第49話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】8
瀬戸内海に墜落する宇宙船を眺めていると
グランドリーフは静かに着地する。相応の風と砂埃は立ったけどね。場所は最後に幻影を見た展望台だ。
片膝をつくグランドリーフ。ハッチが開いて橿原ちゃんがスタッと下りてきた。身のこなしがさすがに軽かった。グランドリーフも姿勢を低くする必要無いんじゃないかな。
「ただいま戻りました」
「おかえり。無事でよかったよ」
「
橿原ちゃんは満足げにグランドリーフを見上げた。
『
うお、喋るのかよコイツ。と思ったけど橿原ちゃんは百も承知な様子だった。当然のように返事をした。
「なに、グランドリーフ」
『脱出の際にジェネレーターの出力を上げ過ぎました。電装部品を中心に機体全体の整備が必要です。また整備には専門のチームが求められますが、今やそれは望めません。
あなたには……あなた方には不可思議な力があるとお見受けいたします。あなた方の”ストレージ”なるものの、資源の投入か時間経過、あるいはその両方により内部に格納したものを修復する機能を頼らせていただけないでしょうか。
そして頼るなら私はあなたを頼りたい。共に戦ったあなたを』
「一緒に来たいということ?」
『はい。ひと言で申せば』
橿原ちゃんがこちらを見る。
いや、反対とかしないよ? 良い話じゃん普通に。オレは頷いて返す。
「分かった。よろしく。グランドリーフ」
『感謝します、
グランドリーフに歩み寄る。そして橿原ちゃんは機体に手で触れた。
『
急にバーチャルアシスタントっぽくなったんだけど?
明日の天気は? とかって訊いたら教えてくれるのかな? 教えてくれるんだろうけど超性能マシンの無駄遣いすぎでしょさすがに。
「分かった。そのうち試してみるわ」
『いつでもお呼びください』
こうしてグランドリーフは収納された。
つまりは報酬として入手できたってことだね。ホントに人型ロボット手に入れちゃったよ橿原ちゃん。小さくガッツポーズしてるし。
「グランドリーフ……『
星系外技術というのが気になりますね。新たなスキル系でしょうか。他にも星系外技術に該当するアイテムやスキルが存在するのかもしれません。だとしたらどこに……」
楽しそうで何よりだね。
「お」
空に波紋が広がった。
これはボスエリア化の解除か。本来の景色が戻ってくる。
東の空が明るい。街は破壊されていないしポツポツと明かりも灯っていた。ちゃんと無事だね。わらわらしていたエネミーもいない。そして瀬戸内海に落ちた宇宙船も――。
えっ、宇宙船まだあるんだけど。
「おかしいです。宇宙船が墜落したままです」
「そういえば宇宙船が現れたのってボスエリア化する前だったような……」
「「……」」
何度見ても宇宙船はある。ここからだと瀬戸大橋の向こう側に見える小島のさらに向こうにあった。倉敷の市街地から見るとほぼ真南になるのかな?
円柱状の部分が海底に突き刺さって斜めに立っていた。いや、円柱部分から伸びる枝状の構造に支えられているのか?
「……アテンション、グランドリーフ」
『お呼びでしょうか』
グランドリーフが現れた。早い再登場だったね。
省エネモードとやらの姿だと思う。グリーンの光が揺れ動く六角形の何かが橿原ちゃんの近くで浮遊していた。サイズはCDくらいかな。六角形はよく見るとさらに小さな六角形の集まりで、たぶんグランドリーフの複眼がモチーフだろう。
「あの宇宙船、消えてないんだけど」
『おそらくですが、あなた方が ”ダンジョン” と呼称する存在だと推察されます』
「「……あー」」
『我々が撃墜した宇宙船との連続性は不明です』
墜ちた宇宙船は新たなダンジョンになっていた。
橿原ちゃんの車で仮眠を取ったあと、どうしようか迷って結局
でも水を納品した直後に酒蔵を離れた。
それはもう逃げるように。報酬とかどうでもよかった。
だって今、突然現れたあの宇宙船型ダンジョンのせいで街が大騒ぎになってるから。
岡山県内に限らず日本、いや世界中で話題沸騰だ。こんなところにいたら絶対に面倒なことになる。
そりゃあ、あのダンジョンをアンロックしたことは自慢してもいいことかもしれないけど、それ以上の面倒事が待っていそうなんだよね。「海に邪魔なもん出しやがって!」とか言われても困るし。
だからこっちの組合にも行かないし、正式に依頼も受けない。こちらにオレたちがいた証拠は極力残さないようにしなきゃ。
「橿原ちゃん眠くない? 大丈夫?」
「平気で……いえ、眠くて死にそうです。ほっぺにちゅーとかしてくれたら目が覚めるかもしれません」
「問題なさそうだねぇ」
というわけで帰り道だ。橿原ちゃんの運転でまた高速だね。
橿原ちゃんはホントに睡魔に襲われてるとかはない思う。だって睡眠時間を半減させる例の”もふもふ抱き枕”を抱きしめて仮眠してたし、そもそも高レベル冒険者って体力オバケだから2・3日くらいなら寝なくてもパフォーマンス落ちないし。
オレは助手席でやることが無いので手に入れたアイテムを確認している。橿原ちゃんが入手したやつだけど。
「これがSADクリスタルか。見た目はただのガラス球だねぇ」
”SADクリスタル”
地球の水も星雲ツユクサの朝露に由来する。ゆえに異星文明に狙われた。
「なるほどねぇ。あの宇宙船は水を目当てに地球に来たっていう設定なのか……で、”星雲ツユクサ”ってなに?」
「アテンション、グランドリーフ。星雲ツユクサについて教えて」
また緑に明滅する六角形が現れた。修復とか大丈夫なのかな?
『“星雲ツユクサ” はかつて宇宙を
「だそうです。ありがとうグランドリーフ」
『またいつでもお呼びください』
もちろん実際の宇宙の話ではない。あくまで【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】というダンジョンが持っている世界観、歴史、あるいは設定の中の話だ。
「ということはあの水槽の水は本来はSADクリスタルの原料だったってことか」
「そういうことですね。エイリアンが宇宙を渡ってでも奪いに来る水を、あろうことか我々はお酒の原料にしているというわけです」
すごい水でお酒を造っていたんだなぁ。そりゃ旨くなるわ。宇宙人は激おこかもしれないけど。
などと考えていた時だった。オレのスマホが鳴動した。
「……? 組合の番号? もしもしー?」
『あ、樟葉くん? お疲れさまー』
「お疲れですー。どうしました?」
誰かと思えばクエストさんだ。何の用だろう。あの宇宙船型ダンジョンを調査してこいとかかな?
『いま岡山にいるわね?』
「……」
ピ。
通話を切った。
何で分かったんだ!? エスパーなのあの人は!?
と困惑していたら今度は橿原ちゃんのスマホが鳴った。橿原ちゃんはスマホではなくカーナビの方を操作して応答した。車のスピーカーの方から通話音声が流れ始める。
『橿原さんお疲れさまですー』
「お疲れ様です。どうされましたか」
通話の相手は鑑定ちゃんだった。イヤな予感しかしなかった。
『いま岡山に――』
ピ。
通話が切られた。
「運転に集中します」
「2人で逃避行でもしちゃう?」
「良いですね。お付き合いしますよ、どこまでも」
などという現実逃避をしながら、オレたちは帰路についたのだった。
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