第3話 九尾のダンジョン3
いなり寿司と酒を買い込んでボス部屋に戻った。そしてやっぱりそこまでの敵はスルーできた。
「遅い! もう酒が無くなったわ!」
「はえーよ! 一升だぞあれ!」
「人間の作った単位など知らぬ! それで、持ってきたのか!?」
「買い占める勢いで仕入れてきたぞ」
「うむうむ! 良い心掛けじゃ!」
「あ、俺も呑んで良い?」
「む? おぬし、いけるクチか?」
「酒を飲むのだけは自信がある!」
「ほう! ならば見せてもらおうかの!」
「ささ、まずは一献」
「気がきくのう」
そんな感じで、俺と九尾の飲み会が始まった。
―—30分後
「じゃあもう1度……カンパーイ!」
「乾杯じゃー!」
――1時間後
「昔は村の若いのがどーのこーの」
「へーそうなのかー」
――1時間30分後
「あーはっはっはっは!!」
「くふふふふふっ!」
――2時間後
「なに!? いなり寿司は3個で200円とかだったはずじゃぞ!?」
「いまはもう2個で200円とかだな」
――3時間後
「乾杯じゃー!」
「何回目だよー! あっはっはっは!」
「何回でもよかろうー! くふ、くふふふ!」
「そうだそうだ! よかろうー!」
そして――4時間後。
「ぐおー……すぴー……」
「……寝落ちしやがった」
くっそだらしない顔してやがる。オレの膝を枕にして。酒のせいかほっぺも赤い。あと着物がはだけて色々見えそう。こぼれそう。刺激が強い。酔いが冷めそうなくらいだ。
……これどうすればいいんだろ。この隙に攻撃すればいいのか? いやでも一緒に飲んで楽しかったし、そういうことはしたくないなぁもう。
などと考えていた時だった。
――ピコン。
[ 戦闘不能 ]
九尾の近くにそんな表示のウインドウが現れた。
「……! うわっ!」
九尾が発光する。そして光の粒子になってオレの身体の中に入っていった。モンスターを撃破した時と同じ演出だ。経験値になったんだ。すさまじい量だ。九尾はずいぶんと経験値をため込んでいたようだ。
「……
経験値のカウントが止まったら視線を上げる。ボス部屋の奥に小さな祠があった。祠の扉は格子状になっていて、内部に光り輝く何かが入っていることをこちらに伝えている。攻略報酬のようだ。
「さてどんなものか……」
祠の扉を開ける。そして内部の光に手を伸ばした。
ピカッ!
増幅した眩さに目を細めるとすぐに光は消えた。祠の中には何も無かったが、代わりにウインドウが表示されていた。
[ スキル”幻獣召喚・九尾”を獲得しました。 ※初攻略者のみの限定報酬です ]
[スキル”鳥居渡り”を獲得しました ※初攻略者のみの限定報酬です]
[ スキル”狐火”を獲得しました ※初攻略者の確定報酬です]
[ アイテム”きつねのしっぽのもふもふ抱き枕”を獲得しました ※初攻略者の確定報酬です]
[ アーマー ”きつねのとんがりみみカチューシャ”を獲得しました ※初攻略者の確定報酬です]
内心、ほっとした。そして嬉しかった。またあのナイスバディで愉快で気が合うねーちゃんに会えるかと思うとそれだけでテンションが上がった。早速呼び出すことにしよう。
「スキルを使用。九尾を召喚!」
空から光が降る。細いレーザー光が素早く動いて積み上がっていく。3Dプリンターみたいだ。へえ召喚ってこんな感じなのかと思っていたら、間もなく九尾が現界した。
「くかー……すぴー……」
「いや寝てんのかよ!!」
九尾は目を覚まさなかったのでそのまま送り返した。
召喚獣を召喚する時って基本戦闘前のタイミングなはずだが、毎度あの状態じゃないだろうな? だとしたらゴミスキルにもほどがあるぞ。いやまあギミックに気が付けばすぐクリアできるダンジョンの報酬だし、そんなもんなのかも。
「はぁー……朝陽がまぶしいぜ」
ダンジョンから―― 門前町から出る。振り返ってみると田んぼの真ん中に鳥居がぽつんと建っているだけだった。鳥居の向こうには耕作放棄され荒れ果てた田んぼしかない。門前町などどこにもなかった。
未攻略、かつ
「キツネに
21世紀でそんな体験をするとは思わなかった。これだからダンジョンはやめられないんだ。酒代も稼げるしな。
「うーん、よくよく考えると攻略不能ダンジョンを攻略しちゃったのすごくね? 初回限定報酬とかもらえたし……となるとこれはお祝いだな! よし、酒だ! 帰って飲むぞー!」
ちなみに、周囲に公共交通機関がなかったため、最寄り駅まで1時間以上歩いた。”鳥居渡り”なるスキルの存在はすっかり忘れていた。
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