第29話 ダンジョン【フレイム・オブ・ライフ】3
「海中にかぁ」
「ダンジョン内に機能してる漁業用のソナーがあって分かったらしいです。それで感知系のスキル使いが確認したら間違いないようだと」
「ちなみに
橿原ちゃんの装備しているキツネ耳カチューシャは半径120メートルの地形や構造を把握することができる。だからもしかしたら。
「だめです。120メートルより深いところにいると思われます」
「ふーむ」
仮に挑戦するとして……嫌なんだよなぁ水中戦。
スキルとレベルの恩恵で戦闘はできるし呼吸も大丈夫だ。だけど、やっぱり普段から水中にいるエネミーの方が有利なのは変わらないし、こっちも不慣れだし動きづらいから常にデバフかかってるようなもんだからね。
「海中ダンジョンに慣れた冒険者が潜ったこともあるらしいのですが、さらに深く潜航されて逃げられるみたいですね」
「こっちの動き把握してんの?」
「そのようです。あとかなりの巨体のようだと情報サイトには書いてあったかと」
「パッと思いつくのは……釣ってみる?」
「エサが思い浮かびませんし、釣り上げても水揚げできなさそうですね」
「そうだねぇ、あっはっはっは」
「ところでさっきからドロップが家電しか出ません。武器が欲しいのですが。何のためにこのダンジョンに来たか分からないです」
「そうだよ、お酒も出てないよ。さっさと
「エリアを変えてみましょう」
そんなことを話しながら、オレたちはダンジョンの奥へと進んでいった。
『手ごたえが出てきました』
物陰に身を隠した橿原ちゃんはマガジンを交換しながら言った。
いや思った。竜宮城でもらったスキル”阿吽の呼吸”だ。ボス役だった時の念話はこれだったんだね。あの阿吽の門番も実はめっちゃおしゃべりなのかもしれないな。
『武器持ったエネミーがデフォになって来たね。やっかいだ』
戦闘中は弾丸の雨だ。音もすごい。スキルのおかげで何とかコミュニケーションできる。
ダンジョン的な作用で敵の銃にはリロードの概念がないっぽい。まさしく絶え間なく撃ってきていた。
オレは障壁があるから大丈夫だ。だけどそれが無い橿原ちゃんはオレから少し離れると普通に危険だった。レベルである程度は耐えられるけど、しっかりしのぐには物陰に隠れるしかなかった。
『属性付与お願いします』
『ほい』
『どうも』
ピンが抜かれてないグレネードを投げ渡されたので神聖属性を付与して返す。グレネードは
「ほんとに神聖属性が効くんだなぁ」
「世界観に合っていません……あ、ライフルのドロップありました」
橿原ちゃんが銃を持ち上げて見せる。ちょっと嬉しそうだ。銃のことはよく分からないので、橿原ちゃんがいま使ってるライフルと正直オレは見分けがつかないけど。
「お酒はドロップしませんね」
「ドロップアイテムじゃないのかも。宝箱からとか」
よくよく考えるとゾンビからドロップしたお酒とか飲むのはちょっと勇気いるしね。
そう思ってからは探索の比重を変えた。
さっきまではエネミーを探してたけど、今は建物の方に意識を向けていた。いやほら、食堂とか売店とか倉庫とかそういうの無いかなって?
「ここは……なんか立派な部屋だな」
「艦長とかの部屋かもしれません」
「なら高い酒を隠してあるかもな、どれどれ……」
両開きの扉を開けたら社長室とか校長先生とかの部屋みたいなところだった。デスクとか応接セットとかがある部屋だね。まあかなり散らかってて血の跡とかもあるけど。
「俺は棚を探すから橿原ちゃんはデスクをお願い」
「急にいきいきするのやめてください」
とか言いつつ探してくれる橿原ちゃん優しい。
「何も無いな。橿原ちゃんそっちは――……橿原ちゃん?」
橿原ちゃんが固まっていた。デスクの広い引き出しを開けた状態で。引き出しの中をじっと見下ろしていた。
「……」
オレはそっと近づく。そして隣から覗き込んだ。
木製の引き出しの中は空だった。だから底板がよく見えた。そこには赤い何かでこう書きつけられていた。
”
「「……」」
いきなりホラーな展開だった。間違いなくエネミーのゾンビを意図した言葉だろう。
橿原ちゃんが動き出す。近くにあったガラスの扉付きの本棚に歩み寄った。そして銃の柄でガラスを叩き割って中の本を漁った。
やがて1冊の本を手に取って目を通し始める。中身が手書きっぽいから日記かな? ……でもそれ英語で書かれてるっぽいけど橿原ちゃん読めるの? そんな早く? すごくない??
「何て書いてあるの?」
「どうぞ」
「いや、読めないけど」
「……。つまりこの艦というか船団は、核戦争が危ぶまれる風潮の中でオカルト的な手法で生命を維持する方法をテストする任務を帯びていましたが、見事に失敗したといったところですね。
しかもこの任務は上位の将校にしか知らされていなかったようです。表向きは核ミサイルの応酬によって引き起こされた放射能汚染から避難する状況を想定した訓練でした。スローガンは”命の火は消えない”」
まあそんな気はしてたんだよ薄々。だってここで出てくるゾンビ、秘術系だし。つまり映画やマンガでいう所のオカルトとか魔術とかそういうのでできたやつ。
「しかしまあ、これを書いたであろう将校もだいぶ後悔しているみたいですが」
橿原ちゃんは本を裏返してこちらに見せた。だから読めないって。
「”下にいるオカルトクソ
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