第32話 ダンジョン【フレイム・オブ・ライフ】6
「……ふー」
息を吐いた。思った以上の爆音と水しぶきで正直ビビった。
でも逆に言うとそれだけで、オレと
「いやーすごかったねぇ魚雷。橿原ちゃんも問題ない?」
「……」
「? 橿原ちゃん?」
まだ防御態勢——抱き締めたままだった橿原ちゃんの反応がなかった。何度か問いかけるとようやく反応があった。
「私、ここに住みます」
「え? フレイム・オブ・ライフに?」
橿原ちゃんがそうしたいなら止めないけど……??
「失礼、つい本音が。魚はどうなりましたか」
「あ、そうだね確認しよう」
徐々に視界が戻る。煙だか水しぶきだかが薄くなっていった。フレイム・オブ・ライフの甲板の様子が分かるようになり、やがて――。
「……!」
「おー」
燦然と光を放つ太陽が浮かんでいる。船団を包んでいた白い霧も消え去っていた。
そしてなにより―― 青い空と青い海が広がっていた。
「仕留められたようですね」
「でっけー」
艦の横にさっきの魚が浮いていた。やっぱりデカい。派手に肉がえぐれた状態でぷかぷかしていた。
見れば見るほど禍々しいフォルムだ。海中で出会ったらぜったい悲鳴上げるよ。
「あ」
魚—— ボスが光の粒になって弾ける。そしてオレと橿原ちゃんの方に寄って来た。経験値になったね。うん、とんでもない量だ。
「……航行してませんね。周りの船も」
橿原ちゃんがフレイム・オブ・ライフを見上げて、その後に周囲を見回した。船団が波を切り白波を立てる様子はなかった。ただ穏やかに波間に揺れていた。
「「!」」
眩さを覚える。光源を探すとフレイム・オブ・ライフの艦橋、その窓が輝いていた。
思わず目を細める。しかしそれでも間に合わないほどに光は強さを増していき、やがて空間を全て埋め尽くした。オレたちの視界はまたしても真っ白に染め上げられたのだった。
そして目を開ける。
「……あれ? 外に出た?」
「そのようですね」
立っていた場所はフレイム・オブ・ライフの甲板の上ではなかった。
旧堺港を取り囲む、歩道のような階段のようなスペースの一画だ。ダンジョン【フレイム・オブ・ライフ】に入るための廃船を眺められる位置だった。オレンジ色に染まった景色から察するにもう夕方だ。そのせいか入口の廃船に冒険者の列はもう無かった。
「「!」」
目の前にウインドウが表示される。タイミング的にはあれだね。攻略報酬だね。いつもの強制入手パターン。
[ アームズ ”ミサイル駆逐艦フレイム・オブ・ライフ”を獲得しました。
※初攻略者のみの限定報酬です
※”科学”のステータスが要求値を満たしていません]
[ スキル”フレイム・オブ・ライフ”を獲得しました ※初攻略者の確定報酬です]
[アイテム”艦内厨房【マル秘】レシピ集(ミサイル駆逐艦フレイム・オブ・ライフ版)“を獲得しました ※初攻略者の確定報酬です]
[ アイテム”あん肝“を獲得しました ※初攻略者の確定報酬です]
「……」
「……ダンジョンの報酬ってたまにふざけますよね」
けっこうふざけてるような。
「あんきも……」
「さっきのボスなんだっけ? えーと、ホウライ……」
「ホウライエソっぽかったです。少なくともアンコウではありませんでした」
うん……
気にしたら負けだね!
「それにしても良かったね橿原ちゃん。欲しいって言ってたもの手に入ったじゃん」
橿原ちゃんはコクコクと頷いた。
「はい。艦船はレアです。しかも第二次大戦より後の時代のものとなるとかなり。私の知る限り国内で保有しているのは佐世保に1人と自衛隊に1人だけです。佐世保の方は駆逐艦で、自衛隊の方はヘリ空母だったかと」
早口だった。それだけ嬉しいんだろうね。
第二次大戦以前の艦船ならちらほら話を聞く。
そっちだったらたぶん国内に10人くらいは保有者がいるかな。大阪湾にバカでかい戦艦が浮かんでいるのを見たことがある。名前は分からなかったけど。
「次は潜水艦かイージス艦が欲しいですね」
だから何と戦う気なんだよ橿原ちゃんは。
「……あ!!」
「どうしましたか」
「まだお酒手に入れてない!」
「そういえばそうですね。ボスドロップにもありませんでしたし」
「こうしちゃおれん。ちょっともう1回潜ってくる!」
オレの酒が獲り尽くされてしまう!!
「橿原ちゃんは先に帰っててお疲れ様!」
「待ってください」
「ぐえ」
襟首掴まれて喉が締まった。なんか前にもこんなことがあったような……。
「私も行きます」
「え、いいよオレだけで」
「まだ旧式武器のバリエーションがほしいです。それに」
「?」
「私たちはパーティー”黎明記機械“です。ダンジョンに潜る時は一緒です」
「橿原ちゃん…………しゅき」
「当然です。では行きましょう」
「あ、でも橿原ちゃんごはんとか大丈夫?」
「大丈夫です。というか今からどこかでごはん食べたら樟葉さんお酒飲んで動かなくなりますよね」
「よくご存知で……」
「樟葉さんのことですから」
「頼もしいなぁ」
そんな会話を交わしながら、オレたちはダンジョン【フレイム・オブ・ライフ】に再びもぐったのだった。
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