第48話 強制終了するボス戦【ムラサキ・テクニカ宇宙観測所】7
まさかこれほどの事態になるとは思いませんでした。
”グランドリーフ”
既知の搭乗式人型アームズのいずれとも隔絶した性能を持つ一体です。機動力を考慮しただけでも確実に最高峰のものとなるでしょう。
コックピットに乗り込んで座席に座ります。
ハッチが閉じます。一瞬
『パイロットの搭乗を確認しました。パイロットの登録を行います。パイロット名を登録してください』
「
『“ 黎明記機械 “所属の“ 橿原光 ”をパイロットとして登録しました。システムへ適用……完了しました。機体状況および支援システムとのリンクをチェック……オールグリーン。
作戦目標は侵略性
床が開いてカタパルトが現れ、壁と天井がなくなり星空とあの宇宙船を目視します。機体がアームで持ち上げられ、カタパルトの上にセットされました。
『
「ええ」
『了解しました。射出シークエンス開始。射出まであと10カウントです」
空中戦は久しぶりですね。ダンジョン内の山岳地帯にいた竜種をF-2で相手取ったとき以来でしょうか。
『ブースター点火。シールド展開。システム、戦闘モードに移行します。最終安全装置を解除。
モニター上の計器類が目まぐるしく動きます。理解できる範囲で読み取っても凄まじい出力であると分かりました。このサイズの機械としてはありえない水準です。
……
樟葉さんと私で大破こそさせましたが、あれはSADクリスタルを搭載する前の話です。今は出力も上がり、さらにバリアのようなものも展開されています。仮に今のグランドリーフとやり合ったらどうなるかは正直分かりません。
『射出まで3、2、1……射出』
クンッ!
かすかなGと共に機体が前進します。と思ったらモニターに映る景色は猛スピードで背後に流れていき、速度を示すメーターは一気に数値を高めました。
それを把握した頃にはもう空を飛んでいました。観測所は遥か後方、地上も遥か下方にあります。
案外Gはかかりませんでした。というよりむしろ、その気になればGを感じさせなくもできるけどあえてやや残しているといった印象を受けました。
『まもなく接敵します』
宇宙船が目の前でした。先ほどは見上げていましたが、こうして同じ高さにいるとさらに巨大です。なぜ浮かんでいるのか不思議でなりません。
戦闘はすでに始まっていました。市街地でも空中でもです。
先ほどまでダンジョン内でエネミーをしていた機械兵器たちが、宇宙人の兵器を相手に激しい戦闘を繰り広げていました。
ジュォッ!!
「!」
背後から紫がかったレーザー光が放たれ、空に真っ直ぐな光のラインが描かれます。敵の航空機が撃墜されました。
続けて宇宙船自体にもレーザー光を浴びせかけます。何本、何回もです。相手の宇宙船にもバリア機構があって威力が減衰しているようですが、それでも多少のダメージを与えているようでした。
「グランドリーフ、今のは?」
『観測所のレーザー砲台からの支援攻撃です』
「そんなのあった?」
『通常は電波望遠鏡に偽装しています』
「なるほど」
街のいたる所で爆発が起きて、海や市街地に航空兵器が墜落していきます。敵も味方も関係ありません。
ボスエリア化しているとはいえ、街は本当に大丈夫なのでしょうか。
『あー、橿原ちゃん聞こえるー?』
「! はい、聞こえます」
樟葉さんです。これはスキルによるものですね。姫路城のダンジョンで獲得したものです。
『ああ良かった。確認しにきたんだけど街の方は誰もいないね。ボスエリア化したおかげだと思う。異空間になっていて元の街には影響ないよ。気になってるかと思って一応。存分に暴れてよ』
「ありがとうございます。安心しました。しかし市街地にいるのですか? 危険なので離脱してください」
『りょうかーい』
ふふ……さすがは樟葉さんですね。私が気にすることを見越して動いてくれたというわけです。
まさに愛の成せる技。もはや相思相愛ですねこれは。このダンジョンを攻略したら行くとこまで行きましょう、ええ。
『敵追加戦力を確認。来ます』
宇宙船から敵機が飛び出してこちらに向かってきます。複数です。
先ほどから味方のドローンと戦っているのとは違うもののようです。戦闘力の高い上位の兵器でしょう。
撃ってきた。
機体側面のブースターで瞬時に横方向へ機体をスライドさせて回避します。
Gがもろにかかる戦闘機とかでは絶対にできない挙動ですね。パイロットも機体の方も持ちません。グランドリーフ……さすがオーバーテクノロジーの権化というべきでしょう。
「射撃を開始する」
『了解。射撃開始』
敵機がロックされ次第攻撃します。私は攻撃を避けながらほぼ引き金を引くだけですね。それだけで敵機が撃墜されていきます。
されていきますが……。
「グランドリーフ。ロックが遅いからアサルトライフルとマシンガンの火器管制システムを切って」
『……申し訳ありません。今の指示は分かりません。もう一度お願いします』
「腕の武器の火器管制システムを切って。私が手動で照準する」
『……』
「グランドリーフ」
『了解しました。腕部の火器管制をオフにします』
「代わりにあなたは肩のミサイルとレーザーキャノンの制御に集中して。引き金も預ける」
『了解しました』
相手の出方を待っていたら夜が明けてしまいます。どこかに誘導されてしまう恐れだってありますから。
兵器としての性能はおそらくこちらが上。そして数では負けている。相手に合わせるのは危険です。
―― グンッ!
なので積極的に動いてかき乱していきます。せっかく圧倒的な機動力があるのです。活かさない手はありません。
そうして追加された上位の航空兵器を迅速に破壊しました。
『
「それは良かった。ところであの宇宙船はどうやって墜とすの?」
『外装を破壊していけば撃墜できると推定します』
「まどろっこしいわね……」
……ああ、あそこに敵の機体が出てきた出入口がありますね。
「敵が出てきたシャフトがあるわ。そこから内部に入って内側から破壊しましょう。巨大兵器を破壊するなら内部に突入して破壊するのがお約束だわ」
『
「さっき飲み込んだ言葉が出たわね」
『しかし、良いでしょう。あわよくばメイン動力部にあるSADクリスタルを奪取したいところです』
「そんなものがあるの?」
『以前地球に来た彼らの宇宙船を解析して叢咲社長は私を作りました。同じ技術が使用されているはずです。あれほどの宇宙船を動かすものです。他の追随を許さないエネルギーを得られるでしょう』
「それはぜひとも手に入れたいわ。行きましょう」
『露払いはおまかせください』
味方の航空ドローンが集結したのが分かりました。編隊になってシャフトの入口を目指します。撃ち落とし、撃ち落され、遥か遠方のレーザー砲台の援護射撃にも補助されながら、私たちは宇宙船に突入しました。
『熱源を目指します』
モニター上に矢印が表示されます。あちらに動力部があるようです。
内部に入ってからの攻撃は散発的でした。侵略兵器ではありますが、宇宙を渡る船でもあるのです。生活スペース的なものもあるのでしょう。
そして。
「!」
『熱源に到着しました』
ここが動力室のようですね。中央で何かがうなりを上げています。
『
「わかったわ。……開かないけど」
炉の扉を開けようと思ったけど開きませんでした。まあ当然ですよね。安全上でもセキュリティ上でも簡単に開くとは思えません。
『しばらくお待ちください。装置をハッキ――』
バキィ!!
銃の柄で殴って扉を破壊しました。中にあるガラスの球体みたいなものを取り出します。取り出した直後は光を放っていましたが、それも徐々に消えていきました。
「この手に限るわ」
『……』
外に出てSADクリスタルをストレージに格納しました。その瞬間に宇宙船が揺れ出します。
当然ですね、動力を失ったのですから。ひょっとしたら強度の維持にもSADクリスタルを使っていたのかもしれません。
『脱出しましょう』
「ええ」
『急いでください。崩落が始まっています』
来た道を引き返します。道は分かっているので早いです。
『崩落のペースも早いです。危険です』
「出口は?」
『間もなくです』
角を曲がったら光が見えます。外ですね。もう一直線です。
『ジェネレータのリミッターを解除します。一時的に爆発的な推進力を得ることができます。反動に注意してください』
一気に機体が押し出されました。カタパルトと同じくらいの推進力でした。
「!」
『離脱に成功。敵宇宙船の崩落を確認。作戦目標が達成されました。お疲れさまでした』
敵の宇宙船が傾いていき、瀬戸大橋の上空から外れていきます。周囲の敵航空戦力も連動して墜落していっているようです。敵宇宙船はやがて、瀬戸内海に着水して動かなくなりました。
終わったようですね。
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