第10話 ボスがいないダンジョン4



 結論をいうとダイダラボッチの伝承はあった。


「まさかドロップに土が混ざってるとはねぇ」


【イロカネ】ダンジョンの武者型モンスター、金属類のドロップばかりに目がいってたけど、よく見たら金属と一緒に土も地面に散らばっていた。


 ひと握り分くらいかな。おまけに山頂付近の個体からまれにだけ。周りの土と比べるとちょっと乾いてるかなぁ、くらいの差異しかない。


 手にすくってみるとウィンドウが出て、ようやく”ダイダラボッチの土”と表示されるときたもんだ。分かるわけねーよこんなもん。

 あ、ちなみにその辺の土を手に取ってみても”土”としか表示されなかったよ。


 チャック付きのポリ袋に”ダイダラボッチの土”を採取しつつ、橿原かしはらちゃんが言った。


「これどうしましょう」


「使い方までは分からないな。鑑定してもらえば何かわかるかも」


「そうですね」


 ”ダイダラボッチの土”が入ったポリ袋が橿原ちゃんの手から消える。ストレージに収納された。



 その瞬間だった。



「「!!」」


 ドォ! という衝撃音と共に、空に波紋が広がって世界が紫色に塗り替えられた。太陽は無くなったのに視界はあって夕暮れみたいだ。


 そしてたくさんの気配が出現した。明らかに囲まれている。橿原ちゃんのキツネみみもせわしなく動いていた。


「囲まれています」


「みたいだねぇ」


「大きいのがいます。1体」


「りょーかい」


 木々の向こうからガサガサと音がしたと思ったら、すぐに何十体もの武者型モンスターが現れた。


 だけどいつもと様子が違う。顔が白布で隠れていなかった。


 素顔はおめんで見る鬼のような顔をしていた。牙もあるし、あと両眼が赤く輝いていた。お怒りのようだね。

 ”ダイダラボッチの土”をストレージにしまうとダンジョンから持ち出し―― 盗み出した判定になってこの戦闘が始まるのかな。


 それから。



 ズシン――。


「お前が親玉か」


 木々をなぎ倒して巨大な武者型モンスターが現れた。他の武者型と同じで激怒げきおこモードだね。あと腕が4本になってる。でもこいつがダイダラボッチっていうわけじゃなさそうだ。


「九尾!」


 スキルで九尾を呼び出す。いなくても何とかなりそうだけど、さすがに数の暴力で安全マージンが少ないからね。


 上空から光線が降って、積み重なって九尾が現界する。


「む? 呼ばれたのか? 供え物は用意してあるんじゃろうな?」


「あとで飲み放題に連れてってやるよ」


「飲み放題? なんじゃそれは」


「酒が飲み放題なんだよ。時間制限あるけどな」


「なんじゃそれは! ぜひ試してみねばならんのじゃ!」


 相変わらずナイスバディで色っぽいお姉さんだ。今日は酔ってないっぽい。やる気出してくれたみたいで良かった。っていうか気力を消費して召喚するのにさらに対価がいるんかーい。


「誰ですかその女!!!!」


 橿原ちゃんが聞いたことないくらい大きな声出してた。


「後で説明してもらいますから!!」


 うーん、橿原ちゃんのボルテージが上がってしまった。武者型モンスターも強化されてるんだろうけど、本気モードの橿原ちゃんには粉々にされちゃうかな。


「オレがデカいの相手にすればいい?」


「どっちでもいいです! ハチの巣にするだけです!」


「じゃあそういうことで」


 メインウェポン――大剣を取り出してスキルで属性を付与する。自分にもバフをかけて準備完了だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る