの後、オレの出番ない?
『あぁ、空に……やっぱり、来たのね……』
幻影が空を見上げながら力無くこぼした。そしてうわ言のように続ける。
『でも、ここがもう私の故郷だから……この星のみんなと私は、共に、未来を――』
ドォ!
幻影が消えた。それと同時に空に波紋が広がった。ダイダラボッチの時にもあったヤツだ。この辺り一帯がボスエリア化したんだ。
「樟葉さん、ダンジョン最寄りの鳥居を調べていただけますか。そしてスキルですぐにダンジョンに連れていってください。車では時間がかかり過ぎます」
「ああ、じゃあこのあたりの鳥居も」
「それは大丈夫です。スキルを使用して作ります。“建設”、鳥居」
メキャメキャメキャ。
金属でできた鳥居が瞬時に出来上がった。科学系スキルの”建設”だ。簡単な構造のものなら建設することができる。こんなスキルも使えたんだねぇ。
「見つけた。繋ぐよ」
「お願いします」
即席鳥居の内部が揺らぐ。繋がったみたいだ。それを確認してからオレたちは、鳥居を通ってダンジョンを目指した。
『これは訓練ではありません! これは訓練ではありません!』
サイレンが鳴り響いて、そんなアナウンスが延々と流れていた。
エネミーだった兵器は俺たちに見向きもしない。ドローンなんかはダンジョンの敷地から飛び出して宇宙船の方へ飛び立っているようだった。
ボス部屋へ辿り着くとすぐに”グランドリーフ”がレールで運ばれてきた。そしてアナウンスが流れる。
『出力が不足しています。外部での戦闘ができません。SADクリスタルをセットしてください。出力が不足しています。外部での戦闘ができません。SADクリスタルをセットしてください。出力が――』
ボスのロボット…… ”グランドリーフ”が動き出す気配はない。アナウンスの通りなのだろう。
だけど橿原ちゃんが近づくと動き出す。片膝を付いたと思ったら背中の辺りで機構が動く。外装が開いたらしい。橿原ちゃんはボスの背後に回り込むと、SADクリスタルとやらを取り出してそこに嵌め込んだ。
――ヴゥン。
グランドリーフの複眼に光が灯った。やはりグリーンだ。
『SADクリスタルがセットされました。SADジェネレータ起動。システムをチェック……オールグリーン。
パイロットが不在です。臨時のパイロットを選定します。周囲をスキャン……適合者を発見しました』
グランドリーフの複眼の中で光が動く。橿原ちゃんの方を見ているねこれは。そして胴体の前面がバカリと開いた。コックピットが用意されていた。人が乗れそうなサイズだなぁとは思っていたけど、やっぱり搭乗式だったね。
『パイロットが必要です。パイロットが必要です。パイロットが――』
「これは乗り込めという意味でしょうね」
「だろうねぇ」
「では行ってきます。樟葉さんは私の帰りを待っておかえりという役です」
「今回は出番なさそうだしそうするよ。でも気をつけてね」
「おそらくイベント戦でしょう。危険は無いかと」
「とにかく気をつけてね」
「はい。では行ってきます」
橿原ちゃんはコックピットに乗り込んで座席に座った。それとほぼ同時にハッチが閉じる。アナウンスが再開した。
『パイロットの搭乗を確認。カタパルトにて機体を射出します。注意してください』
ボス部屋の床面が開いてカタパルトが現れた。アームでカタパルト上に機体が移動された後、さらに天井や壁も開いて星空が顔を出した。あの宇宙船も見える。
『射出まであと10、9——』
ブースターに火が入る。甲高い音が鳴り響いて、グランドリーフの周囲の空気が激しく揺らめいた。
『3、2、1—— 射出』
グランドリーフが、橿原ちゃんが猛スピードで飛び出した。
一瞬視界から外れるほどの加速だった。もう一度視界に捉えた頃には2人の姿は遥か向こう、ブースターの炎の明かりが、夜空の星と混じり合うほど小さくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます