第42話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】1



「なぁっ!?」



 カターン。


 思わずスマホを落としてしまった。それぐらいショックなニュースが届いていた。オレのアパートで橿原ちゃんと打ち合わせしていて、その休憩中の出来事だった。


「どうされましたか」


「……“むらき”が」


「むらさき?」


「”叢咲き”がぁ……!」


「まさか……女ですか!?」


 あまりの知らせにちょっと動けなかった。あと橿原ちゃんが盛大に勘違いをしているけどそれどころではなかった。

 そんなオレの代わりに橿原かしはらちゃんがスマホを拾う。ついでにスマホに表示されている文章を確認している。


「……? ああなんだ、お酒ですか。……なるほど、材料不足で生産がピンチと」


「あああぁ……」


「そんなに美味しいお酒なのですか?」


「……実は前にちょっと出資してたり。クラウドファンディングで」


「好きすぎでしょう。嫉妬してもいいですか」


「いやホントうまいんだ”叢咲き”は。ダンジョン産の水を原料に使ってるんだけどもう感動するレベルなんだよ……!」


 ”叢咲き”は岡山にある酒蔵が作っている。

 口当たりがあっさりしていて味が澄んでいるタイプの極みみたいな日本酒だ。飲んだらサラサラと体の中に落ちていってしまう。刺身とかと一緒にしたらもう最高よ。


「でもどうして材料が足りなくなったのですか?」


「そういえばそうだ! いったい何が原因なんだ! 犯人がいるならタダじゃおかないからな!」


 2人でスマホを覗き込む。そこには理由がこう記載されていた。



が活況状態であり、多くの冒険者がそちらに流れてしまったため、仕込みに使用するダンジョン産の水の採取が滞っている状態です。当社としましても報酬増などで対応しておりますが、冒険者の絶対数が減少しているため状況改善にはいたっておりません』



「「……」」


 もしかしてオレたちのせい?


「……タダじゃおかないんですか?」


「自分で自分が許せねぇ……!」


 手が震えてきた。たぶん怒りのせいだな。

 でも酒を飲んだら直った。


「それにしてもダンジョン産の水ですか。そういう発想はなかったです」


「けっこう色んな場所でやってるけどね。ミネラルウォーターとしても売ってたりするよ」


「岡山のそこはどんなダンジョンなんですか?」


「【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】って呼ばれてるダンジョンだ。ムラサキ・テクニカっていう会社の施設だった……っていう設定っぽい。【蓼科たてしな博士の研究所】とは違って、明らかに戦闘用に作られたメカがエネミーとして出てくるよ」


「それは良さそうですね。銃火器のドロップはありますか? 現代系でしょうか、それともオーバーテクノロジー系でしょうか」


「オーバーテクノロジー系だったかな」


ああ、そういえば。


「ここのダンジョンもちょっと妙なんだよね」


「というと」


「大ボスっぽいメカがいるんだけど、撃破できるというか、撃破できないというか」


「??」


「一定以上のダメージを与えるか、もしくは。ボスが建物の奥にひっこんじゃうんだよね。まあ報酬はもらえるからいいけど」


「ドロップも含めて興味が湧きました。……しかしそれにしても、どうしてそんなダンジョンで水が?」


「ああ、よく分からないんだけどダンジョン内にめちゃくちゃ大きい水槽があってね。その水が”叢咲き”の仕込みに欠かせないんだよ。……そうだ! こうなったら!」


 オレはソファから立ち上がる。


「橿原ちゃん! そのダンジョン行きたいんだけどいいかな!?」


「構いません。車を出しましょう」


「え、いいの?」


「ドライブにはちょうど良い距離です」


 ほんと助かる。スキルで行ってもいいけどコスト重いし、新幹線とかだと向こうに着いてからが大変だからね。


「そうそう。近くに駐車場りといたから使っていいよ。あとで位置情報送っとくね」


「本当ですか、助かります」


「なんだかんだここに集まること多いしねぇ」


 パーティハウスとか考えた方が良いのかなぁ。岡山までの道中で橿原ちゃんと相談してみようかな。




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