第26話 こんにちは、鑑定ちゃんです。
こんにちは、鑑定ちゃんです。
ええ、鑑定ちゃんと名乗っておきましょう。
もちろん本当の名前はきっちりありますよ。でもみなさんが内心で私のことを鑑定ちゃんと呼んでいることは知っていますからね。私のスキル、なんだと思ってるんですか? あとたまに声に出して呼ぶ方もいますしね。
ということで鑑定ちゃんの方が通りが良いので鑑定ちゃんでいきます。
冒険者組合の梅田支店に私は勤めています。まだ未踏破である梅田ダンジョンに最寄りの支店です。そのせいかいつも混雑していて大忙しです。もうちょっと人を増やしてくれないかなぁ、と常々思っています。
担当業務は鑑定と買取の窓口です。そんなに頻繁に効果が不明なアイテムとかは出てきませんからね。買取窓口の方が分量は多いですね。
だけど鑑定業務が入ったらそちらが優先です。レアスキルなんですよね、鑑定系のスキル。”診断”とか”分析”とか”看破”とか”究明”とかですね。現状では”究明”が一番性能が高いです。
私の鑑定スキルはどれなのか、ですか……? ふふふ、内緒です♪
獲得条件が未だによくわかっていないスキルのうちの1つです。私も獲得した時にいろいろ聞かれましたが、結局よく分からないままですね。でもそのうち明らかになるでしょう。まあそれはそれで同業者が増えて私は困るかもしれませんが。
そのうち明らかになる、で思い出しました。
最近ダンジョンが熱いです。
いえ、ずっと熱いには熱いんですが、最近は常ではない盛り上がりを見せています。
原因は立て続けに報告された新発見です。
攻略不能とされていた【九尾】のダンジョンの攻略。
【イロカネ】ダンジョンでのヒヒイロカネのドロップの確認。
【蓼科博士の研究所】の新エリアの発見。
などですね。
特に【九尾】とヒヒイロカネには日本中に衝撃が走りました。ダンジョンにはまだまだ余白があることが示されたのです。そしてその時の波紋はまだ収まっていません。
どちらのダンジョンにも人が押し寄せています。九尾は観光地として大賑わいですし、イロカネダンジョンはゴールドラッシュかのような勢いです。いえ、実際のゴールドラッシュの時の様子とか知りませんけど。
そして、その波紋の中心にいるのが
通称”梅田のゾンビ”です。あまりにもあまりにもなあだ名ですが、まあ悪い意味ばかりでもありません。5割くらいはいつも酔ってるせい……いや6……7割くらいはいつも酔っていて、ぐでーっとしていて二日酔いであーあー苦しんでるせいですが、梅田ダンジョンの大深度からソロで生還したしぶとさを称える意味もあります。
本当にバカにしたものではありませんよ。それはまぁ、ずっとお酒を飲んでるヤバい
そして
クールな印象を受ける女の子ですね。あまり表情が動きません。ですが”アサルト女子大生”とか呼ばれてるくらいに苛烈で容赦のない戦闘スタイルで有名な冒険者です。同世代と比べると圧倒的に戦闘力と実績がありますね。この前も姫路城のダンジョン前で大暴れして話題になっていました。
まあ、どれもこれも樟葉さんとかいう酔っ払いにご執心なのが原動力なのですが。
出会った頃は、まあ思春期特有の一過性の熱情かなぁとか思っていたのですが、もう何年もああですからね。橿原さんがルーキーだった頃から彼女のことを知っている職員はみんな「マジか……」って
この2人、最近の波紋の震源地なのに周囲には全く無関心です。樟葉さんは脳がアルコール漬けなので常時でろでろですし、橿原さんは樟葉さんのことしか見えていないですから。マイペースすぎるという点においては2人はお似合いなのかもしれません。
とまぁそんな2人ですが、いまは組合の隅っこの方の打ち合わせテーブルで何やら話し合っています。
個人的には涙を誘うものがありますね。橿原さんの念願がようやく叶ってパーティーを組めたんですから。何度彼女のグチを聞かさ――相談に乗ったことか……。
「”きへんなふたり”とかで良いよもう。ほら、樟に橿にも
「真面目に考えてください。”樟葉夫妻”と書いて勝手に登録しますよ」
「待って話し合おう」
「私たちの将来についてですか?」
「橿原ちゃんお酒飲んでるの?」
何だかんだ仲の良い2人です。
橿原さんが若すぎたということもあって以前の樟葉さんは及び腰でしたが、最近はどんどん自然体になっていますね。メンドクサイので早くくっつかないでしょうか。
「んー……じゃあ”期間限定”とか?」
「泣きますよ」
「日本人は期間限定って言葉に弱いって……ならもうシンプルに”れい と めい”とかで良いじゃん」
「何ですかそのカステラを焼きそうなネーミングは……いえ、でもアリかもしれませんね」
「え?」
橿原さんは紙に何かをさらさらと書きつけて掲げました。新しい元号を発表する時みたいなモーションでした。
「『
「へー」
「黎明だけでは重複が多そうなので”
「なにそれ」
「SF小説のパクリです」
「ほーん」
樟葉さん……自分たちのパーティーの話ですからね? すごく関心なさそうですけど。
「いやーめでたい。ようやくパーティー名が決まったねぇ。これは祝い酒の時間だ!」
「もう呑んでるでしょう」
「そうだった! あっはっはっは!」
「登録してきます」
橿原さんが登録の窓口に向かう――途中でこちらに寄ってきました。彼女はちょっと小声で、しかし嬉しさをにじませて言いました。
「おかげさまでパーティー名が決まりました」
「うまくいきましたね。臨時のパーティーを臨時でなくす作戦」
「次もこの作戦でいきます」
「次」
次……って
「では失礼します」
「またおこしくださいね」
ぺこりと会釈をしてから橿原さんは別の窓口に向かっていきました。
「すみませーん、鑑定良いですか? ちょっとよく分からないアイテムドロップしまして……」
「良いですよー、カウンターに出せますかー?」
仕事ですね。
黎明記機械のおふたりのことは気になりますが、気にしなくてもその様子は耳に入ってくるでしょう。
楽しみですね。
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